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第10話 追放令嬢専門弁護士、爆誕です

いよいよ最終話です。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!


「所長。例の道明寺明宏と佐々木莉奈のその後ですが、興信所から最終報告書が上がってきましたよ」


「あら、木戸くん。彼らの人生という名の喜劇は、どのようなグランドフィナーレを迎えたのでしょうか」


帝都の一等地、『九条院法律事務所』の所長室。

私がフランスの老舗ブランドのティーカップに注がれたダージリンのファーストフラッシュを優雅に傾けると、パラリーガルの木戸くんが分厚い報告書をパラパラとめくりながら、深い深いため息をついた。


「喜劇というか、完全に因果応報の胸糞ドキュメンタリーですね。道明寺明宏は、会社からの横領と私的流用が親にバレて、当然のように専務を解任されました。さらに実家から勘当され、道明寺グループとは完全に無関係の一般人になりました。刑事告発されなかったのが、元御曹司に対するせめてもの情けでしょうか」


「当然の処置ですね。上場企業のコンプライアンスとして、あのような不正を働く役員を放置しておくわけにはいきません。私という外部の人間が『強制執行』という形で親切に教えて差し上げたのですから、おじ様も感謝していることでしょう」


私がにっこりと微笑むと、木戸くんは顔を引きつらせた。


「あの容赦ない口座凍結と役員報酬の差し押さえを『親切』と呼ぶのは、日本の法曹界で所長だけだと思いますよ。……で、金と地位を失った明宏に対し、佐々木莉奈はあっさりと別れを告げたそうです。『真実の愛じゃなかったの!?』とすがりつく彼に、『お金のない明宏さんなんて、ただの無能なニートじゃん』と言い放って、荷物をまとめて出て行ったとか」


「まあ。それは大変遺憾ですね。SNSであれほど『身分違いの真実の愛』を声高に叫んでいらしたのに、真実の愛の有効期限はクレジットカードの利用停止日と同日だったというわけですか」


私は紅茶を一口飲み、全く同情の欠片もない声で呟いた。


「ちなみに、佐々木莉奈はその後、別のIT企業の若手社長に擦り寄ろうとしたらしいですが……」


木戸くんが、チラリと私の顔を見た。


「なぜかその界隈の若手経営者たちの間で、『彼女は経歴を詐称し、虚偽告訴で他人を陥れる危険人物である』という裏取りのされたブラックリストが出回っておりまして。完全に港区の金持ちコミュニティから出入り禁止になったそうです。現在、彼女は家賃六万円のアパートで、地道にアルバイト生活をしているとのこと」


「あら、奇遇ですね。私も先日、父の主催する財界の若手懇親会にお呼ばれした際、ご挨拶代わりに『最近はこのような巧妙な名誉毀損の手口があるからお気をつけくださいね』と、具体的なケーススタディとして彼女の事件の匿名レポートを配ったばかりでしたのに。さすが皆様、危機管理能力が高くていらっしゃる」


「所長が根回ししたんでしょ! 匿名と言いながら、状況が具体的すぎて特定余裕のレポートを配るなんて、えげつなさすぎます!」


木戸くんが頭を抱えて叫ぶが、私は無実の罪を着せられた過去の自分を法的に救済しただけである。

しかも再犯を防ぐための、極めて公益性の高い情報提供付きで、だ。


「それで、明宏様はどうされているのですか?」


「はい。彼は現在、日雇いの建設現場で汗水垂らして働いていますよ。親の威光も使えず、これまでのツケを払うために必死だそうです。もっとも、彼の少ない給料からも、法定の控除額を除いた四分の一は、毎月きっちりと所長の口座に『差押え金』として振り込まれる手はずになっていますが」


「素晴らしい。労働の尊さを学ぶと同時に、自身の不法行為の代償を毎月しっかりと現金で償う。これぞまさに、現行法がもたらす完璧な更生プログラムですね。異世界ではこうはいきません。彼も私という優秀な弁護士に法教育を施してもらえて、さぞ感謝していることでしょう」


私が本心からそう言うと、木戸くんは「この人、悪魔だ、いや魔王だ」とボソリと呟き、胸の前で三回十字を切った。


何はともあれ、私の個人的な復讐劇、いや、法的な権利行使はこれにて完全なる幕引きとなった。

しかし、弁護士としての私の使命は、ここで終わるわけではない。


「さて、木戸くん。当事務所の『新規ご相談予約フォーム』の状況はいかがですか? 先日、婚約破棄や冤罪トラブルに特化した専門ページを公開したはずですが」


「あ、はい。それが……ちょっと異常事態と言いますか。公開してまだ少ししか経っていないのに、すでに三十件以上の問い合わせが殺到しています。しかも、内容がどれもこれも……」


