加山リス
青い空、白い雲、緑色の芝生
バスケットを手に持って花柄のワンピースを着てたっけ・・
透き通るような時間の中で聴いてあげたい話、喋らせてほしい話。
いっぱい、いっぱいあるんだよ。
ねぇ・・今どこ?
すっかり辺りが暗くなってしまって少し足早な帰り道。
結局竹本からはそれらしい情報を得られないまま今日は解散することになって、やりきれないモヤモヤを胸の中に抱えたまま、住宅街を歩く。
窓の隙間から入る灯りが家族の団欒が見える。
(今あの家には家庭があるんだよね、うちにも家族が居る・・香織は?)
今回の事件に巻き込まれてしまったのか?
(暗い場所に居るの?寒くない?お腹空いてない?)
とてもじゃないけど、このまま帰って普通にご飯を食べる気になんかなれないよ・・。
「やっぱ、納得いくわけないじゃん・・」
・・・・・
・・・・
・・
・
『ピーンポーン・・ピンポンピンポンピンポン・・』
道を引き返して香織の住んでいるマンションの前で久しぶりのハイパー連打を繰り広げてみる。
(出ない事は分かってるよ・・でもね、このままじゃこっちも引き下がれないんだよ!)
『ピーンポーンピーンポーン・・』
「あ、貴方何してんの?」
「へ?」
目の前には人が立っている。
白いカーディガンに、学校指定の紺ハイソックス、夜の灯りに照らされるユルふわのボブヘア。
「取り憑かれたようにチャイムを鳴らして・・大丈夫?」
興奮し過ぎて、その猟奇的な行動に気づかなった私に恐る恐る話しかけて来たのは、まさかの梅原さんだった。
「あっ、その・・香織の家に入りたくて・・」
「あぁ・・そうなの?でもここら辺のマンションはセキュリティーが厳しいから多分朝までやっても無理だよ」
何となくは悟ってた事、でも第三者に言われると”本当にそうなんだな”と諦めモードになる。
「取り敢えずこの辺人通り多いし、変な目で見られると大変だからもう行こう?」
『グイ・・』
梅原さんに腕を引っ張られて香織の家の前を後にする。
赤・橙・白・黄色・緑・青・・・
ここは十階建てくらいの高層マンションが立ち並ぶ住宅街で、七時を過ぎると四方を囲む建物から備え付けのオレンジ色の照明やら、蛍光灯を点けた部屋の灯り、カーテンを通して移り変わる色やらが輝いて夜なのにとても明るい。
車の通りも多くオシャレなレストランが立ち並ぶ表通りも年数の経った汚れがコンクリートに染みついた日陰の裏通りも細かく色彩が差し込んでくる。
『ガタン、ゴトン・・・』
そのまま電車が通る高架線の下を通り抜ける、錆付いたガードレールを蛍光灯が照らす。
黄色がかった光の中を駆け足で抜け出すと商業施設へと抜ける広いデッキに出た。
コンクリートの橋の上を歩くのはスーツに身を固めた商社マンやら自分たちと同じ様な学生さん。路上に座りながら絵を描いている画家に、アコギを弾いているインディーズアーティスト。
思い思いの時間を過ごしている人混みに紛れてしまった。
此処に居る人達からしてみれば、香織や私達の事なんて誰も知りえない他人事。
逆に私はこの人たちが何故絵を描いて、何故歌を歌っているかを知らない。
すれ違うごとにお互い通行人Aに名称が変わっっていく。
さっきまで走っていたマンション街が柵の向こうにぼんやりと見えて、後ろ側の柵のすぐ奥には雑貨ビルがたくさん立ち並び音楽ランキングを映し出す巨大モニターの灯りに照らされている。
「ったく・・どうしたって言うのよ、急に」
少し息を切らした梅原さんが足と止めて商業施設側の柵に肘かける。
「ごめんね・・でも、その・・」
「ん?」
これ以上香織の話を大ぴらに広げたくはない。
”もっと言えば香織が死亡した話なんかもう耳に入れたくない”
「それとも私がどうかしてるのかな・・ねぇ、梅原さんっ!」
不安で不安でこの気持ちを梅原さんにもわかって欲しくて、つい腕にしがみ付いてしまった。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。前から変な人だとは思ってたけど、貴方いつもに増して変よ」
「!!?っ」
冷静なツッコミを入れられて我に返った。血の気が引くほど罪悪感と恥かしさで胸がいっぱいになって梅原さんの顔を上手く見れない・・。
「あぁ、ごめんっ痛かったよね・・」
強く握ってしまったブレザーを急いで離すと梅原さんに溜息を一つ吐かれてしまった。
「で、桃園さんがどうかしたの?」
(梅原さん・・聞いてくれるんだ・・)
周りのガヤをかき分けて私の耳に入る梅原さんの声は聖母の囁きにも聞こえる。
「実はあのね・・みんなの記憶と私の記憶の中の香織が入れ違っちゃてるというか・・・」
「・・・・はい?」
梅原さんは若干憐みにも似た表情でこっちを見つめている。分かる、普通はそうなるよね・・。
「ごめんねっやっぱ私、変人だからさぁ・・あはは」
梅原さんの身になってみれば、その優秀な神経をすり減らして喧嘩をした相手がこんなんじゃ報われないでしょうに・・でも此処で気まずさに負けて嘘をついて逃げるわけにもいかないし・・。
(もうどうしたら良いか分かんないよ)
・・・・・・・
