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第十話:誤解

「ふぅ……」


 宴会終わり、男性達の二次会の誘いを断って、あたしは大浴場で体を清めに来ていた。

 いやあ、本当、今日は中々タイトな一日になった。

 村田君との撮影周りに始まり、温泉街で軽く買い食いをして、湖畔に行って、写真を撮って……。


 露天風呂から見る絶景も相まって、やり切った感が中々すごい。


 ……ただまさか、こんなにも早く村田君と仲良くなるチャンスが来るだなんて、思ってもみなかった。


「はーっ、さっぱりした!」


 部屋に戻ると、同部屋の皆はトランプをして遊んでいた。


「次からあたしも混ぜてよね」

「わかってる」


 かっちゃんの声は少しムキになっているようだ。

 ……やっているゲームはババ抜きみたい。

 かっちゃん、いつもクールぶってるけど、すぐ顔に出るんだよね。だから、ババ抜きとかポーカー、すごい弱いんだ。


「内川ちゃん。あんまりかっちゃんをカモったらだめだよ?」

「大丈夫です」

「そう?」

「はい。もう絞り尽くした後なので」

「むがーっ!」


 かっちゃんは奇声を発して仰向けに寝転がった。

 内川ちゃんの言う通り、相当こってりカモられたらしい。


「かっちゃん」

「……」

「ざーこ。ざーこ」


 とりあえず、感情的になっているっぽい幼馴染を全力で煽り倒してやることにした。


「……内川さん、協力してくれるかい?」

「え、トランプで石川先輩を打ちのめすってことですか?」

「いや、暴力だ」

「暴力ですか」

「そうだ。言論で相手を説き伏せるなんて出来っこないんだ。だから、体でわからせてやるんだ」

「クレイジーですね、下園先輩」


 そうそう。そういうクレイジーさがないと、かっちゃんじゃないよね。


 ……?


「え、かっちゃん今、あたしを殴るって言った?」

「言ったよ。悪いかい?」

「いや普通に悪いでしょ……」


 一歩間違えれば犯罪だよ?

 わかってる?

 わかってないからそんな提案が出来たのか。


「まったく、なんなのさ。中学くらいの頃は引っ込み思案で可愛い性格をしていたのに。今では男性にモテモテな挙句、村田君に思いを寄せるようにまでなるだなんて」

「ちょっとかっちゃん!?」

「あ、やっぱり石川先輩、村田君のこと好きなんですか」

「やっぱり!? やっぱりって何?」


 まるで……あたしの恋心が、周りから見ればバレバレでした、みたいな言い方しないでほしい。


「いや普通にバレバレでした。他の男性を見る目と、村田君を見る目、全然違いましたから」

「マジかー……」


 そ、そんなに違ったのかな?

 自覚がないからわからないよぅ……。


「昨日の深夜、ミレイが部屋にいないことには気付いたかい?」

「ああ、加賀先輩と今朝少し話しました」


 加賀先輩とは、もう一人の同部屋の女性である。

 宴会が終わってすぐ、彼ぴと散歩してくると言って、鍵だけ渡してどこかに行ってしまっていた。


「ミレイの性格を考えるに、あれは雄叫びをあげに行っていたんだろう」


 ……図星である。


「雄叫び?」

「村田君、好きーってな具合でね」

「本当ですか?」

「他でもない僕が言うんだ。間違いない」

「乙女ですね……」

「そうかな? 深夜に雄叫びは近所迷惑だろう」

「ち、ちゃんと人目につかない山頂で叫んだもんっ!」


 ……はっ。しまった!

 ムキになってかっちゃんの説が合っていることを自供してしまった!


 クソ!

 かっちゃんめ、中々の策士だ……っ!


「……石川先輩、可愛いですね」

「そうだろう? 可愛いんだ。僕の幼馴染は」

「……いっそ殺して」

「でも、どうして告白しないんですか? 石川先輩に告白されて、振るような男はいないと思うんですけど」

「それ、実は僕も気になっていたんだよね。どうしてなんだい、ミレイ」

「えっ!?」


 ま、まだあたしを辱める気なの……?

 酷いよ、二人とも……。


「ねえねえ、どうしてなんだい。ミレイ」

「教えてください。先輩」

「……それは」

「それは?」

「……こ、告白は、男の人からしてもらいたいじゃん」


 ……二人がぽかんとしていて、あたしは顔を真っ赤にさせた。


「……相手から告白してもらって、交際していく中で有利な立ち位置にいたいとかじゃないの。……ただ、そういう交際の始まり方に憧れがあって……だから、あうぅ」

「おいおい、乙女が過ぎるぜ」

「本当だね……」

「あ、呆れないでよ、二人とも!」


 あたしは今日一番大きな声で叫んだ。

 二人は顔を見合わせて、呆れたようにため息を吐いた。


「ミレイ。だからって、折角村田君が撮影周りを一緒にやろうって誘ってくれた時、あんな態度を見せたら駄目だろう」


 あんな態度とは……村田君の誘いに難色を示したことだ。


「だって……いきなりだったから」

「それでもだよ。……少し直ったと思ったけど、引っ込み思案なところは相変わらずだね」

「……直すよう、善処します」

「そうだね。そうした方がいい」


 ……まあ、あたしも自分の性格の欠点には気付いている。

 直したいとも思っている。

 というか、直したつもりでいた。


 ……ただ、想い人相手となると、どうにも勇気が振るわない。

 昔の弱い自分が姿を見せてしまうのだ。


「まあ、その内何とかなるさ」

「……かっちゃんにそう言ってもらえると、本当にそうなる気がするから助かる」

「……褒めすぎだよ」

「そんなことない。だからトランプやろ」

「そうだね」

「豚のしっぽでいい?」

「わかった。負けでいいから、君の手を全力で叩かせてもらおう」

「……ぐぬぬ」

「ふふんっ」


 あたしはかっちゃんを睨むが、かっちゃんは勝ち誇ったように微笑んでいた。


「……お二人、本当に仲がいいですね」

「そうだね。腐れ縁って奴だ」

「……でも、それだけ仲良しだと、時々誤解されたりしないんですか?」

「誤解?」

「はい。……カップルって」


 あたし達は目を丸くして、苦笑しあった。



「あはは。ないないない」



 かっちゃんは、顔の前で手を横に振った。


「ないね。恋人にするにしても、ミレイだけは絶対ない。メンタルヘビー級だよ?」

「まあねー。そうなのよねー」

「……まあ、カップルって誤解されることはないだろうけど、別の誤解をしている人はいそうだったかもなぁ」

「え?」


 かっちゃんは疲弊したかのように、軽くため息を吐いた。



「多分……村田君、僕のことを男だと誤解していると思うんだ」

第一章完結です。

八話あったはずのストックがなくなった。

僅か二日の出来事だった。

これもう令和の神隠しだろ。


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