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邂逅

夜が明け、森の中をラプタ商国へ向けてカイル達が歩き始めてからしばらく――ちょうど太陽が真上に来た頃、カイルは森に充満する草木の匂いの中に、異質な、しかし最近嗅ぎ慣れた匂いを感じ取る。

「ん? どうしたの、カイル?」

最後尾を歩くカイルが急に立ち止まったのに気づき、振り向いたレーミアが尋ねる。

「血の匂いだ……」

カイルは全員に、小さな声と身振りで止まれと指示をする。

匂いはかすかだから距離は遠いだろうが、用心したほうがいいと思ってのことだった。

「たしかに薄くだが、感じるな。これは……」

エリがカイルの言葉に同意を示す。

「ロドリス、何が起こっているかわかるか?」

「ちょっと待って。今聞いてみる」

ロドリスはカイルの言葉に、目を閉じ、森の言葉に耳を傾ける。

「ん? いったい何をやっているんだ?」

訝しむエリに、カイルはロドリスの能力を説明する(ちなみにレーミアには軍事学校時代に話してある)。

エリはそんな不思議な能力が存在するのかと驚いていたが、今現在のロドリスの様子を見るとおいそれと否定はできないようで、何も言わずに結果を見守っている。

「東の方の開けた場所で、男が大勢に襲われているみたい。それと女の子もいるって」

しばらくして、ロドリスは木々の言葉を伝える。

植物の伝えてくれる情報には制限はある。しかし、異常事態との接触を避けたい時などにはこれほど便利なものはないだろう。

そして、森の中では、彼の能力は最大限にその力を発揮する。

「そうか、どうするべきかな」

少数対多数の戦闘の場合、何かしらの厄介がつきまとう。

山地の近いこの辺りなら山賊も出るだろうし、思いもよらない深い事情などが絡んでいる場合も多々あるからだ。

まあただ単に弱い者いじめということもあるが、血を見るほどの事態であるからその線は薄いだろう。

「野盗のたぐいか? だとしたら襲われているのは貴族ってところだろうか」

エリの言葉にレーミアがはっと気付いたように手を合わせる。

「もしそうだったら、エウスティア王国まで連れて帰ってもらうことができるかもしれないよ?」

しかし、カイルはそれは違うだろう、と考えていた。

ここは街道からも遠く離れた森の中だ。一番可能性が高いのは密輸商人だろうか。

「いや、こんな森の中まで貴族が来るなんてことは考えにくい。とりあえず様子を見に行ってくるから、お前達はここで待ってろ。エリ、二人をたのむ」

レーミアとロドリスは、剣の腕が立つ方ではない。エリならばこの2人をかばいながらでもじゅうぶん戦えるだろう。

カイルは、頷くエリに後を任せ、「ちょっと、カイルー!」と小声で叫ぶレーミアは無視。

音を立てないように、木々をかきわけて、血の匂いを辿って行く。

だいぶ匂いが濃くなってきた頃、森の中に突然、開けた場所が現れた。

(どれどれ、どんな状況だ?)

気配を殺して木の陰に身を隠しながら様子を窺う。

そこには馬車を背にして必死に戦う男の姿があった。

傷を負い鎧と顔を血まみれにした彼は、同じ鎧を着た10人程の男たちに囲まれながらも剣を振るっている。

剣を左手に持ち、右腕はもう動かないのか、だらんと垂れ下がったままピクリとも動いていない。

(あれは護衛の騎士か? でも、いや……あの鎧、どこかで……)

カイルは男たちの着る鎧に見覚えがあるような気がしていた。

注意深く目を凝らしてみる。

すると鎧の胸の部分に、小さくだがエスティア王家の紋章らしきものを見とめることが出来た。

(王家の紋入り鎧……近衛騎士か)

やっと思い出した。以前王城に呼ばれた際、あの鎧を着た騎士の姿を見ていたのだ。

(でもなぜ、近衛がこんなところで? しかも仲間同士で……)