「はぁ・・」
また、梅原さんからため息が一つ出た。
「・・それにしても、記憶って何の記憶よ?」
・・・・・・・
きっと、ドン引かれて終わるだけだと思ってたのに・・今日の梅原さんは妙にさっぱりしている。
「・・変な話だと思わないの?」
「っいや、思うよ。そりゃあ変人の変な話だよ。でも貴方ねぇ、そこまで変な話を聞いてそのまま『そっか、じゃあまた明日!』何て言えるわけないじゃない!」
さすがは我がライバル、歯に衣着せぬ物言いだ。
「で・・その記憶のズレのせいで桃園さんが住んで居るのマンションの前に張り込んでたんでしょ?何の記憶よ!?」
「えっと・・」
このデッキの上を歩く人たちは”リアル”という世界の上を歩いている集団。
その中でチンプンカンプンな私の話を梅原さんは感慨深く聞いてくれている。因みにもし、これを聞いているのがうちの親だったら泣きながら私を施設に入れているかもしれない。
「あのね、香織が・・」
本当はもう言いたくない・・
「何?」
「香織が・・」
こんな事・・・
「早く言いなよ」
「その・・」
「ほら、はやくっ」
”香織が死んじゃったって記憶は私には無いし、数日前まで一緒に居た記憶が皆には無い”
やけくそに放った声が巨大モニターから流れる音声と重なって外には漏れなかったけど、間違いなく梅原さんの鼓膜の中には入った。
「・・貴方、本気?」
言った事に対して気持ちの整理がつかないまま、その返答をもらって更に頭が真っ白に・・。
「・え・・・・その・・」
助けを求めてチラチラと周りを見ても誰も目を合わせてはくれない。
そうしている間にも梅原さんは『何を言ってんだ?』という顔でこっちを不思議そうに見続けてくるから心が痛い。
「いや・・ごめんね。今のは寝言くらいに思って聞き流してよっ!でも、香織は生きてるのに・・」
「貴方ぁ、寝ぼけてるようには見えないけど。今更、香織さんの生死って・・そんな事もわからないの!?」
柵から手を放した梅原さんは冷徹な表情でどんどん近づいてくる。
(ひゃっ、恐い!)
そのままビビる仕草を無視して私の顔を覗きこんでくるから余計ビビる。
「桃園さんは生きてるでしょ?」
「・・・へ?」
予想して無かった梅原さんの返答に諦めかけていた頭はまた真っ白になった。
「『へ?』って・・そんなデマ、からかわれてたとしても真に受けじゃだめじゃない!・・それとも桃園さんに何かあったの?」
”この言動・・梅原さんはまだ妖術に掛かってない!?”
「うぅ・・梅原さん!・・」
ちょっとでも心が通じた気がして嬉しくて。
『がばぁあああああ』
嬉しくて、この喜びを分かち合いたくて、梅原さんを思いっきり抱きしめてしまった。
「ちょ、ちょっとぉお、っもう、何なのこの人は!?」
「あ、ごめんねっ!」
またまた、梅原さんの腕をそっと放す。彼女はブレザーの裾を正すと一息ついて冷静な眼差しを見せた。
「取り敢えずこういう話はあまり良い事とは言えないから、今日はここまでにしましょ。明日また様子を見てから考えるべきだわ」
「そうだね・・あれ?そういえば・・」
「なに?」
梅原さんは片方の眉を上げて腕を組む。
「今日は休みなのに制服なの?」
スクールバックまで持って、まるでさっきまで学校に居たかのような出で立ち。
「あぁ、サッカー部の練習あったから・・マネージャーの仕事してそのまま塾に行ってったんだ」
私とコカトリスがぐるぐる街を回っている間にもこの人は自分の将来のために頑張ってた。
(そうだ、隣町のデパートに遊び行っている間も、この人はずっと迎え来る現実と戦ってたんだ)
「じゃあ、良い時間だし私帰るね。また明日」
彼女の向けた背が通行人の波に紛れていく。
「梅原さんっ!!」
私の声が思ったより大きく出てしまい人混みに紛れかけた背中が”びくんっ”と震えて振り返る。
「な、何!?」
「ありがとうねっ!!気持ちが楽になったよ」
多分聞こえてるんだろうけど恥かしかったのか?梅原さんは無視して去ってしまった。
それでも手を振って見送ると何人かの通行人は不思議な目で私の方を見て来るがすぐに目を逸らす。
この人達ともどこかであってれば知り合いになってたかもしれないし、逆に言えば香織達とも出会いがすれ違っていればこんな風に通行人A同士で通り過ぎて終わってたことだろう。
ふとっ巨大モニターに目を通すと『桜前線北上中』とテロップが出ていた。この町にももうすぐ満開の花が咲く。
(香織を助けてお花見に行くんだ!)
そのまま手すり越しに悪の巨塔の様なマンションを睨みつけた。
・・・・・・
・・・
・・
・
「小春助けて・・・」
目の前の暗闇から声がする
「その声は・・香織?」
「小春・・」
うっすらとした意識から自分を取り戻して確かに感じる香織の声。
「香織っ!どこ?・・ねぇ、どこに居るの!?」
暗い闇を進めど進めど声に辿り着かない。
・・・・・・・
ガバぁあっ
「ゆ、夢オチ!!?」
明るく光の射す窓、温かい毛布、あれから帰ってすぐに寝てしまった。
夢でも都市伝説でも何でも良い。会えたのならそれだけで良いよ・・・
ただ・・そこは寒くない?恐くない?
