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第十一話:連絡先

 車酔いにより散々な目にもあったが、総合すると充実した日々を送れた新入生歓迎合宿も無事に終わり、僕は残り僅かとなったGWを楽しんだ。

 GWが終わると、講義が再開され、僕は再び、勉学に励む日々を送り始めた。


 前までなら、この代わり映えのしない日々に、時折辟易とした気持ちに駆られることもあったかもしれない。

 しかし、写真同好会に入会したおかげか。はたまた、石川先輩という初恋相手と少し親密になれたおかげか。

 なんだか最近、僕の視界に広がる世界は薔薇色……とまではいかないが、少しだけ華やかになった気がした。


『村田君、今日は写真同好会に来てね。六月の写真展示会のテーマ発表があるから』


 そして、新入生歓迎合宿を通して、変わったことがもう一つ。

 それは、僕のスマホの連絡先に、新しい人物が追加されたことだった。


 その相手とは、まごうことなき石川先輩。

 二日目の撮影周りの際、山道を爆走したタクシーのせいで車酔いした僕に代わり、皆に僕の写真を見せるため、石川先輩に写真データを送る必要があり……なし崩し的にではあるが、僕達は連絡先の交換をしあった。


 以降、こうして時々、石川先輩からメッセージが届くようになった。

 メッセージの内容は業務連絡に近い内容だったけど、石川先輩と連絡を取り合えるというだけで、僕は嬉しくてたまらなかった。


 まさかここまで、一人の女性に心酔する日がやってくるだなんて。

 中学、高校時代、まともな友人の一人も作れなかった過去の自分に言ったら、きっとびっくりするに違いない。


「……お疲れ様です」


 まあ、石川先輩と多少交友を深められたと言っても、写真同好会の部室に足を踏み入れる時はまだまだ借りてきた猫状態であることは変わらない。

 部室の中には、幾人かの先輩がいた。


 僕の挨拶に、皆は気だるげながら返事もしてくれた。


 僕は部屋の隅にちょこんと座り、時が来るのを待っていた。


「お疲れ様でーす」


 まもなく、石川先輩が部室に姿を見せた。


「お、お疲れ様です。石川先輩」

「お、村田君。ちゃんと来てるなんて偉いね」


 褒めてくれるのは素直に嬉しい。

 ……が、部室に来ただけで褒められるのは、不登校児が学校に行っただけで褒められる現象に似ていて、少し複雑な部分もあった。

 

 ま、そんな複雑な気持ちは今は放っておこう。

 まずは、石川先輩とより親密になるべく、好感度稼ぎのため、会話をせねば……!


「や。村田君。お疲れ」


 と思った矢先、下園先輩が僕に挨拶をしてきた。

 ……やはりこの二人は、大体いつも一緒にいる。

 ……ぐぬぬ。


「お疲れ様です。下園先輩」

「うん。……村田君、そんな隅っこじゃなくて、もっと皆のそばに近寄ったらどうだい?」

「え……?」

「その方が、皆きっと君と打ち解けられると思うから」


 ……確かに。

 こういう人がたくさんいる場所で、僕はいつも隅っこにいたから、条件反射で部室の隅に鎮座したが……下園先輩の言う通り、もっと皆の近くで待った方が、皆と打ち解けた関係になれるかもしれない。

 正直、盲点だった。


 もしかしたら普通の人なら、こんなこと盲点ではないのかもしれないけど……人付き合いが苦手な僕には、盲点だった。


「わかりました」

「うんうん。素直でいい子だね、君は」


 僕は体半分くらい、皆との距離を縮めた。

 以前の僕からは考えられないくらい、大きな進歩である。


「……え」


 しかし、下園先輩は目を丸くしていた。


「そ、それだけ……?」

「え、体半分くらい、寄せたんですけど……?」

「……」


 微妙な空気が僕達の間に流れた。


「よ、よく頑張ったね」

「ありがとうございます」


 僕は笑顔でお礼を言った。

 ……不思議な感覚だ。

 こうして人に褒めてもらえるのは、どうして中々……気分がいい。


「……そ、そろそろ新沼部長も来るかな」

「きたら、写真展示会のテーマ発表だね」


 下園先輩と石川先輩が楽しそうに談笑している中、僕も少しだけうずうずしながら、新沼部長がやってくるのを待っていた。

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