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第六話:残りの5W1H

 無事にバス停を見つけた僕達は、十五分くらい待った後に目的の湖に行くバスに乗り込んだ。


「なんとか乗れたねー」

「はい」


 つり革を掴み、僕達はまずはバスに無事乗れたことに安堵した。


「それじゃあ、テーマ決めを再開しようか」

「はい」


 そして、再び写真撮影のテーマ決めを再開した。

 石川先輩の提案で、今回の写真撮影は5W1Hでテーマを決めることになった。

 ここまでは、WhereとWhoが決まっていた。


「じゃあ、次はWhatを決める?」

「はい。……ただ、Whatですか。僕はさっき話した、水面に陽の光が反射する写真を撮ろうと思うんですが……どこで撮るかですね」

「さっき決めたWhereにもかかってくる話だね」


 僕はスマホを操作して、これから向かう榛名湖周辺の情報を調べ始めた。


「榛名湖 写真で検索すると、この構図の湖畔の写真がたくさん出てきますね」

「そうだね。じゃあ、それはなしで」

「えっ。なしなんですか?」


 僕は驚いた。

 ネットでこの構図の写真がたくさん出てくる、ということは、この湖畔で写真を撮るならこの構図、と世間が評価しているということだ。

 それを自ら敢えて捨てるだなんて……。


「村田君、よく考えて。今回のテーマはこの辺周辺の写真撮影。車がなくて徒歩か公共交通機関しか使えないあたし達は、どの道移動出来る範囲は限られている。つまり、それなりのチームが榛名湖に来ると思っていい」

「それが、どうしたんですか?」

「皆と構図が被るじゃない」


 ……まあ、被るだろう。

 しかし、それの一体、何が問題なんだろう……?


「同じ構図の写真がたくさん並んだら、あたし達の写真が目立たなくなるでしょ?」

「……」

「それじゃあ、面白くないじゃない」


 石川先輩は快活に微笑んだ。


「折角ここまで来たんだからさ、目立つ写真撮って、皆からたくさん評価されようよ! ね?」


 ……これまでの自分の人生を振り返ってみて思うことがあった。

 それは、僕は所詮、この世界の脇役でしかないということ。

 主人公にはなれないだろう、ということ。


 ……どうして主人公になれないのか。

 それは、主人公になれる才能がないからだと思っていた。


 でも、石川先輩のセリフを聞いて、間違っていたことに気付かされた。

 僕は主人公になれる才能がないから主人公になれないのではない。

 主人公になる気がないから、主人公になれないのだ。


「……わかりました」


 最初から諦めて、掴める名誉なんてあるはずがない……っ。

 石川先輩のおかげで、僕は大切なことに気が付くことが出来た。


「というわけで、榛名湖の北側を攻めてみようか。そっちの方までは誰も来なさそうだし、近くに登山口もあるみたいだし、一風変わった写真が撮れるかも」

「はいっ!」

「次は……Whenを決めよう」

「先輩、帰宅時間って何時まででしたっけ?」

「え? あー、夕飯時までに帰ってこいだったはずだから……七時?」

「七時ですか……」


 僕はスマホでマップアプリを開いた。

 調べるものは、日の入り時間と、移動所要時間だ。


「……なんだかなんとなく写真を撮りたい時間帯は決まってそうだね」

「え? ……ああ、そうですね」

「なら、これは一旦飛ばそうか」

「はい」

「後は、How。まあ、これは決まってるね。あたしは一眼レフ。村田君は、スマホだね」

「はい……」


 写真同好会への入会は、石川先輩目当てだったため、とてもじゃないが僕はまだ一眼レフを買えるような金銭的余裕も、撮影スキルも持ち合わせてはいなかった。


「落ち込まないで。一眼レフで撮る人が偉いなんてことは全然ないんだからね」

「でも……」

「むしろ、スマホの写真はそれはそれで味があるもんだから。まあ、だからってスマホの写真に傾倒してくってわけじゃなくて、色んなツールを使えるようになるのが一番だと思うよ?」

「はい」


 そうこう話している内に、僕達が乗っているバスは榛名湖周辺に到着した。


「うわあ、綺麗!」


 石川先輩が榛名湖を見て、感嘆の声をあげていた。


「すごい景色ですね」

「そうだね。紅葉シーズンとかに来てもよさそう」


 確かに。


「……でも、本当にいい景色。ちょっと寄り道して見て行きたい気分だよ」


 バスの車窓から湖を眺める石川先輩の目は、どこかうっとりとしていた。

 ……それくらい、この絶景に目を奪われているということか。


 ……そんな絶景だったら、本当は下園先輩と見たかったんじゃないかな。


 わかってる。また僕は、マイナス思考に陥りかけている。

 ……本当、女々しい自分が嫌になる。



「こんな絶景を、村田君と見れて良かったよ」



 僕は気付いたら俯いていた顔をあげて、石川先輩を見た。

 石川先輩は、いつの間にか車窓ではなく僕を見ていた。


 そして、僕に向けて、優しく微笑んだ。

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