「小春」
「え?」
朝も早くからコカトリスは冷静に窓の外を見ている。
「お主、大層うなされていたぞ。悪夢でも見たか?」
「ううん、大切な夢だったよ」
それでも尚コカトリスの背中は重い。
「こうしてる間もこの町は汚染され、此処の居場所その物が悪夢となり始めているが・・主の心にはまだ聖地があるというのか・・」
「ぷっ」
(なに、このセリフ回し・・・コカトリスも中二病?)
「な、何がおかしい!?」
「ううん、ごめんね」
中心に聖域を構えて大切なものを護ろうって事かな?
「私にとって、その聖地って場所も皆と居る他の場所も一緒、だから嬉しいときは一緒に嬉しくなる場所だし、汚れる時は一緒に汚れるし、壊れる時は一緒に壊れるよ」
「・・それは依存か?」
「ううん、一人立ちして行けるように一人で考えた結論です!今までの関係が見えなくなって、逆に見えるようになった糸みたいなものに気づいたんだ。だから」
「・・・・・・」
コカトリスが呆気にとられたように見て来る。開いた口・・というかクチバシがふさがらない状態。
「・・ほう、お主は何というか・・こう、新しき考えに出会った様だな」
「ふーん・・こういう気持ちは最近生まれ始めたのかな?コカトリスに会うまでは嫌われたくなくて周りに合わせるだけだったのに、不思議だよね」
「女児の成長とは実に早い物・・」
頷くコカトリスの前、パジャマ姿で人生論を語っている間に時計は登校時間を蝕んでいる。
「あっ!肉まん、肉まん!」
急いで着替えてまたいつもの日々に戻る。この”いつもの日々”という物も何だかんだ言って捨てがたいのです。
・・・・・
・・・
・
「無い・・」
肉まんはある・・。
でも、そこにいつもの風景がない・・・。
教室から香織の机が無くなってしまっている。
仲間が奪われた事に気づかずにみんな平然とした顔でくつろいでいる光景・・・。
「く、」
『じりっ・・』
思わず拳にも肉まんを喰わえる口元にも力が入る。
『ポンっ』
「?」
「やめとけ」
肩を叩いて制止してきたのは竹本だった。
「奴らには記憶が無いんだ。その事を責めたって溝が深まるだけだ・・こいつ等もまた、被害者なんだよ」
確かに竹本の言う通りだ。許せないのは・・えっと、來来?・・あれ蓬莱軒だっけ?
「そうだ、私達はあんなラーメンまんに負けちゃいけないんだ!ねぇ竹本!!」
「・・いやっ、『ねぇ』じゃねぇだろ!何が”ラーメンまん”だ、馬鹿たれ!!」
『バシっ』
「痛てっ!」
小春基地を竹本ミサイルに襲撃された。
「・・・・」
取り分け深い意味は無いやりとりだったけど、松野君が無言で私たちの前を横切る。
「!!」
いつもならあのにこやかな笑みを見せくれたはずなのに・・最近ずっと見れてない気がするのだ。
(私がみんなを傷つけて・・)
『バシっ』
「痛てっ!」
「らしくねぇ顔してんじゃねぇよ」
また小春基地は襲撃をうけた。
「らしくないかな?」
「お前がそんな顔であいつが帰って来られるのか?」
竹本が鋭い目つきで松野君の背中を追う。
(小春基地みたいな所でも来てくれるならありがいけどね)
そのまま松野君が出て行ってしまった戸口を見つめ続けた。
・・・・・・・
・・・・
陽が教室の真上に上がり町全体を照らす頃、友達とお昼ご飯を食べる事になり机の位置を改造していた。
購買の菓子パンにイチゴ牛乳、これが青春のソウルフード!と自分に言い聞かせて焼きそばパンを頬張る。
「ねぇ小春、この間梅原さんと派手にやりあってたけど・・あれって松野君の事?」
「ぶふぅっ!」
びっくりして思わず焼きそばパンを吹いてしまった。
「ちょ、小春汚い」
「ご、ごめん・・」
まぁ、あの時廊下に呼んだのも言い争いの形をとったのも全て私自身の招いた事なのだから今更どう言われても仕方ないけど。
「でさ、でさ、っその後どうなったの?」
机を乗り出してくる乙女パワーにたじたじ、同い年なんだけど・・
「どうって・・特に何も・・梅原さんとは平行線だったし、松野君には気まずくて行けなくなっちゃったし」
そう、私の中での自己満足という精神論が動いただけで実際は何も動いていないのかもしれない。
「えぇ?じゃあ結局このまま梅原さんに譲っちゃうの?」
「・・・そう言う訳じゃないけど・・」
譲るも何もそんな権利を発動させる身分じゃないのでこのままひらひらと舞う桜の様に時に身任せるしかない。
食の合間に桜餅を頬張ると、もちもちした弾力の中に甘さ控えめの餡によもぎの香りが混じった上質の外生地が合わさる。
「これだよ、これ!青春の黄金比」
「・・んで小春?どっから桜餅の話に切り替わったの?」
感激しながらもぐもぐと食べて話を逸らすが、周りの友達は思うように逃がしてくれない。
「ゴホン、もうワタシから話す事は何も無い。主らは免許皆伝じゃ」
取り敢えず漫画で見たインチキ師範代と同調してみるがそれじゃあ問屋が卸してくるはずも無く・・・。
「あんたが免許を取らない事には話が前に進まないでしょうが」
「う・・うん」
逃げ場を失い、目のやり場が無く困っていると丁度教室のドアが開いた。
「桜さんは居る?」
「あ、梅沢さん!」
「・・・梅原よ!!」
このチャンス、逃す訳にはいかない。地上げ屋から夜逃げする時に逃げ込む寝台特急並みの勢いで廊下へ飛び出た。
「ナイス梅原さん!っで、今日はどうしたの?」
梅原さんは呆れて手を額に当てている。
「貴方ねぇ、昨日あんだけの相談しといて『どうしたの?』は無いんじゃの?」
「・・!なるほど、ごめんね!・・って梅原さん昨日の事を心配して来てくれたの?」
今度は頬を少し赤らめて視線をきょどらせているが、思っていたより親切というか律儀な人。
「だ、だってさ、またマンションの前であんな連打されたら焦るじゃん」
(ツ、ツンデレ!!)
