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第二話:合宿二日目朝食

「おーい、村田! 朝だぞ」

「うーん……」


 同室の先輩達に起こされて、僕は八時に起床した。


「村田、お前やっぱり、まだ具合悪いのか?」

「え……?」

「いやだって、昨日昼間にあんなに寝てたはずなのに、今日もぐっすりだったから」


 早川先輩に体調を心配された僕だが……今朝の寝覚めが悪かった理由は、体調が原因ではない。


『すきーっ!』


 僕の脳裏を過る、石川先輩に雄叫び。

 あの雄叫びを聞いた後、僕は混乱する頭で、石川先輩に気付かれないようにしながら山を下りた。

 部屋に戻って布団の中に潜って、しばらく悶えた後、眠りにつけたのは空が白んできた五時くらいのことだった。


 つまり、今朝の寝覚めが悪かった理由は、ただの寝不足だ。

 ただ……石川先輩のあの雄叫びの話は、先輩達には出来そうもない。


「いやいや早川、村田だけじゃなく、俺も寝覚め悪いんだけど」

「なんでだよ、橋本」

「宴会終わったのが深夜三時だからだよ!」


 橋本先輩はなんだか怒っているようだ。


「まったく。村田君が可哀想だろ。酒も飲めないのに、いきなりあんな深夜まで宴会に付き合わされて。社会人であれやったらアルハラだからな。アルハラ」

「マジ? 俺、労基に駆けこまれちゃう?」

「駆けこまれちゃう駆けこまれちゃう。ついでにネットニュースで実名報道されちゃう」

「うわあ、お先真っ暗じゃん」


 二人の軽口を聞きながら、僕達は朝食バイキングへ向かった。

 朝食バイキングの大広間は地下一階にあるようだ。

 まずはエレベーターで一階へ行き、喫煙室を横切った先に地下へと続くエスカレーターがあり、そこを下っていくことで朝食バイキングの大広間にたどり着く。


「なんか、ヤニ吸引したいな」

「ああ、わかる」


 今更ながら、今回の合宿の部屋割りは四人構成。

 一年生は僕だけ。後は四年生の早川先輩と橋本先輩と、二年生で寡黙な井手先輩という内訳だ。

 一年生が僕だけという部屋割りになった理由は、サークル側での、一年生をサークル内で孤立させないための配慮らしい。この新入生歓迎合宿の目的の一つに、新入生と先輩達が打ち解けるというものもあるわけだ。 

 ただ面倒なことに、僕以外の三人は、皆喫煙者だった。


「悪い村田、ちょっとスパってから行っていい?」

「あ、はい。スパって頂いて大丈夫です」

「……じゃあ、先に朝飯食ってろよ」

「あ、はい」


 ……どっちでもいいけど、一緒に朝食を食べてはくれないんだな。

 僕は三人が喫煙室に入っていくのを見送って、一人大広間へ向かった。

 エスカレーターを下っていると、大広間の中が垣間見えて、既にたくさんの人でごった返しているところが見えた。


「あ」

「あ!」


 そして、エスカレーターを降りたところで、僕は今最も顔を合わせたくない人と再会を果たした。


「村田君、おはよう! 体調は大丈夫?」

「い、石川先輩……」


 浴衣をヒラヒラ靡かせながら、石川先輩は僕に向けて手を振ってきた。

 いつもならその姿に見惚れていたのだが……あの雄叫びを聞いた後だと、石川先輩を直視することが出来ない。


 ……ただ、このまま、石川先輩と目を合わせられずにいていいのだろうか。

 聞かなくていいのだろうか?


 昨晩、どうして山の頂上にいたのか。

 あの雄叫びはなんだったのか。


 僕のことを好きだと言ったのは、真実だったのか……!?


 ……無理無理。聞けない。聞けるわけない。

 だって……もしあの雄叫びが本心じゃなかったら、僕もう、写真同好会に残れないよ?


 そもそも石川先輩には……幼馴染でただならない関係であることを匂わせている下園先輩がいるんだ。

 二人の仲は、ぽっと出で内気陰キャな僕では太刀打ち出来ないくらい確固たる関係なんだぞ。


 何ならこの後、石川先輩は下園先輩と朝食バイキングを食べるんじゃないか?


