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美少女のお手入れ事情

 ある日、鏡を見て気づく。

 肌が少し荒れている。髪にもツヤがない。


「ユイ、ちゃんとスキンケアしてる?」


 店長のマリアさんに呆れられた。


「スキンケア……?」


「化粧水と乳液は必須よ。あと、髪も毎日ブラッシングしなさい」


 マリアさんに叱られながら、私は女性の美容ルーティンを学んだ。


 化粧水を顔に塗る。

 乳液で保湿する。

 髪をブラシで100回とかす。


(前世では顔を洗うだけで終わりだったのに……!)


 女性の体は、維持するだけでこんなに手間がかかるのか。


 だが、ちゃんとケアすると、肌がつやつやになる。

 鏡を見ると、美少女がいる。


「……悪くない」


 思わず呟いた。

 元おっさんとして、この感想は複雑だった。


---


 翌日、私は下着問題に直面した。


 仕事中、かがむと胸が揺れる。

 体重を乗せる動きで施術するたびに、胸が踊る。


「ユイ、ブラジャーはちゃんとつけてる?」


 マリアさんに言われて、私は固まった。


「え、あ、はい……」


「揺れてるわよ。お客様の前で揺れたら目のやり場になるでしょ」


 その通りだ。

 だが、ブラジャーをつけるのが精神的に辛いのだ。


 背中でホックを留める。

 胸の位置を調整する。

 谷間ができないように整える。


(なんで毎日自分の胸を触らなければならないんだ……)


 前世の私には、絶対に理解できない悩みだった。


 エプロンを結ぶときも、胸の下で紐を交差させるのが難しい。

 自分の胸が邪魔だと、初めて知った。


 更に困るのは、ショーツだ。

 女性用の下着が、どうにも慣れない。


 履くときに、自分の体に触れる。

 脱ぐときにも、自分の体に触れる。


(これが毎日続くのか……)


 女性の体は、煩わしいことばかりだった。


---


 翌週、予告通りラルフ様が来店した。


「ユイ、頼む」


「は、はい……」


 今日も私の心臓は忙しくなりそうだ。


 施術台に横たわるラルフ様の背中に触れる。

 先週よりはマシだが、まだまだ凝っている。


「ラルフ様、魔王討伐後も働きすぎでは?」


「分かっている。だが、やることが多いんだ」


「休むのも仕事のうちですよ」


 前世から言い続けている言葉だ。

 患者はみんな、休むことを罪悪視する。


「……君は変わった施術師だな」


「そうですか?」


「普通、勇者に説教する者はいない」


 ラルフ様が少し笑った。

 その笑顔が、妙に眩しい。


(くそ、この体……)


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