松野君には積極的だったのにこんな照れる人だったとは・・思わずこっちも百合イズム。
「桜さん??・・な、何よ。何なのよデレデレ見ちゃってさ。そんな事よりも桃園さんは来てるの?」
私が首を横に振ると桃園さんは教室の中を覗き込んだ。
「机は?桃園さんの机が無いじゃない!」
辺りを詮索して驚く梅原さん、しかしそれと同じくらいクラスの仲間も彼女の様子に驚いている。
「桃園って確か去年・・」「梅原さん勉強のやり過ぎで頭おかしくなったんじゃね?」「いっちゃてるよあの人、ファンだったのにショック」・・ひそひそと聞こえてくる野次にも臆せず彼女は教卓の前へと躍り出た。
「ちょっとアンタ達、クラスから仲間が居なくなって何でみんな平然としていられるのよっ!」
突然の怒号に増々ざわめく教室の中で凛と佇んでいる姿は勇ましいが、そんな梅原さんの目の前に大きなシルエットが立ちはだかった。
「・・・?貴方は?」
「竹本」
予期せぬ展開だが竹本的には朝にわざわざ穏便に済ませようとしていた計画が台無しになってしまったので怒っているだろう。
「私に何か用?」
「あんたこそ何の様だ?べらべらと訳のわかんねーこと言ってんじゃねーぞ?」
『ダンっ』
梅原さんが教卓を強く叩く。
「ふざけないでっ!なに?そろって集団いじめ!?下らないワル知恵働かせる余裕があるんだったら今度の模試の予習でもしたら?」
「あぁ?てめーこそ、かまってちゃん治しに幼稚園からやり直して来いよ」
お互い眉間にシワを寄せたまま微動だにしない。
「あ・・あのう・・」
「「黙ってろ!」」
「ひぃっ!」
付け入る隙が無いが、この二人の暗雲の呼吸・・実は気が合うのではないだろうか?
「おい桜、このガリ勉ブスに『お前はきちがいだ!』って言ってやれ。
何でもかんでもブスで解決しようとする彼の脳回路が一番ブサイクな構造なのだが、竹本もここまで言うとなると相当梅原さんのペースに引っ張られて動揺しているみたいだ。
「桜さん、貴方はこのクールに見せかけたネガティブインテリを愚かしく感じない?エセよ、エセ!」
”ガリ勉ブス”に”ネガティブなエセDQN”ならどっちも同じくらいのレベルだと思うのだけれど・・・。
「取り敢えずここで喧嘩をしたところで香織は喜ばないよ」
「「うっ」」
・・・・・・。
今まで火花を散らしていた二人が急に沈火した。
「ま、そうだな。桃園の名誉のためにここは一旦引いてやるよ。・・・だが決して俺は間違ってなどいない」
「わ、私だって桜さんが困った顔するから空気を読むために退いたのよ。ガリ勉は合っててもブスは撤回してよね」
(ガリ勉は否定しないんだっ!?)
「――――――――――」
「――――――――――」
オチのついた喧嘩が終えても次から次へと混乱続きのガヤガヤした声に追い出されて梅原さんは教室を後にしようとする。
「あ、梅原さん!」
「?」
「毎回助けられちゃってごめんね・・でもありがとう」
何かと面倒見が良く、リスクを無視して熱くなれる梅原さんが少し羨ましい。
「な、何言ってんのよいきなり。もう行くからね バイバイ・・」
『バキぃ』
「痛てっ!」
こっちに意識を取られたせいでドアにぶつかり、恥かしさに顔を赤くしたまま急いで去って行ったが今の一部始終を眺めていた友達は目が点になってしまっている。
「梅原さん勉強のやり過ぎでおかしくなっちゃったのかな?」
首を傾げるクラスメイト、数日前までこの机の輪の中に香織も居たのに・・・
「・・いや・・おせっかいなだけだ」
通り過ぎ様に竹本が呟き、何事も無かったかのように席に座る。
友達の目は更に?マークが大きくなったけど、私は素直に嬉しかった。
・・・・・
・・・
・・
夕暮れ時、今日はサッカー部の練習は休みで松野君は知らない先輩と帰ってしまって既に居ない。
少しは話をしたかったけど居ないものはしょうがない、一人で帰ろう・・
「桜さん」
「あ、梅原さん」
帰ろうと思ってたけど、その肩を引き止められる
「あたし今日さ、塾が休みなんだ。折角だから途中まで一緒に帰ろ」
物珍しい誘い、何かしら深い意味があるのかも知れない。
夕暮れに染まるアスファルト オレンジ色に染められる桜の花びら もうこの季節も中盤へと差し掛かっている。
「梅原さんと帰るのは初めてだね」
「・・・・」
(梅原さん、黙り込んじゃって・・どうしたんだろ?)
