第2話 鍵盤の奥に、お嬢様
<SNS(X)タイムライン>
@RefrainBeat_KANA 2025/06/09 15:00:00 JST
#新メンバー探し #キーボード
今日はキーボードの子がバンド見学に来る日!
どんな子だろう?私たちに合うかな?
ドキドキ…!良い出会いになりますように!
@M.Yuzuki_piano 2025/06/09 15:30:00 JST
#バンド見学 #新しい世界 #緊張
月島響様にご紹介いただいたバンドの見学に参ります。
ポップスというジャンルは未知ですが、
新たな扉が開くかもしれませんわ。
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あれから3日。
リズムガーデンの一室。
『リフレイン・ビート』の面々は、そわそわしていた。
「ねぇ、どんな子かな? ドキドキするね!」
奏が目を輝かせながら、隣の響に肘で小突く。
「わかってるって。でもさ、また変な奴だったらどうする?」
響が冗談めかして言う。
だが、その声には期待の色が滲んでいた。
ドラムスティックを指でくるくる回す。
梓咲はいつものように本を読んでいたが、
その視線は時折、スタジオの扉の方へ向いていた。
普段は冷静な彼女も、内心は気になっているようだった。
怜はカフェスペースのカウンターで、
静かにコーヒーを飲んでいた。
聞こえてくる3人の会話に、
時折、微かに口元を緩める。
予定の時刻になり、スタジオのドアがゆっくりと開いた。
そこに現れたのは、一同の予想を遥かに超える人物だった。
深窓の令嬢を思わせる、上品な制服に身を包んだ少女。
長く艶やかな黒髪は、背中でふわりと揺れる。
水瀬結月だ。
彼女の優雅な雰囲気に、奏、響、梓咲の三人は
思わず息をのんだ。
スタジオに一瞬、静寂が訪れる。
結月は緊張しつつも、深々と頭を下げた。
「水瀬結月と申します。本日は、見学にお招きいただき、
誠にありがとうございます」
透き通るような声が、スタジオに響いた。
「あ、えっと、ど、どうぞー!」
奏が慌てて返事をする。
スタジオのテーブルに結月が座り、優雅にお茶を一口。
その姿は、まるで高級ホテルのラウンジにいるかのようだ。
その時、ドアが勢いよく開いた。
「うぇーい! バンド見に来たの!!?」
元気よく登場したのは響だ。
結月は、突然の響の登場に驚き、
持っていたコップをひっくり返しそうになる。
「きゃっ……!」
危うく茶色い染みがテーブルを汚すところだった。
その意外なギャップに、奏と梓咲は思わず笑みをこぼす。
「ご、ごめんなさい! つい、驚いてしまって……」
結月は顔を赤らめる。
「あはは、大丈夫だよ! 響ちゃん、もう!」
奏が笑いながら、結月の隣に座る。
自己紹介もそこそこに、早速練習が始まった。
結月はキーボードの前に座り、
楽譜に目を落とす。
「じゃあ、一回、合わせてみよっか!」
響がスティックを構える。
最初の音は、結月のキーボードからだった。
流れるような美しい旋律がスタジオに響く。
そのプロ級のピアノテクニックに、
奏と響は目を丸くし、梓咲も感心したように頷く。
「すごい……!」
奏が思わず呟いた。
しかし、曲が進むにつれて、
結月の表情に戸惑いの色が浮かび始めた。
ポップス特有の「跳ねるリズム」に、
クラシックのリズムが引きずられてしまうのだ。
キーボードの音が、バンド全体から
少しだけ浮いているように聞こえる。
「え、こんなに跳ねるんですか……?」
演奏が終わり、結月が顔を赤らめて呟いた。
額にはうっすらと汗が滲んでいる。
「結月ちゃん、ピアノすごく上手なのにね!」
奏が優しくフォローする。
「うんうん、クラシックとは全然違うもんねー」
響も頷く。
その時、スタジオの外から、怜の呟きが聞こえた。
彼女は受付で、何気なくコーヒーを飲みながら、
独り言のように言ったのだ。
「この曲、キーボードで盛り上げるなら、
ここはジャズっぽくてもいいかもな」
その言葉を、結月は聞き逃さなかった。
ハッとしたように顔を上げ、怜を見る。
怜は相変わらず無表情で雑誌を読んでいるが、
結月の目には、その言葉が
音楽的な壁を破るヒントとして映った。
驚きと、そして感動が、結月の心に広がった。
「ジャズ……ですか」
結月は呟くと、再びキーボードに向き直った。
怜の言葉をヒントに、少しずつ、
ポップスのリズムにアジャストしていく。
最初こそ戸惑いの連続だったが、
奏たちの純粋な音楽への情熱や、飾らない友情に触れ、
結月は少しずつ心を開いていく。
クラシックの世界しか知らなかった彼女にとって、
バンド活動は新鮮な驚きと喜びをもたらした。
響が親戚として結月を気遣い、
梓咲が寡黙ながらも的確な視点でアドバイスを送る。
練習が進むにつれて、彼女たちの間の関係性が深まっていく。
そして練習後。
結月は、満面の笑顔でメンバーに告げた。
「皆様と演奏させて頂けて、とても楽しかったです!
私も、このバンドで、新しい音の世界を体験してみたいですわ!」
正式にキーボードとして加入を表明する結月に、
奏と響は抱き合って大喜びした。
「やったー! これからよろしくね、結月ちゃん!」
梓咲も、小さく微笑んだ。
スタジオの奥。
怜は、その様子を静かに見守っていた。
新しい仲間が加わり、リズムガーデンが
さらに賑やかになる予感。
彼女の表情は変わらない。
だが、その瞳の奥には、
わずかながら温かい光が宿っていた。
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<SNS(X)タイムライン>
@RefrainBeat_KANA 2025/06/09 18:30:00 JST
#新メンバー #キーボード #バンドの音変わるかな
今日、新しいメンバーが加わってくれました!
結月ちゃん、ピアノがすごく上手でビックリ!
最初はちょっと緊張したけど、これから一緒に音を合わせるのが楽しみです!
[写真:結月を囲んでピースするメンバーたち]
@M.Yuzuki_piano 2025/06/09 19:00:00 JST
#初バンド #未知の世界 #緊張と期待
ポップスというジャンルは初めてで、慣れないことばかりですが、
皆様の熱意に触れ、私も精一杯頑張りたいと思います。
神楽坂様のスタジオ、不思議な場所ですわね…。
@RhythmGarden_Ray 2025/06/09 19:30:00 JST
#新顔 #騒がしさ増量
また一人増えた。騒がしさも増した。
ま、想定内だが。
【次回予告】
梓咲:「私たちの音、バラバラすぎないか…?」
奏:「でも、みんな頑張ってるよ!」
響:「あのオーナーさん、また何か言うかな?」
結月:「神楽坂様のアドバイス、いつも的確でいらっしゃいますわね」