そうは思っているが、この状況を見るに、カイルには一つの答えしか導き出すことは出来なかった。

確証を得るため、カイルは目の前の状況を、隅から隅まで観察する。

馬車には窓が無く、中の様子を見ることはできない。

助けに入るか否か。

もしカイルの考えが当たっているなら、すぐにでも飛び込まなくてはならないだろう。

そして、カイルの考えは正しかった。

男たちの一人が「王女」という単語を口にしたのである。

カイルは、両手に剣を抜くと、彼らの死角から飛び出した。

一番近い所にいる男目がけて、右手を横薙ぎにする。

背中からザックリと切られた男は、奇声をあげながら昏倒した。

「なっ、なんだお前はっ!!」

仲間の悲鳴を聞いて、男たちはようやくカイルの乱入に気付いたが、その頃にはもう、さらに2人が左右の剣によって切り伏せられていた。

「遅ぇよっ!」

彼らの注意はすでにカイルの方へ移っていた。

さすがに近衛騎士ともなると立ち直りが早かったが、カイルには関係ない。

2つ同時に振り下ろされた刃を、膝を折って地面すれすれにまで重心を落とすことで避ける。

そして、頭上を刃がいだ直後、2人の足、膝から下を切り離す。

カイルの剣速は、骨をも一瞬で両断するほどのものであった。

痛みに苦悶する獣じみた叫びと共に鮮血が舞う中を、カイルは見る者に恐れを抱かせるような無表情で駆け抜ける。

そして、彼の通る跡には物言わぬ骸がひとつ、またひとつと打ち棄てられていく。

わずかのうちに、カイルの周囲に立っている者はいなくなっていた。

「だいじょうぶですか?」

カイルは一人で戦っていた男に向けて言葉をかける。

傷ついた男はもう、おびただしい量の血を流してしまったようで、顔はすでに青ざめている。

「君は……レストニアの……」

男は意外とはっきりした声で、カイルに問いかける。

カイルは自分の正体を知っていることに「どうしてそれを」と驚いたが、続く言葉にその理由を知る。

「私は以前……メクフィリア様の……騎士をやっていた」

「そういうことか」

それならばカイルのことを見ていてもおかしくはない。

「そして今は……」

彼はそう言って、動かせる左手で馬車を指し示す。

カイルは彼の意思を汲み取り、馬車の扉を開け放つ。

そこには、エウスティア王国現王女、アイリス・ルフェス・エウスティアの姿があった。

外での争いに巻き込まれないように馬車に押し込まれていたのであろう。

「アークス、アークス。しっかりして!」

扉が開いて、血まみれの騎士の姿を見たとたん、彼女は目に涙を浮かべて男の名を呼ぶ。

「死んじゃいや……死んじゃいやよ……」

「アイリス……さま……。彼に……彼と共に…………それ……が……」

「アークス! いや、いやよ! 死なないで、お願い!」

アイリス王女の叫びもむなしく、アークスと呼ばれる騎士はそれから息を引き取った。

死の間際、彼は一瞬カイルの方を向き、まるで「彼女を頼む」とでも言うようにカイルを見つめていた。

カイルは騎士に寄り添い、悲しみに泣くアイリス王女の肩に手を置いた。

「アイリス、彼はもう神の元へと旅立ったんだ」

「アークスは……アークスはわたくしを守って……」

カイルは虚ろな目をして、つぶやき始めたアイリスを強く揺さぶり、強引に視線を合わせる。

「アイリス、アイリスわかるかい? カイルだよ」

「カ……カイル……さま?」

「あぁ。以前、よく一緒に遊んだだろう。覚えているよね」

カイルは5年前に軍事学校に入る前、しばらく王城で暮らしていた時期があった。

その頃に幼いアイリスの遊び相手をしていたのを、今でもよく憶えている。

「は、はい。カイルさま。カイルさま……わたし」

一瞬光の戻った瞳が、また暗く沈んでいくのを見たカイルは、肩を握る手に力を込めて言う。

「アイリス、君は生きなければならない。彼が命を賭けてまで守ってくれたのだろう?」

まだ14歳の少女には辛いことかもしれない。しかし、カイルは敢えて彼女に現実を突きつける。

「君は彼の分まで生きなければいけない。それが彼の望みであり、伝えたかったこどだろうから」

「はい、はい……アークスの伝えたかったこと……」

そう言って彼女は、意識を失ってしまった。

カイルは慌てて彼女の身体を支える。張り詰めていた緊張がついに限界を迎えたのだろう。

今はそっとしておこう、と判断したカイルは、騎士達の遺体を埋葬するための準備を始める。

別に死者を悼む気持ちをもっているわけでもないが、近衛騎士の死体を野ざらしにしておくのは色々と都合が悪いだろう。

この馬車もなんとかしなきゃなと思いながら、馬車の添え木を一つ切り外し、それで穴を掘り始める。

そろそろ、戦闘が終わったことをロドリスも感知しているはずだ。しばらくすればここに来るだろう。

「しかし、どうするかな」

カイルはこれからのことを考える。

アイリスが起きたら、詳しい話を聞かなければならないが、カイルの想像通りならば、王国に帰るのは危険かもしれない。

カイルたちの旅は、思った以上に大変なものなりそうだった。

どうも、くじら王です。

戦闘シーンは難しいですね。臨場感がなかなか出せない。

たくさん書いてるうちに上手になるのかなあ…。

あと、この話では人の死ぬシーンがあります。これがまたムズい。悲しみとか喪失感の表現が上手にできません。

こんな感じの初心者丸出しの拙文ですが、読んで頂いた方にはとっても感謝。

色々と勉強して面白いと思ってもらえるような文章を書きたいと思います。

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