迷惑の間
「皆んな、水、食料、ゴミ袋を持ったな? 此の3つは絶対必要になるから忘れるなよ」
私たちは此れから本家の御隠居様がお遊びで造った、迷路の間に入り人探しを始めるのだ。
迷路の間と言っても入り組んでいる訳じゃ無い、ホラー映画などで襖を開けても開けても同じ部屋か何処までも続き、出られない部屋っていうのを見たことがあると思うのだが、御隠居様はアレを現実に造ってしまった。
まぁ構造は至って簡単、ただしとんでもなく広い敷地が無くては造れない。
構造が簡単というのは、延々と続く1部屋1部屋の外側と内側の長さが微妙に違って造られている。
本家の屋敷の間取り図を見れば一目瞭然で分かるのだが、屋敷の母屋、此処だけでも普通の民家の十数倍ある、そこから渡り廊下で繋がっているのが、本家の所有する裏山を取り囲むように造られている迷路の間。
だから延々と襖を開け続ければ最初の部屋に戻れるのだけど、一周するのに飲まず食わずで襖を開け続けても2日か3日は掛かるって代物。
全部の部屋の襖の絵柄は表も裏も同じで外側も内側も似たような壁と障子だから、部屋の中で立ち止まり回りを見渡したら自分が何方の襖から入って来たかも分からなくなる。
その上、廊下に出入りできるのは最初の部屋だけなのだ。
一度迷路の間に入ってしまったら、襖と共に廊下と部屋を仕切る障子も開けられるか一々確かめなくてはならなくなる。
壊せば良いではないかって思われるだろうけど、昔ながらの襖や障子に見えるのは見た目だけで、チョットやソット乱暴に扱っても壊れない素材でできているから無理。
スマホや方位磁石も使えないから延々と歩き続けるしか無い。
その迷路の間に御隠居様の大学生の曾孫の友達が迷い込んでしまった為に、私たち捜索隊が組織され迷路の間に突入しようとしている訳だ。
まったく御隠居様もとんでも無い物を作ってくれたよ。
私たち数年に一度の割合で捜索に向かわされる分家の者にしてみれば、此処は迷路の間では無く迷惑の間としか思えないのだ。