木戸くんがタブレット端末を私に手渡した。

画面をスクロールすると、そこに並んでいる相談の概要は、どれも目を疑うようなものばかりだった。


『卒業パーティーで、突然異母妹をいじめたと糾弾され、婚約破棄されました』

『誕生日の夜会で、身に覚えのない横領の罪を着せられ、婚約者から追放を宣告されました』

『学園の食堂で、彼氏が男爵家の娘(平民上がり)と腕を組んで現れ、私を階段から突き落としたと嘘をつきました』


「……木戸くん。日本の富裕層や名家の子息たちは、全員同じ三流恋愛小説のテンプレートを脳に埋め込まれる手術でも受けているのでしょうか? なぜこうも、公衆の面前で証拠不十分なまま婚約破棄を宣言したがるのですか」


私は黒縁メガネを中指で押し上げ、純粋な疑問を口にした。


「僕に聞かないでくださいよ。ただ、お金持ちのコミュニティって狭いから、変な流行があるんじゃないですか? それにしても、理不尽な理由で泣き寝入りさせられそうになっているお嬢様って、こんなにたくさんいるんですね」


「ええ。彼女たちは家柄や世間体を気にして、法的手段に訴えることを躊躇してしまいます。しかし、私に言わせれば、それこそが愚か者たちをつけ上がらせる最大の要因です。不法行為には、迅速かつ最大火力の損害賠償請求。これこそが、現代社会における正しい『ざまぁ』の作法ですよ」


私が嬉々としてキーボードを叩き、最初の依頼人との面談スケジュールを組もうとしたその時。


コンコン、と。

所長室の重厚なマホガニーの扉が、控えめにノックされた。


「あら、どなたかしら。今日はまだアポは入っていないはずですが」

「すみません、僕が見てきます」


木戸くんが扉を開けると、そこには、まるで雨に打たれた白百合のように、今にも倒れそうなほど憔悴しきった一人の若い女性が立っていた。


「あの……突然申し訳ありません。こちらに、婚約破棄のトラブルに強い、九条院先生がいらっしゃると伺って……」


彼女は、仕立ての良さが一目でわかる、しかしどこか古風で地味なグレーのドレスに身を包んでいた。

プラチナブロンドの長い髪は乱れ、美しいサファイアブルーの瞳には、大粒の涙が溢れそうに溜まっている。


「いらっしゃいませ。私が九条院 結です。どうぞ、こちらにお掛けになって」


私はすぐに立ち上がり、彼女を最高級の革張りソファへと案内した。

木戸くんがサッと動いて、温かいカモミールティーを用意する。


「ありがとうございます……。私、西園寺さいおんじ麗華と申します。実は昨日、婚約者であった鷹司たかつかさグループの御曹司から、一方的に婚約破棄を言い渡されまして……」


西園寺麗華。その名前には聞き覚えがあった。代々続く名家であり、私の実家である九条院グループとも関わりの深い、大財閥の令嬢だ。


「西園寺様ですね。お辛い中、よく当事務所へお越しくださいました。どのような理由で婚約破棄を言い渡されたのですか?」


私が静かに尋ねると、麗華さんは両手で顔を覆い、ポロポロと涙をこぼし始めた。


「私、何もしていないんです……! それなのに、彼が……鷹司様が、私が異母妹の美桜を屋敷の階段から突き落としたと……! 美桜は腕を骨折して入院しているのですが、彼は『お前のような冷酷な女は妻にできない』と、大勢の親族の前で私を怒鳴りつけて……っ」


「……なるほど。階段からの突き落とし、ですか」


私は目を細め、脳内で一瞬にして必要な法的手段のリストアップを開始した。


「私、本当に突き落としてなんかいないんです! 私が階段の上にいた時、美桜は自分で勝手に足を踏み外して……でも、誰も私の言葉を信じてくれなくて……お父様まで、私を家から追い出すと言い出して……っ」


