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回想≫エウスティア王城にて

「レストニア王国第二王子、カイル・フェリル・レストニアであります」

玉座の間と呼ばれる場所で、カイルと名乗った少年は目の前に座るこの国の女王、メクフィリア・ルフェス・エウスティアに向かい、片膝を地につけ、頭を垂れている。

「顔をあげてください、カイル王子。そんなに畏まらなくてもよいのですよ」

「はっ」

カイルは床に向けていた顔をあげる。

メクフィリア女王は、とても美しい女性ひとだった。

線の細く、透き通るような肌をした身体はしかし、妖艶さも漂わせてもいて、豊かな胸元を惜しげもなく晒した大胆な衣装が彼女の清らかさを一層のものとしているようである。

並の男性ならば、その姿に劣情を抱いてもおかしくないほどであるが、カイルはまだ12歳。

女慣れなど当然まだしていないのであって、ただただ気恥ずかしいだけであった。

「この度は、私の勝手な願いを聞き入れてくださって、ありがとうございます」

カイルは、美しき女王から視線をはずしながら、必死で覚えてきたセリフを言う。

目上の人に対する畏まった言葉遣いはカイルにとって数少ない、苦手な分野だった。

今回、カイルはレストニア王国を出て、ここエウスティア王国にある王立軍事学校へ通うことになって、初めて他国の王族と直接会話するために、一夜漬けで何通りものセリフを覚えてきたのだ。

「いえいえ。あなたのお母上とわたくしは文を交し合うほどの仲ですもの。彼女の愛する息子のことであれば協力は惜しみませんわ」

カイルの母、レストニア王妃は元々エウスティア出身の平民だったらしい。たまたまこの地を訪れた父、レストニア国王がたまたま母を見つけ、人目惚れして連れ帰って王妃にしたのだそうだ。

昔からレストニアは出身や身分などの違いにこだわる国ではなく、色々な国から優秀な人材を受け入れ、発展してきた国だ。

レストニアという国も元々は移民の建国した国であり、その当時の彼らは大陸各地から集まっていたという。

だから、レストニアの民も王の結婚には反対する者などいなかった(さすがに上層部の貴族たちは王族に平民を迎え入れるなんて、と言っていたらしい)。

それから二言三言交わした後、女王との謁見は終わり、カイルは食事の席に招かれた。

女王やその夫、一人娘であるアイリス王女の居並ぶ席に座るのはとても度胸のいることだったが、カイルはもうどうにでもなれという気持ちで、この誘いを受けた。

しかし、カイルの緊張は杞憂だったようで、カイルはまるで彼女らの本当の息子のように、打ち砕けた態度で接してくれた。

そして、その食事の席も終わり、もう部屋に戻ろうかというとき、カイルは女王に呼び止められた。

「なんでしょうか、メクフィリアさま」

カイルも、もうずいぶん彼女との会話には慣れてきた。

変に気を使わないでいいのはありがたかった。

故に彼はこの女王との会話を楽しいものだと思いかけていた。

しかし、

「あなたの真の目的は聞きません」

続く彼女の言葉にカイルは戦慄を覚えた。さすがの人生経験の違いか、それとも彼女はカイルの瞳の奥に何かを見たのだろうか。

「ですがどうか、くれぐれも無理をしないで。何かあれば必ず力を貸すから」

カイルはわずかにあごを縦に引いてから、彼女に背を向けて歩き出した。

そう、メクフィリアの察した通り、カイルには目的があった。

表向きは見識を広めるため、と言っているが、本当はそうではなかった。

彼は自分が生き残るために、自分の助けとなる信頼できる人物を探しにきたのだ。

王立軍事学園に入れば、自分を支えてくれるほどの、強い者、信頼のおける者と出会える確立は高いだろうから。

彼は、レストニアで自分の母が自分の兄に殺されるところを見てしまった。

身内と言えども、もう誰も信頼できない……。

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