廃屋ガール
夏のホラー2026参加作品。
3分で読めます。そんなに怖くないよ。
廃屋ガール
ラーメン屋で働いているタカハシさんから聞いた話です。
「うち、バス停から歩いてすぐで、便利なのよ。でね、バス停から、一本奥に入る道があって、廃屋があるの」
数年前から誰も住まなくなったその家は、赤い三角屋根の立派な建物で、鉄の門扉も洒落たデザインをしている。庭には、ブルーベリーやいちじくが植えられている。
以前は、おばあさんが一人で住んでいたらしい。
「今年のお盆にねえ。夜中に、バーンガーンって音がして大騒ぎになったの」
お盆で人が来たのだろうかと、近所の人が様子を見に集まったが、廃屋に電気はついていない。
真っ暗な家から鳴り響く音は、ピアノの鍵盤を、乱暴に叩いているようだった。
この町は、40年ほど前に新興住宅地として切り開いた土地で、すぐ山がせまっている。
「だからねえ、サルがね、入ったんじゃないかって。でも夜中で、うるさいから警察を誰かが呼んだのね」
交番からやってきた警官二人は、廃屋に入ろうとしたが、当然玄関は鍵がかかっている。窓も割れていないようだ。
そうこうしているうちに、ピアノの音が止んだ。
騒ぎになったから、何者かが立ち去ったのだろうか。
しかし、警官を含む近隣住民数名が、家のまわりを囲んでいたのに、誰も気づかないということがあるだろうか。
その夜は、建物に入ることができず、警官たちは帰っていった。
「なんだったのかしらねーってみんなで話してたんだけどね」
翌日。
「昼はね、なにもなかったの」
ところが、深夜になり、また近隣住民がおかしな音に気づき、廃屋へ集まった。
水音がするのだ。
「近所の家の前を通りかかって、お風呂入ってるなーって気づく時があるでしょう。風呂の音なのよ。シャワー使ってる音」
しかし、廃屋は昨夜と変わらず、真っ暗だ。
「お盆だしね、酔っぱらいが入り込んだとしても、もう数年誰も住んでないんだから、水は出ないはずなのよ」
いよいよおかしいなと再度、誰かが通報し、警官が二人やってきた。
水音はなおも続いている。
「でもね、昨日も警察が見てるのよ。入れる場所は鍵がかかってて、窓も割れてないの。屋根に穴が空いているわけでもない」
だが、誰か、いる。
現に、警察官たちも水音を聞いている。
どうしたものか、連絡を取っているうちに、水音は止んだ。
「ずーっと電気はついてないの。でも、ぴたっと静かになるのよ。ガラスを割るわけにもいかないし、気味が悪いだけで実害はないのよね」
その夜も、住民たちは文句をいいつつ、家に帰っていった。
「次の日なんだけど、裏の公園でね、町内会のお祭りがあったの。私は仕事だったら準備にいけなかったんだけど、子供も夜まで遊べる小さいお祭りでね。夜に顔を出したの。有志の盆踊りがあったり、キッチンカーが来てた」
家から公園までの間に、件の廃屋がある。
「そこでねえ、近所の子たちが、『女の子がいた』って言い出したの。緑色のワンピースの女の子」
近所の住民たちは、ひょっとしたら、その廃屋の家の子供かと思った。
それにしても、夜中にピアノを弾くだろうか。真っ暗な中でシャワーを使うだろうか。
だれもが疑問に思ったが、子供が廃屋にいるのも問題だと、数人で様子を見に行ったが、誰かがいる様子はない。
玄関は施錠されたままだ。
「五山送り火の日でね。私の家からは見えないんだけど、テレビで生中継をするのよ。お祭りから戻ってきて、テレビで見てたのね。そしたら、警察がきたの」
廃屋の主の女性らしき遺体が見つかったというのだ。
その町からさほど離れていない山の、ハイキングコースから外れた沢のそばで発見されたらしい。すでに白骨化していたが、持ち物が引っかかって残っていたというのだ。
「京都のまわりは意外と登山が盛んなの。ハイキングコースもたくさんあってね。その家のおばあさん、一人で登山に出かけて、山中で亡くなられたらしいの。リュックとかストックが見つかって、住所がわかったみたい」
三年ぶりの帰宅を、近所に気づいてもらいたかったんだろうと、タカハシさんは手を合わせながら目を閉じた。
お盆が過ぎ、騒音騒ぎはピタリと収まった。家族が葬式をすませ、廃屋の荷物を運び出していた。
更地になる予定だと近所の住民たちは聞かされた。
廃屋に子供がいたことを思い出し、タカハシさんはそれとなくご家族に聞いたところ、亡くなられたおばあさんは、モスグリーンの服が好きだったと聞かされた。
「緑色のワンピースの女の子は、そのおばあさんが子どもの頃の姿だったんでしょうねえ」
終
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