女神の血 LISA
魔王の言葉が神殿に響き渡る中、リサの心臓は激しく鼓動した。
女神の血統。
腑に落ちない。彼女はただ――人間だった。そうだろう?
しかし心の奥底では、それが真実ではないことを知っていた。完全には。夢、幻覚、そして古代の何かに目覚めるような身体の感覚――すべてがこの瞬間へと繋がっていた。
コルは彼女を守るように立ち、魔王の攻撃の激しさにまだ痛みを覚えていた。しかし、彼は気にしなかった。本能がリサをここから連れ出せと叫んでいた。
ジェイコブは彼らの隣で緊張し、剣を握りしめていた。「この戦いでは勝てない」と彼は呟いた。「このままでは」
コルは自分が正しいと分かっていた。しかし、降伏という選択肢はなかった。
魔王は一歩近づき、その存在感に息苦しくなった。 「お前は自分が一体何者なのか、分かっているのか?」
リサは手にした原稿を握りしめた。予言は読んだ。兆候も見ていた。だが、一度も信じたことはなかった。今に至るまでは。
「私に何の用だ?」彼女は予想以上に落ち着いた声で、無理やり尋ねた。
魔王の視線に、何か読み取れないものがちらついた。「お前が相応しいかどうかを見極めるためだ。」
そして…
彼は動いた。
コルは即座に反応し、魔王の手がリサに向かって放たれると、リサを押しのけた。衝撃でコルは床を滑らせ、肋骨に激痛が走った。
ジェイコブが突進し、剣が銀色の弧を描いて閃いた。魔王は彼にほとんど目を向けず、振り下ろした刃を素手で受け止めた。
ジェイコブの目は大きく見開かれた。
そして魔王は手首をひねり、剣を粉々に砕いた。
ジェイコブはよろめきながら後ずさりし、息を荒くした。「それは…まずい。」
リサは心臓が激しく鼓動する中、慌てて立ち上がった。コルやジェイコブのように戦う術を知らなかった。彼らのような力はなかった。
しかし、彼女には何か別のものがあった。
本能が支配した。彼女は自分の奥深く――何年もの間、自分の中に渦巻いていた力へと手を伸ばした。
そして初めて。
彼女はそれを解き放った。
彼女の手から金色の光が噴き出し、闇を焼き尽くした。その力が魔王に衝突し、彼は後ろに滑るように吹き飛ばされ、寺院が揺れた。
初めて――彼は驚いた表情を見せた。
コルは見つめた。
ジェイコブは息を吐いた。「ああ、これは初めてだ。」
リサの手は震え、まだ光っていた。
彼女は何が起こったのか理解できなかった。
しかし、魔王は理解していた。
そして初めて――
彼は微笑んだ。
リサの呼吸は荒く、噴出した黄金のエネルギーで手はまだチクチクしていた。彼女は手のひらを見つめ、思考は駆け巡った。
あの力――どこか懐かしいもの、まるでずっと知っていたけれど忘れていた何かのように。
コルは赤い目を細め、彼女を注意深く見ていた。彼は以前にもあのエネルギーを感じたことがある。彼女からではなく、彼女のような誰かから。遠い昔に逝ってしまった誰かから。
魔王は背筋を伸ばし、リサの攻撃が些細な迷惑に過ぎなかったかのように埃を払い落とした。しかし、彼のニヤリとした笑みは消えていた。「そうか、本当か」と彼は呟いた。「女神たちの血はまだこの世界に残っているんだ」
リサは大きく息を呑んだ。「何…何を言っているんだ?」
魔王は鋭い視線で首を傾げた。「知らないのか?」彼の口調は、ほとんど面白がっているようだった。 「お前たちの祖先はかつて、お前たちの理解を超えた領域を支配していた。だが、時が経てば、どんなに偉大な遺産も消え去る。」
コルは拳を握りしめた。「もう十分だ」と彼は唸り声を上げた。「我々を殺すために来たのなら、やってみろ。」
魔王はくすくす笑った。「お前を殺す?いや、まだだ。」
彼が片手を上げると、周囲の空気が動いた。
コルが反応する間もなく、目に見えない力が彼に襲い掛かり、石柱へと吹き飛ばされた。ジェイコブは突進したが、攻撃を仕掛ける前に、暗い触手が彼の体に巻き付き、神殿の床に叩きつけられた。
リサは息を呑み、後ずさりした。魔王の力は圧倒的で、息詰まるほどだった。
「だが、お前は…」彼はリサの方を向き、金色の目を輝かせた。「お前は…未完成だ。」
闇の脈動が彼女へと襲いかかった…
しかし、今回はリサは引き下がらなかった。
恐怖よりも本能が勝り、彼女の体が勝手に動いた。両手を掲げると、目の前に黄金の光の盾が爆発し、魔王の攻撃は届く前に粉砕された。
寺院が震えた。空気がエネルギーでパチパチと音を立てた。
リサの胸は激しく上下した。どうやってそんなことをしたのか、彼女には分からなかった。
魔王は低くくすくす笑った。「面白いな。」
コルは歯を食いしばり、無理やり立ち上がった。肋骨が悲鳴を上げていたが、気にしなかった。「リサ」彼は唸り声を上げた。「逃げろ。」
リサはためらった。
彼女は逃げたくなかった。もうこれ以上。
しかし、彼女が決断する前に、魔王の背後に影の門が開いた。
彼は最後にもう一度彼女を見つめた。「また会おう」と彼は言った。「もうすぐだ。」
そして、瞬きする間もなく、彼は消え去った。
寺院は静まり返った。
コルは鋭く息を吐き、前に出た。ジェイコブはうめき声をあげ、頭をこすった。
リサは凍りついたように立ち尽くし、両手はまだかすかに光っていた。
彼女はただの少女ではなかった。
彼女はただの人間ですらなかった。
そして初めて、彼女は悟った――
自分がなるべきものから逃れることはできない。