こういう時、話を聞こうと乗り出すべきか?知らないフリをして逃げるべきか?実に微妙な空気を晒している
「桜さん、あのさ・・桃園さんの事なんだけど」
「え?」
やはり今日の昼休みの事がショックだったのか?
無理もない、常識が通用しない事態に巻き込まれれば普通で居る方が無理ってもの。
「その・・死んだって嘘だよね?」
「・・っ勿論だよ!」
不安そうにしていた梅原さんがゆっくりとその胸を撫で下ろす。
「そっかぁ・・良かったぁ! でも、何で記憶に相違があるんだろ?」
覚えている理由は凌霄の念が私達に取り巻いていて他の邪念が入って来れ無かったからだけど・・梅原さんは凌霄に会ってないのに一体何で・・?
・・・・・・ん?待てよ・・”うめはら?・・っ
「あっ!!」
突然喉の奥から出してしまった声に梅原さんは肩を震わせた。
「な、な、な何!?」
「分かっじゃ!!!」
興奮しすぎて噛んだ
”凌霄は梅原千里の念が形造った思念の転生体”と竹本が難しい事を言っていたけど要するに千里さんの心が形になったって事でしょ。
そして千里さんの子孫が梅原美香さんだとしたら彼女自身も間接的に何らかの念に包まれているのかもしれない。
(恨み、憎しみ?・・いや違う)
思い出される記憶は凌霄が消え行く直前に見せた柔らかな笑顔。
「そっかぁ」
「貴方はそうやってさっきから・・」
梅原さんが少しイライラしている様子、逆にこっちは謎が解けて来て爽快である。
「梅原さん、愛されてたんだね!」
「はぁ?誰から?」
「ん?ふふふ、天使からだよ!」
きっと凌霄自身も未だ気付いてなかったんだ。
直接生まれた子では無くても遠い孫娘の存在が嬉しくて、漏れた念の中の一部が梅原さんをも取り巻いていたという咲耶との出会いみたいな感じ。
でも、一連のやり取りを知らない当人は痛い物を見るような深刻な顔で私を覗き込んでくる。
「天使?桜さん・・貴方、熱でもあるんじゃないかしら?」
下を噛んでしまうくらい加熱した発言に梅原さんが私の額に手を当てて来た。
「だ、大丈夫だよぉ」
「でも、春は気を抜くとすぐ風邪ひくんだから」
この場合は昨日の敵は今日の友という言葉がふさわしいのかな?
(梅原さん・・最初の印象と違う・・・)
何だかんだ言って心配してくれているこの優しさはきっと千里さんの遺伝。
これは恨みの念に取り巻かれている悪人の考え方じゃなくて”愛情”に包まれた善人の考え方・・なのかな?
「ふふふ、ありがとう」
なんだかおかしい。 いや嬉しいんだね、
「あぁ、熱は無いけど貴方が変なのはいつもの事だもんね」
私はこれが普通だけど周りの言う”変”を取り除いたら今までの出会いは・・今の出会いは無かったのかも知れない。
「ふふふ・・・」
「え?何!?桜さんっやっぱ病院行こっ!?」
・・・・・・
・・・
・
何やかんやと歩いている内に日も沈みかけて梅原さんと離れる道に着いてしまった。
「じゃぁ私はここで・・」
「あっ、梅原さん!」
「ん?」
梅原さんは今日も塾らしく、振り返りながらも少し足早に歩く
「その・・今日はありがとう」
「・・・!!何を言ってんのよこの子は、もう・・またね」
そのまま梅原さんは走り出す
『ゴツン』
「痛てっ!!」
途中電柱にぶつかっていた。
━その日の夜、梅原は塾を終え、帰り道の途中で習った関数の応用問題の復習を頭の中で繰り返していた。
「今度の模試、絶対にあのネガティブインテリジェンス(竹本)には負けないんだから!」
今日のやりとりをよっぽど腹に据えかねていたのか、来週に控えた学力テストに余念がない様子だ。
「y曲線が点Pの隣を・・ぶつ・・ぶつ・・」
『ガサガサ・・』
近道に人気の無い公園を歩いていると四、五人の若い不良たちが取り囲む。
「な、何ですか?」
「いやぁ、夜道を女子高生が一人で歩いていると危ないなって・・送って行ってあげるよ」
家の逆方向を指さす不良たち。
「ベタね、この私を口説くならもっと知的でおしゃれに言ってよ・・まぁ、タイプじゃないから誘われても断ってたけど・・」
柄の怪しいメッシュシャツを着たB-BOYもどきのヤンキーにダボダボのジャージを着て金ネックをぶら下げたヤクザ関連のチンピラ数人に絡まれても梅原はいたって気丈である。
「んだとぉ?てめぇ、ちょっと事務所来いこら」
不良の一人が梅原の細い腕をガシッと掴む。
「嫌、ちょっと離してよ!」
「るせぇ!もう、ここでやっちゃおうぜ!」
強引に男たちは梅原を公園の奥の土管の陰に連れて行こうとする。
「助けてっ!」
「黙れっていてんだろ」
『ドスっ』
「きゃ!!っ」
男たちに吹っ飛ばされた梅原は土管に頭を打ち付けて気絶してしまった。
「さて、どうしてやろうかな!?」
「ってか、こいつのさっきからのセリフ回し処女っぽくね!?」
下劣な言葉を目の前でぶつけられても梅原は一向に起きる気配はない。
「初めてを頂いちゃうわけですか」
男たちは梅原の白いふわふわのジャンパーをはぎ取りながらじゃんけんをしていた。
「おっしゃ、俺が一番か!それでは、いっただきまぁーす」
その時、公園が殺気立つ。
『ゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオ』