「おはよう、村田君」


 ほらー! やっぱりー!

 石川先輩の影に隠れて見えなかったけど、ちゃんといるもん、下園先輩。

 やっぱり二人で一緒に朝食食べるんだ!

 それくらいの仲なんだよ、この二人は!

 やっぱり、僕なんかでは二人の仲に付け入る隙はない。


 ……というか、下園先輩って意外と、石川先輩より背が低いんだな。

 まあ、石川先輩がモデル体型で背が高いこともあるんだけども。


「具合の方はもう大丈夫かい?」

「あ、はい……」

「そうかい。……それにしては顔、少し赤くない?」

「そ、そんなことはないと思います……」


 そりゃあ、朝から意中の相手の浴衣姿が見えたら、顔も赤くなる。

 昨晩、中々センセーショナルな現場も目撃した後という状況も相まって、一層顔も赤くなるってもんだ。


「ふうん。そっか。……それなら良かった」

「はい……」

「それじゃあ、同部屋の二人を待たせてるから、あたし達、行くね」

「あ、はい……」

「そうだ。折角なら、村田君も一緒に朝食食べないかい?」

「……えっ?」


 下園先輩の提案に、僕は困惑した。そりゃあ困惑する。

 いきなり意中の相手と朝食を共にするなんて……心臓がもたない。


「かっちゃん……」


 ……ほっ。

 この雰囲気、石川先輩は僕と朝食を食べることに関して、否定的な意見を持っているようだ。

 ……良かった。


 いや……良くなくない?


「ナイス判断」

「ふふんっ。そうだろ?」


 ……石川先輩、意外とノリがいい。

 とりあえず僕は、ニヤけそうになるのを必死に堪えた。


「……あー。じゃあ、同じ部屋の先輩達もご一緒してもいいですか?」

「同じ部屋……? 誰?」


 下園先輩に尋ねられた。


「早川先輩。橋本先輩。井手先輩です」

「あー……」


 石川先輩は、苦虫を嚙み潰したような顔を作った。


「どうかしたんですか?」

「……あはは。早川先輩、結構セクハラしてくるとこあるだろ?」


 下園先輩が教えてくれた。


「……というか、早川先輩達はどうしたの?」

「あ、皆でタバコを吸いに」

「君を置いてかい?」


 唐突に、二人が纏う空気がシリアスっぽくなった。

 また僕、何かしてしまったのだろうか?


「……まだ右も左もわからない新入生を放って喫煙室に行くなんて、感心しないな」

「え……。いや、僕も別に皆さんが喫煙室に行くことを拒みませんでしたし……」


 ただでさえ、写真同好会で僕は浮いているんだ。

 変な気を遣うくらいなら、僕を置いて自由にタバコを吸ってくれた方がマシだとさえ思っていた。


「まあ、君がいいならいいんだけどさ……」


 下園先輩は口振りの割に、全然、それでいいとは思ってなさそうだった。


「君はもう少し、自分の意思を主張してもいいと思うよ……?」

「……え?」


 ……自分の意思を?


「……でも、そんなことをして周りの空気を壊したくないですし」


 不思議な感覚だった。


「別に、一人でご飯を食べるくらいのことですし。副流煙とかも怖いし。むしろ、有難かったっていうか……」


 自分の意思を先輩達に話す姿を想像したら、浮かんできたのは言い訳の言葉ばかりだった。


「村田君」


 そんな僕の気を知ってか知らずか、下園先輩は真剣な眼差しで僕を見ていた。


「……気を付けたほうがいいよ」

「何をです?」

「気持ちって、言葉にしないと伝わらないから」


 ……下園先輩のアドバイスは、なんだか深く身に染みた気がした。


「石川先輩! 下園先輩! 席取れましたよ?」

「あ、細山田さん。ありがとう。……それじゃあ、またあとで。村田君」

「あ、はい……え?」


 下園先輩と石川先輩は、僕に手を振って大広間に入っていった。


 ……一緒に朝食、食べるって話じゃなかったっけ?


 どうやらシリアスパートを挟む内に、さっきの話は立ち消えてしまったようだ。

最近、ストックが速攻で尽きてやる気をなくすまでがワンセットなので…。

八話分ストック用意しました


何日でなくなるか見ものだね!


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