麗華さんは、絶望の淵に立たされたように震えていた。

無理もない。家族にも婚約者にも裏切られ、無実の罪を着せられたのだ。異世界テンプレなら、このまま修道院行きか国外追放が確定するルートである。


だが、ここは魔法も魔王も存在しない、現代日本の法治国家だ。そして、ここに私、九条院 結がいる。


「西園寺様。一つ確認させてください」


私は手元のメモパッドを引き寄せ、愛用の万年筆のキャップを外した。


「そのお屋敷の階段の材質は、大理石ですか? それとも木製ですか? また、階段の傾斜角度はおよそ何度くらいでしょうか」


「え……? あ、大理石です。傾斜は、それなりに急で……あの、それが何か関係が?」


涙ぐむ麗華さんの横で、木戸くんが「出た、所長の変態的ヒアリング」と頭を抱えている。


「大いに関係があります。人間が他者の力によって『突き落とされた』場合の落下軌道と、自ら『足を踏み外した』、あるいは『故意に飛び降りた』場合の落下軌道は、物理法則によって明確に異なります。特に大理石の場合、靴底との摩擦係数が低いため、突発的な外力(突き飛ばし)が加わった場合、足元が滑る痕跡が微細な傷として残る可能性が極めて高いのです」


私が淡々と、しかし異常な早口で解説すると、麗華さんはポカンと口を開けた。


「さ、さらに申し上げますと」


私は万年筆をクルクルと回しながら、満面の笑みを浮かべた。


「階段から落ちて『腕の骨折だけで済む』というのは、防衛本能が極めて冷静に働いた証拠です。不意に突き落とされた人間は、多くの場合、頭部から落下するか、無防備な状態で全身を強打します。腕から着地して骨折したということは、彼女が『落ちることを予測し、身構えていた』という法医学的な状況証拠になり得ます」


「は、はあ……?」


「木戸くん! すぐに民間の科学捜査研究所と提携の法医学医に連絡を。西園寺邸の階段の三次元スキャンと、妹さんのカルテの証拠保全手続きの準備に入ります。防犯カメラの死角だろうが関係ありません。客観的な物理法則と医学的見地から、彼女の主張が『嘘』であることを論理的かつ科学的に証明して差し上げます!」


「所長、また早朝から裁判官を叩き起こす気ですか!?」


木戸くんが悲鳴を上げるが、私の指先はすでにキーボードの上で踊り始めていた。


「西園寺様、ご安心ください。貴方の潔白は、私が現行法と科学の力で完璧に証明してみせます。そして、貴方を陥れた異母妹と、証拠もなしに貴方を糾弾したその愚かな御曹司には、名誉毀損および精神的苦痛に対する莫大な慰謝料を請求し、社会的に完全に抹殺して差し上げます」


私が断言すると、麗華さんの瞳から涙がスッと消え、代わりに希望の光が宿った。


「ほ、本当に……? 私、救われるんでしょうか……?」


「救うのではありません。当然の権利を行使し、奪われた尊厳を、正当な利息をつけて現金で取り戻すのです。これはビジネスであり、法的な報復リベンジです」


私は立ち上がり、温かいカモミールティーの入ったカップを、彼女の震える両手にそっと握らせた。


「よくいらっしゃいました、西園寺様」


私は黒縁メガネの奥で、魔王のように冷たく、しかし女神のように慈悲深い微笑みを浮かべた。


「その絶望、私がすべて合法的に『現金化』して差し上げます。……さあ、彼らの息の根を止める準備、手伝ってくださる?」



悪役令嬢を虐げる愚か者たちよ。首を洗って待っているがいてください。


地味令嬢の皮を被った魔王弁護士・九条院結の、容赦なきリーガル・タコ殴り劇は、まだ幕を開けたばかりなのだから。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

これにて『九条院法律事務所』第一部、満場一致の「ざまぁ判決」をもちまして、一旦の閉廷となります。


もし、彼らの活躍を読んで「最高にスカッとした!」と感じていただけましたら、ぜひページ一番下の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して、**【★★★★★】の「勝訴(最高評価)」**をいただけますと、作者にとってこれ以上ない喜びとなります!

(皆様の一票が、魔王弁護士の次の「タコ殴り」の資金源となります!)


重要なお知らせ:新シリーズ、開廷しました!


「もっと結たちのリーガル・ざまぁが見たい!」という皆様の声にお応えし、昨日より待望の新シリーズの連載を開始いたしました!


新シリーズでは、結・木戸に加え、あの「武闘派令嬢・麗華」も助手として本格参戦予定。

さらにパワーアップした布陣で、理不尽な追放令嬢たちを救済(物理)しに行きます。


【新シリーズはこちらから!】

【リーガルざまぁ】現行法でタコ殴り!異世界テンプレに泣く、どん底令嬢を救います〜魔王お嬢様弁護士の事件簿〜

https://ncode.syosetu.com/n4144lz/


ぜひ【ブックマーク】をして、引き続き魔王お嬢様の活躍をお楽しみください!


それでは、皆様とまた新しい法廷でお会いできるのを楽しみにしております。

第一部のご愛読、誠にありがとうございました!

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