第五話:好きな写真の話
三十分ぐらい喫茶店でたむろした後、僕達はお店を出た。
緊張で吐きそうになっていたが、今ではすっかり体調は快復した。
そろそろ写真撮影も開始出来そうだ。
「石川先輩、昨日見て回った感じで、良さそうな写真スポットありました?」
「そうだねー」
昨日、僕は一日寝ていたため、石川先輩に色々聞いてから散策を開始しようと思った。
「あっ!」
「あ、何かありました?」
「とりあえずさっ、湯ノ花饅頭食べよ! すっごい美味しいからっ!」
「あ、はい」
石川先輩に続いて、僕は温泉街を散策した。
そして、お目当ての饅頭を見つけた石川先輩は六個注文していた。
「あはは。ここからはお会計、別々でいい?」
「あ、はい」
後輩だからといえ、色々なものを奢りまくっては、さすがに財布が心配か。
……ん?
じゃあ今買った湯ノ花饅頭六個は、石川先輩が一人で食べるのか?
……ん?
ここからのお会計は……って、湯ノ花饅頭以外にもまだ色々食べる気か?
「おいしー! ほっぺた落ちそうだよー!」
石川先輩は、購入した湯ノ花饅頭をその場で食し始めた。
一個、二個、三個……。
さすがにこの辺で、あ、この人六個全部食べるつもりだ、と僕は思った。
「あれ、村田君は食べないの?」
「あ、僕は……大丈夫です。あんまりお金持ち合わせていないので」
「えー……」
石川先輩は残った湯ノ花饅頭に視線を落とした。
「じゃあ……半分だけなら」
断腸の思いなのか……湯ノ花饅頭半分を手渡そうとする石川先輩の手は震えていた。
「だ、大丈夫ですよ? 石川先輩が食べてください」
「いいから食べて……。あたし、ダイエット中だから」
いや嘘つけ。
ダイエット中の人が饅頭六個買い食いしないから。
ここから昼ご飯、夕ご飯と食べたらカロリー過剰摂取になるから。
「だ、大丈夫……っ」
半泣きの石川先輩は、僕の口に強引に饅頭を押し込んだ。
……顔が熱い。
「美味しい?」
「……ふぁい」
「それなら良かった。その饅頭も浮かばれるよ」
……そうですか。
「さて、それじゃあ次は何食べようか」
「ち、ちょっと待ってください! 僕達、今日は撮影周りのためにこの辺を散策しているんですよね?」
「え、突然どうしたの? そうだけど……」
「な、なら……買い食いの前に写真撮影を始めた方が良くないですか?」
「あー……始める?」
なんでちょっと残念そうなんだろう?
「むー……わかった。じゃあ始めよう」
「はい」
ほっ……。
良かった。石川先輩が首から下げてる一眼レフが、役目なく一日を終えることがなくなった。
「それじゃあまずは、テーマを決めようか」
石川先輩は言った。
中々脈絡もなく、写真撮影の手ほどきが始まりそうな予感を、僕は感じ取った。
「テーマですか……」
「そう。写真撮影する上で、テーマを決めることは大事なことだよ? 写真ってさ、自分がエモいと思ったものとか、良いと思ったものを伝えるためのツールじゃない。でも、色んな方向性を持った写真を集めたら、何が見せたかったのかなって、相手はわからなくなるものなの」
「なるほど。だから、自分が伝えたいものはこれですよ、と言うのを明確にするために、テーマを決めをするわけですね」
「そうそう。物分かり良いね、村田君」
「ありがとうございます」
僕は素直にお礼を言った。
「まー、あたしもアマチュアだからあんまり得意げにこういうことは語りたくないんだけど……。まずは5W1Hを用いて、テーマを決めようか」
「5W1Hですか」
When:いつ。
Where:どこで。
Who:誰が。
What:何を。
Why:何故。
How:どうやって。
……か。
「まあ、Whoは決まってますね」
「被写体はお互いだもんね」
石川先輩の言葉に、僕は頷いた。
「Whereは……伊香保?」
「もっと細かく、具体的に決めたいねー。村田君、好きな写真とかある?」
「えっ……」
好きな写真か……。
「水面に陽の光が反射する写真、とか好きです」
「あー。あれ、中々エモいよねー。……そういえば、ここからバスで行ける湖があった気がする」
「本当ですか?」
「うん。じゃあ、その湖に行ってみようか」
「はいっ!」
僕は頷いた。
そんな僕を、石川先輩は優しく微笑みながら見ていた。
「どうかしましたか? 石川先輩」
「いやあ、無邪気な笑顔だなって思って」
……途端に恥ずかしくなった。
「場所も決まったし、とりあえず移動を開始しようか。バスの中で残りの5W1Hは考えよう」
「そうですね」
僕達は移動を開始した。
ちなみに私はカメラに関してはズブの素人です。
カメラ好きな人からみれば粗が目立つかもしれませんが、『写真 撮り方』で検索めっちゃかけまくってるから許してクレメンス。