「な、何?おい何のお音だ!?・・・あああっ!!」
巨大な地響きと共に地面から這い出て来た巨大なツルが物凄い速さで動き始める。
「おお、オイっ何かヤバいって!」
『ビュンっ』
ツルは肉眼では確認出来ない速度で不良の一人の溝を打ち込んだ。
「グヘっ!」
「けんじ君っ!!」
その”けんじ君”と呼ばれる男は五メートルくらい吹っ飛びそのまま蹲まって動かない。
「ななな、何だこれ!?逃げろ、逃げろ」
男たちは皆”けんじ君”を置き去りにしたまま走り去ろうとするが、複数のツルが取り囲みそのまま薙ぎ払う
「ぎゃあああああああああああああ」
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
「・・・・ん?」
それから数十分後、頭を抱えながらもやっと梅原が目を覚ます。
「痛ててて・・そう言えば・・私・・柄の悪い男たちに・・っ」
意識が完全に戻った梅原は急いで身構えるがジャンパーが少しはだけているだけで乱暴された形跡が一切ない。
「あれ?なんで!?」
身がまえる梅原の意志とは裏腹に男たちが全員気絶して微動だにしないのだ。
「・・取り敢えず、警察に連絡か・・・」
そのまま不良たちは通報され、駆け付けた警察達に取り押さえられるが皆怯えている。
「ツルが、大きなツルがぁあああ」
「植物が俺たちを殺しに来たんです」
・・・・・・・
「何訳のわからない事を言っている!さてはお前たち、薬にも手を出したのか!?」
これから厳しい取り調べが待っているであろう背中を見送った梅原は夜空を見上げると、空は曇り掛かっているが月の光が雲の隙間から溢れ、まるで後光が差しこんでいるかの様である。
「私・・神様にでも助けられたの?」
あり得ない事態に動揺するがその時、夕方に小春と喋った会話を思い出した。
”梅原さん愛されていたんだね・・・天使からだよ”
「・・・明日、桜さんからまた話を聞かないとね!・・・でも、取り敢えずは」
梅原が辺りを見回した後、恥かしそうに手を合わせて月を見る。
「天使様、ありがとうございました」
合掌を終え、呼吸の整った梅原は迎えに来た両親の車の中で恐怖心を掻き消すために再び関数の復習をしながら妙な温かみに触れていた。
・・・・・・
・・・・
・・・
・
一方、月が街を・・人間界を包み込むような夜更け
小春は部屋を暗くしてベッドに入るも寝つけずに居る━
・・・・
(うぅ・・眠れん、これはコカトリスを道連れにしてやろう)
ゴロンと一回寝返りをうってうつ伏せになってみた。
そのまま枕元であぐらを欠いているコカトリスを見つめると、窓越しに月の光に照らされて何だか神々しい
・・というか、元から神の使いか・・。
「ねぇ、コカトリス。起きてる?」
「寝た」
答えているし、目は開いているし、なんと適当な受け流し。そんな子に育てた覚えはない!
「もーう!コカトリスが私にそんなあしらい方をするなんて10年早いんだから!!」
「こっちはお主が生まれる何百年も前からいるのだ。桁が違うだろう」
言われてみればそうだ・・ずっと昔、咲耶がいた頃・・コカトリス自体が加山の前から居たとすればもっと、もーっと前から存在していたわけだ。
「ねぇ・・コカトリス・・」
「・・・?」
姿勢を変えずに視線だけをこっちへ向けてくる。
「そのさ・・天国ってどういう所なの?」
「あぁ?」
突飛な質問だったのか、コカトリスは首を傾げて、険しいというか複雑な表情をしている。
「だってさ、今まで変なハプニングが重なって聞く機会が無かったけど、やっぱ気になるじゃん」
昔の時代、天国、現代 コカトリスはどっから来て、どこへ行くのか?
何処が好きで、誰が好きで、何を楽しみに生きているのか?
私は何も知らない・・
身近過ぎて何も知らない・・
「さほど変わらんよ」
「え?」
あまりにそっけない返答に枕に顎を打った。
「竹本から聞いたかもしれないが神様は命の象徴だから具体的に何かをするという概念は無い。その代わりにこっちで言う大統領や総理大臣の様に秩序を守る頭首が居てそれを補佐する大臣が居て国を統治する。清らかな秩序を保つために日夜全力で業務を徹底順守するが、実際の所は人の見方で十分変わる世界だ」
「・・?どういう事?」
「愛、平和、平等、安らぎ、道徳的倫理観が揃った世界・・それしか無い世界・・何が見える?」
月に反射するコカトリスの眼はやっぱ険しい。
(何が見えると言われても・・・)
「・・・そんな事を急に聞かれても、想像力に欠けるから何も見えないよ」
「そう、その通りだ」
その眼は天国を何百年も見て来たのか?見据える眼球が遠く感じる。
「その通りって・・何が?」
「お主、光を知るためには何が必要だと思う?」
さっきからぶっ飛んだ質問ばかりだ。こういうやっかいな質問事項は前もって事前報告しててもらわないとマジで困る。
「何って、いきなり言われてもわからないよ・・」
「そう、その通りだ」
この鳥魔獣はさっきから黙って聞いて居れば焦らしに焦らして。
「もぅ!どゆこと?」
「わからないから生まれて来るんだ」
テストで解けない問題があるから勉強をする・・そういう事だろうか?
