女同士のお風呂は地獄です
ある日、カレンさんに誘われた。
「ユイちゃん、今度一緒にお風呂入らない?」
「え?」
「王都に新しくできた公衆浴場があるの。女同士で行かない?」
女同士。
確かに、この体は女だ。女性と一緒に入浴しても、何もおかしくない。
だが、中身はおっさんなのだ。
「あ、えっと……」
「いいじゃない。たまには息抜きしなきゃ」
カレンさんの笑顔に押され、私は頷いてしまった。
---
公衆浴場「月光の湯」。
王都で最高級の、女性専用浴場だ。
脱衣所で着替えるところから、すでに試練だった。
「ユイちゃん、何してるの。早く脱ぎなさい」
「は、はい……」
カレンさんはあっさりと服を脱いだ。
目の前で、女騎士の裸体が露わになる。
(見るな見るな見るな!)
だが、見えてしまう。
引き締まった体。形の良い胸。くびれた腰。
「ユイちゃん?」
「は、はい!」
私も慌てて服を脱いだ。
今の私も女だ。見られても平気なはず。
だが、カレンさんの視線が気になる。
「ユイちゃん、スタイルいいわね」
「え?」
「胸も大きいし、腰もくびれてるし。羨ましいわ」
女性に褒められて、どう反応していいか分からない。
「あ、ありがとうございます……」
---
浴場に入る。
湯気の中、他の女性たちが入浴している。
みんな、裸だ。
(これは……精神的にくる……!)
元おっさんの私には、天国のような地獄だった。
「ユイちゃん、まず体を洗いましょ」
カレンさんが洗い場に座る。
私も隣に座った。
「背中流してあげる」
「え、いいですよ!自分で——」
「遠慮しないの。女同士じゃない」
カレンさんが私の背後に回った。
柔らかい手が、私の背中に触れる。
「ひっ……!」
思わず声が出た。
「どうしたの?くすぐったい?」
「い、いえ……大丈夫です」
大丈夫じゃない。
女性に背中を流されるなんて、前世では絶対にありえない経験だ。
カレンさんの手が、私の背中を滑る。
肩、背骨、腰。
「ユイちゃん、肌きれい。何かケアしてる?」
「い、いえ、特には……」
会話どころではなかった。
女性の手が自分の体を這う感覚に、全神経が集中している。
「次、前も洗ってあげる」
「えっ?!」
「冗談よ」
カレンさんが笑った。
私は心臓が口から飛び出そうだった。
「じゃあ、ユイちゃんも洗って」
「え?」
「私の背中。お返しに」
カレンさんが背中を向ける。
引き締まった背中。女騎士の体。
(これを……洗うのか……)
私はタオルを手に取り、カレンさんの背中に触れた。
滑らかな肌。しなやかな筋肉。
女性の体は、こんなに柔らかいのか。
「んっ……ユイちゃん、上手ね」
カレンさんが小さく声を漏らす。
(その声はやめてください!!)
私は必死で平静を装いながら、カレンさんの背中を洗った。
「もう少し下……腰のあたりまで」
私の手が、カレンさんの腰に滑り降りる。
タオルがずれて、素手で触れてしまった。
「あっ……」
カレンさんが小さく息を漏らした。
(素手で触ってしまった!!)
「ご、ごめんなさい!」
「いいのよ。気持ちよかったし」
カレンさんが振り向いて微笑んだ。
その笑顔が、妙に色っぽい。
---
湯船に浸かる。
カレンさんと並んで、お湯に身を沈める。
「はぁ……気持ちいい……」
カレンさんが目を閉じる。
湯気の中、女性の横顔がやけに綺麗に見える。
(私は何を考えているんだ……)
元おっさんなのに、女性を見てドキドキしている。
これが女の体の本能なのか、それとも前世の記憶なのか。
「ユイちゃん、胸、浮いてるわよ」
「えっ?!」
慌てて胸を押さえる。
確かに、湯船の中で胸が浮いている。
「いい胸してるんだから、隠さなくていいのに」
「か、カレンさん……!」
「冗談よ」
カレンさんが笑う。
私は顔を真っ赤にしながら、湯船に沈んだ。
---
風呂から上がり、脱衣所で体を拭く。
カレンさんが横で着替えている。
チラリと見えてしまう、女性の裸体。
(だから見るなって……!)
私は必死で視線を逸らしながら、服を着た。
「ユイちゃん、また来ましょうね」
「は、はい……」
またこれをやるのか。
私の心臓は持つのだろうか。
だが、不思議と嫌ではなかった。
女同士の友情というのは、こういうものなのかもしれない。
——たとえ中身がおっさんでも。
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