表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第1話:開店休業中の天才ドラマーと、新たな音の芽吹き

<SNS(X)タイムライン>

@RefrainBeat_KANA 2025/06/06 18:00:00 JST

#バンド始めます #スタジオデビュー

今日はいよいよ響と梓咲と、私たちのバンド

『リフレイン・ビート』の初めてのスタジオ練習!

ドキドキするけど、どんな音が出るか楽しみ!


@Tsukishima_Hibiki 2025/06/06 18:05:00 JST

#ドラム担当 #お小遣い危機

奏に無理やりドラム担当にされたけど、

まあ、いっか。スタジオ代高いけど、親戚の

怜さんのスタジオなら少しは安くなるかも?


---


 喫茶スペースには夕日が差していた。

 オレンジ色で、柔らかい光が窓から差し込み、

 テーブルに置かれたグラスをきらきらと輝かせる。


 店内の隅、アンティーク調の丸テーブル。

 そこに3人の女子高生が集まっていた。


 星野奏、月島響、そして木野梓咲。

 まだバンドとも言えない、仮の集合体。

 しかし、彼女たちの目の輝きは、

 すでに確かな未来を描いていた。


 「ねぇねぇ、バンド名、どうする?」


 奏がいきなり身を乗り出して問いかける。

 ドラムに任命されたばかりの響が、

 手元のドリンクバーのコーラを一口飲みながら、

 怪訝そうに顔を上げた。


 「……まだ音出してすらないのに?」


 「でもさ、名前って大事だよ! 印象がさ!

 バンドの顔になるんだよ!」

 奏は勢い込んで指を立てた。

 何かひらめいたようだ。その瞳は希望に満ちている。


 「お菓子の名前とか、どうかな!?」


 響はコーラを勢いよく飲み干すと、ゲップを一つ。

 「お菓子の名前ねぇ……。うーん。

 じゃあ『ポテチと愉快な仲間たち』とか?」

 響が冗談めかして言うと、奏は一瞬きょとんとしたが、

 すぐに吹き出した。


 響の隣。いつものように文庫本を読んでいた梓咲が、

 ぴくりとも動かずに呟く。「響、ボケが寒い。却下」

 普段から無口な梓咲の、的確すぎるツッコミだった。


 「ひっどいな、梓咲! もう少し優しくしてくれても

 いいじゃんか!」響が頬を膨らませる。


 「あはは……」奏は困ったように笑う。

 「でも、響ちゃんの言う通り、なんか面白い名前がいいな。

 響きがよくて、忘れられないような!」


 三人の視線の先にあるのは、高校の軽音部(非公式)

 の部室兼喫茶スペースにあった。そこに乱雑に置かれた

 ドラムセットとギター、ベースが、彼女たちの

 「バンド結成」という小さな野望を雄弁に語っている。

 そう、今日から本格始動する彼女たちのバンドは、

 『リフレイン・ビート』と名付けられる予定だった。


---


 「ところでさ、スタジオ、どうするんだ?」

 梓咲が静かに尋ねる。

 バンド結成の次は、練習場所の確保が現実的な課題だった。


 響はスマホを取り出し、検索アプリを立ち上げた。

 「いくつか候補はあるんだけどさ……、

 どれも結構するんだよね、スタジオ代」

 画面には、時間貸しのスタジオ料金が表示されている。


 画面をスクロールするごとに表示される金額を見て、

 響の顔がみるみるうちに青ざめた。「ひぃ! 高い!

 これじゃ、私のお小遣い、一瞬でバイバイじゃん!