「小春、今この部屋の電気を付けたらどうなる?」
「え?・・っと、取り敢えずふわぁっと明るくなるかな?」
「そうだ、何故明るくなったってわかる?」
もしも竹本だったらきっとここで直列回路の計算とかを始めるかもしれない・・でも私にそんな能力は無いから感じるままに答えるしかない。
「明るさに気づいたのは、この部屋が真っ暗だったから」
「御名答だ!天国も同じ原理で動いている。愛情や安らぎが溢れる世界で過ごすにはその価値を知らねばならない。その価値を知るには、逆の意である辛い事や苦しい事も溢れるこの世界で修業をして学び取る必要があるのだ。そうして摩耗され格式の上がった魂は凌霄の様に守護霊になったり、自然の摂理の一部になったりして、時間を経て愛情に対する気持ちを確認したくなったら現世へ再び戻る」
直列回路と言わなくて本当に良かったと思いながらも、確かに愛や平和だけが溢れる理想の世界なら人間の感情としては逆に不完全なのかもしれないと感じる。その反対の感情を知りながらも乗り越えて来い!という事だろう。
「だからその試練を乗り越えられなかった者、又はその考えに賛同出来なかった者は天国には来れずに現世を何度も彷徨うか地獄へ行くかのどっちかだ」
「地獄もやっぱあるんだ・・恐いな」
針山とか血の池とか想像するだけでも嫌だもの。
「まぁ、地獄に行くってばよっぽどだな。かなりの悪行を働かない限りは辿らない道だ」
「こっちでいう凶悪犯罪者とか?」
「あぁ、そうだ。勿論天国にも居るぞ。某はそいつを追いかけてこの世界へと参った」
天国に居た偉い人が悪堕ち何てするのものなのか?
「どんな人?」
「某と並ぶ階級を持ったの神の使いでな、総合能力で言えば奴の方が強いかもな」
コカトリスを凌ぐ強者って・・
「それってメジャーどころの神様なの?」
「メジャーとは?」
「うーんと、知名度で言うとコカトリスとどっちが有名なの?」
「・・某よりは、あっちが知れ渡っているな・・・」
「・・・・・・・」
(そいつ、色んな意味で濃ゆいな・・)
「じゃあ私も知ってる神様の使いかな?ねぇ、何て名前?」
「・・・奴の名前は”メデューサ”。もともとは大層美人な女神だったが、その美しさ故に神々を魅了してな
既婚の神を寝取った罪を受けて互いに地獄へと落とされたのだ」
・・・・・・・・
(ちょっと待て、何が天国だ!全然現実的過ぎるじゃないか!!)
こっちが人一人と結ばれずに苦しんでいる時に、何人もの男をその手の中に入れて来たという不条理。
まったく、神様が居るのなら見てみたいものだ。
「居たよ!目の前に。ちくしょう、馬鹿野郎!」
「な、何がだ!?相変わらず危険な奴」
結局はどこの世界もしょぼくれたスケベ心を拾った奴が勝つのか?
「お主のその口ぶり・・さては妬みを持っているな?だが、そのような邪推な煩悩は捨てた方が良い。地獄へ落ちた者の運命は・・それはもう悲惨な末路だ」
「えっ?どんな?」
コカトリスの顔を照らしていた月の光が雲に隠れる。
「醜悪な邪念に取り込まれ姿は醜くなり、精神は崩壊する。生きているのか死んでいるのかも分からないまま日々を文字通り地獄で過ごすのだ」
怨念や執念に取り囲まれ引きずり降ろされながら針の山や業火に焼かれ、あらゆる苦痛と後悔に押し殺される恐怖。
「げっ!私なら耐えらんないよ」
「そう、耐えられなかったのだ。だから二人は逃げ出した」
愛の逃避行というよりかは単なる脱獄の共犯だろうか・・
「某の元々の役目は二人を地獄へ連れ戻すための交渉を取り仕切るはずだった。しかしだな、二人とも脱獄するくらいの覚悟だ。こちらの説得に平和的な応じ方をするはずも無く襲いかかってきてな。それは死闘だったぞ」
(コカトリスが死闘ヘもつれ込むとは・・・)
世の中、上には上が居るもんだ!と感心・・している場合ではないけど、あの世も割と物騒な所だ。
「・・あれ?でも今の貴方は元のコカトリスなの?それともコカトリスっぽい加山なの?」
「呼び捨てか!?・・・・・ふぅ、そうだ、コカトリス殿の記憶を持った元加山だ」
「じゃあメデューサと闘っていたのは本当のコカトリス。略してホントリスだね」
そこで傷ついた所に加山十兵衛が現れて契約したのか・・・。
「何だ?ホントリスって・・」
「じゃあ加山リスはメデューサカップルと竹本蓬莱どっちも倒すのか・・大変だね」
「正確に言えばその闘いを阻止するためにここへやって来た」
「・・・・・・」
そろそろ眠くなってきたがさすがに此処で寝たら怒られるだろう。
「・・どうやって止めるの?」
「正確に言えば今、お主の言うホントリスが命懸けで発動した封印の儀によってメデューサも共犯者の羅刹鬼も思念だけで動けない状態になっている。蓬莱がその封印を解こうとしているのだ」
”封印が説かれるのも時間の問題だろう”
いつしかコカトリスが屋上で言っていた言葉が蘇る。
(そういう事だったんだ・・)
「そして、その封印を解くのにお主も関わって居る様だ」
「わ、私も?また知らない内に巻きこまれてる!?」
そろそろ天国からもギャラを徴収しても良いのではないだろうか・・・。
(神様横文字キャラ多くない!?しかもメデューサにプラスして誰だよ羅刹天って、また新キャラ?)