 バンドってこんなにお金かかるの!?」


 奏と梓咲も、その金額に思わず目を丸くする。

 想像以上の出費に、少しばかり現実に引き戻された。


 「これじゃ、毎日は無理だね……。

 せっかくやるならたくさん練習したいのに」

 奏がしょんぼり肩を落とした。


 その時、響が何かを思い出したようにポンと手を叩いた。

 弾かれたようなその動きに、二人は顔を向ける。

 「あっ! そういえば、うちの親戚、スタジオやってるんだ!」


 「え? そうなの!? なんで今まで言わなかったの!?」

 奏が目を輝かせた。


 「いやー、なんとなく? なんか元々ドラマーだった人

 らしいんだけど、今は引退してスタジオ経営してるって。

 ちょっと料金安くしてもらえないか、

聞いてみようかな?」

響はそう言うと、すぐにスマホを取り出し、

電話をかけ始めた。


 数分後、電話を終えた響が、満面の笑みで振り返った。

 「やった! 貸してくれるって! しかも、初めてだからって

 ちょっと安くしてくれるって! ラッキー!」


 「すごい! 響ちゃん、ありがとう!」

奏が手を叩いて喜ぶ。希望の光が差したようだった。


梓咲も、小さく頷いた。「助かる」

その短い言葉の中に、感謝の気持ちが込められていた。


 かくして、『リフレイン・ビート』の初めての

 スタジオ練習の場所は、響の親戚が経営する

 『リズムガーデン』に決定した。


---


 土曜日の午後。


 都会の喧騒から少し離れた路地裏。

 リズムガーデンの入口が、ひっそりと佇んでいた。

 控えめながらもセンスの良いロゴが飾られている。

 レンガ造りの外壁は温かみがあり、

 まるで隠れ家のような雰囲気だ。


 「ここが怜さんのスタジオかぁ。なんか、おしゃれだね」

 奏が感心したように呟くと、響が元気よく扉を開けた。

 「おーい、怜さん! 響です! 来たよー!」


 エントランスへ入る。広々としたカフェスペースが

 目に飛び込んできた。奥にはスタジオの受付がある。

 ショートヘアで伊達眼鏡をかけた女性が、

静かにコーヒーを飲んでいた。

その落ち着いた雰囲気は、カフェの空気と一体化している。


 「あ、怜さん! お久しぶりです!」

 響が駆け寄る。久しぶりの親戚との再会に、

 響の表情は輝いていた。


 女性――神楽坂怜は、ゆっくりと顔を上げた。

 その瞳は、響の顔をじっと見つめている。

 しかし、そこに親戚を認識するような色はなかった。


 「……誰だ、お前」


 怜の無表情な一言に、響は文字通りずっこけた。

 派手なリアクションに、奏と梓咲は思わず目を丸くする。

 「えええええええええええっ!? 響です! 親戚の!

 覚えてないんですか!? ひどい!」


 奏と梓咲は、目の前で繰り広げられるコントに、

 きょとんとしている。

 このオーナー、なんだかすごい人なのかな?


 怜は少し考え込む素振りを見せ、小さく頷いた。

 「ああ、響か。まさかこんなに大きくなっていたとはな。

 昔はこれくらいの(指で小さい高さを表す)小さかったのに」

 まるで成長を喜ぶかのような口調だが、表情は変わらない。


 「まだ覚えてるんですか!? って、え、失礼な!

 昔は小さかったって、どんだけ覚えてるんですか!?」

 響は驚きつつも、ちょっとムッとする。


 「うるさい。早く練習しろ。スタジオの時間だ」

 怜はそう言うと、再び手元の雑誌に目を落とした。

 響はまだぶつぶつ文句を言っているが、

 怜の態度は変わらない。


 「はーい……。ほら、奏、梓咲! あそこがスタジオだって」

 響は肩をすくめながら、二人に声をかけた。


 案内されたスタジオは、清潔で広々としていた。

 最新の機材が並び、防音もしっかりしていて、

 これなら思う存分、大きな音が出せそうだ。


 「すごいね、響ちゃん! こんなに広いスタジオ、初めてだよ!」

 奏が目を輝かせる。興奮が抑えきれない様子だ。


 「よし、じゃあ早速、音合わせてみよっか!」

 響がドラムスティックを握りしめた。

 初めての場所での初めての練習。胸が高鳴る。


 それぞれの楽器を準備。簡単な音合わせから始める。

 奏のギターの音が鳴り、梓咲がベースを弾き、響がドラムを叩く。


 「せーのっ!」


 拙いながらも、三人の音が重なり合う。

 まだバラバラ。お世辞にも上手いとは言えない。

 でも、その音は確かに「バンドの音」だった。

 彼女たちだけの、新しい音がそこに生まれた。


 「なんか……、感動するね」

 奏が目を潤ませながら、嬉しそうに呟く。

 胸いっぱいに広がる喜び。


 「うん!」響も満面の笑みで頷いた。

 「これから、もっともっと上手くなろうね! 絶対!」


 梓咲も、小さく口元を緩めた。その表情は、

 普段のクールで無口な彼女からは想像できないほど、

 穏やかで、どこか満足げだった。


 スタジオの外。怜がカフェのカウンターでコーヒーを

 飲みながら、聞こえてくる音に耳を傾けていた。

 彼女の表情は相変わらず無表情。だが、瞳の奥には、

 遠い過去を懐かしむような、微かな光が宿っていた。


 『リフレイン・ビート』の、最初の一歩が、今、始まった。


---


<SNS(X)タイムライン>

@RefrainBeat_KANA 2025/06/06 21:00:00 JST

#バンド始めました #リフレインビート #スタジオデビュー

今日、初めてのスタジオ練習でした!

ドッキドキで、音出すのも大変だったけど、

みんなと一緒だと本当に楽しいね!

これから頑張るぞー![写真:スタジオで楽器を囲み、ぎこちない笑顔を見せるメンバーたち]


@Tsukishima_Hibiki 2025/06/06 21:05:00 JST

#ドラム初心者 #お小遣いバイバイ

叩いたら手がジンジン。でも、あの3人で音が重なった瞬間、

なんか泣きそうになった。……これ、もっとやってみたいかも。


@RhythmGarden_Ray 2025/06/06 22:00:00 JST

#日常 #騒がしい #しかし

今日から騒がしい日々が始まった。

まあ、悪くはない。


【次回予告】

響:「ねぇ奏、キーボード見つかった?

  なんか変な人来るらしいけど…」

奏:「うん!私、きっと素敵な出会いがある気がするの!」

梓咲:「変な出会い、確定じゃないか?」

第2話 サブタイトル:『鍵盤の奥に、お嬢様』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