絶対に漢字では書け無さそうな敵、こういう文字の輩は昔からメッチャ強いに決まってる。
っていうか、コカトリスが事実として相打ちになるくらい強かったんでしょ!?
”正直もう、私の手には負えないんじゃないか?”
当たり前の不安が当たり前によぎる。
「・・これからいつ闘いが起きてもおかしくはない。お主もそろそろ休むと良い」
そういうとコカトリスはそのまま頭を下深くげて眠る。
そういえばしばらく話したおかげこのまま眠れそうだ・・。
おやすみなさい・・。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「小春・・小春・・」
「ぅ・・ん?」
周りを見渡すと広がる和花な風景
青い空、白い雲、緑色の芝生
毎年、春になると気が向いた時にバスケット型のトートバックを持って来るピクニック
”(こういうアスレチック要素のあるフィールドはラフな格好が一番!)
フリルのついたピンク色のプルオーバーとロールアップしたデニムで気軽に参上!
「ぬぉぉぉおお、香織ぃいいっ」」
香織がレース付の花柄のワンピースにGジャン羽織って現れた。
「その可愛さにホレボレしちゃったよ!!」”
そんな、会話のやり取りを思い出して芝生の上に立って居る。
自分の服を見ればあの時と同じ服装なのに・・風景も格好も全て同じはずなのに、ただ一つ違う事。
”香織が居ない”
「小春・・」
「・・!っ・・香織っ、香織なの!?ねぇ、どこっ!?」
姿なき声に急いで辺りを見回しても誰も居ない草むらが続くだけ・・。
「助けて・・」
「香織ーーーっ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
『ガバっ』
「香織っ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
静けさに保たれた部屋、陽が窓に入り込まないこの薄暗さはきっとまだ夜明け前。
「夢・・?」
いや、夢なはずが無い。あそこまで確かな声がしたんだから。
だとしたらこうやって私が呑気に寝ている間にも必死になって助けを求めてたの?
「香織・・」
ご飯食べてる?ちゃんと寝てる?まだ寒さの残るこの季節に独りぼっちで凍えて無い?
「香織・・」
まだ・・こんな私の事好きでいてくれる・・・?
「ごめんねっ」
ぽつ・・ぽつ・・雫が
『ぽたぽた・・』
「ごめんね・・」
胸の奥がとても痛い、毛布を握る手の甲に涙が落ちて止まらない。
私は泣き虫だ、今年の春は特にそう・・
この街の桜に蕾が出来てから咲くまでにもう何回の涙と鼻みずをたらしてしまったのだろう・・。
こんな顔じゃ竹本にブス扱いされても仕方のない事なのかもしれない・・。
「・・ぁん?小春お主・・」
コカトリスの声がする、こっちを見ているのかな?実際のところ涙で目の前が良く見えない。
「どうした?どこかを痛めたのか・・?」
「うぅう・・・」
痛いのは確かだよ・・。かなりの鈍痛だよ、涙をぬぐうティッシュの替えも、もう無いよ。
『ガバァアアアアッ』
「!?」
突然目の前が真っ暗になって身体に圧迫感と温かみが走った。
「コカトリス・・?」
「・・・・・」
このうずもれ具合、心音、安心感・・感触で分かる。
”コカトリスが抱擁して慰めてくれてるんだ”
「すまぬ、我々が不甲斐無いばっかりに後世のお主等ばかりに辛い思いをさせてしまった・・」
「うぅう、バカァ・・そんな事言われたら・・嗚咽で、命を懸けた破滅魔法の詠唱が出来ないじゃん・・」
中ニ病の放つ魔法でも倒せない強靭な相手にみんながバラバラにさせられても、此処だけはまだ繋がっている。
前にコカトリスと喧嘩した時もそうだった、私が良く話も聞かないで逆切れしてしまったのに文句の一つも言わないで帰って来てくれた。
「新しき時代が求める思想に意味の無い破滅などもう必要ない。これからは創造的解放・・お主の仲間もこれからの人生も、繋ぎ直す好機はいくらでもある」
「・・あ・・ありがとう・・・うぅ、加山リス・・」
生きてる、心も体もまだ生きてる
今日も始まる新しい一日、
人も街もまだ眠っているはずの夜明け前
朝陽もまだ仕事をサボって寝ているのかな?
それでも私の心の中には、創造的な新しい陽が射し込もうとしていた
続くリス




