第99話「結界のほころび」
第99話
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夜のアーソン城は、まるで世界そのものが息を潜めているかのように静かだった。
白銀の剣士ブロン――いや、トシードは、城壁の影を滑るように駆け抜けていく。
胸元の白銀メダルから、ガオンの声が響いた。
「トシ、あっちだおん。
さっき、へんな“ゆらぎ”を感じたおん」
「結界のほころびか……案内してくれ」
「おん!」
ガオンの気配が導くまま、トシードは城下町の外れへ向かった。
昼間は人で賑わう市場も、今は静まり返り、
魔石灯だけが淡く道を照らしている。
やがて、古い水路の上にかかる小さな橋へたどり着いた。
「……ここか?」
「おん。ここ、へんな感じするおん。
まるで……“穴”があいてるみたいだおん」
トシードは橋の中央に立ち、目を閉じた。
魔力の流れを感じ取る――
その瞬間、胸の奥がズキリと痛んだ。
「……これは……」
水路の下から、かすかな魔力の“逆流”が起きていた。
本来、街全体を巡る魔力は一定方向に流れるはずだ。
だが、ここだけは違う。
まるで、地下から“何か”が呼吸しているように、
魔力が脈打っていた。
「ガオン……これは結界のほころびじゃない。
“外部からの干渉”だ」
「外部……?
じゃあ、だれかが……?」
「いや……これは“人の魔力”じゃない。
もっと……深くて、重い……」
胸の奥で、また痛みが走った。
まるで“誰か”が心臓を指先でつついているような、
不自然な痛みだった。
ガオンが不安げに鳴いた。
「トシ……だいじょうぶおん?」
「……ああ。だが、この痛み……ただの魔力反応じゃない」
トシードは橋の下へ視線を落とした。
水路の闇が、ゆらりと揺れた気がした。
「この揺らぎ……結界のほころびじゃない。
もっと……意図的なものだ」
ガオンが首をかしげる。
「いとてき……?」
「そうだ。
これは“自然に壊れた”んじゃない。
何百年もかけて、じわじわと“内部に侵食してきた”魔力だ」
ガオンの耳がピンと立った。
「そんなこと……できるやつ、いるおん?」
「分からない。
だが……これは街の魔力とは違う。
アーソンの結界はキヨフレッドが設計した。
その魔力の流れを乱すには……
相当な知識と、長い時間が必要だ」
ガオンは尻尾を下げた。
「じゃあ……だれかが……ずっと、ずっと前から……?」
「そうだ。
少しずつ……少しずつ……
結界の“外側”から魔力の位相をずらし続けている」
トシードは水路の底へ手を伸ばし、魔力を流し込んだ。
すると――
水路の底が、青白く光った。
「……やはり。
これは“アーソンの魔力じゃない”。
外部の魔力だ。
しかも……強い意志を持った魔力だ」
ガオンが震えた声で言った。
「じゃあ……このままだと……?」
「ああ、サリアとキヨフレッドの結界が……解かれる」
ガオンは目を輝かせた。
「じゃあ、ふたり、たすかるおん!?」
トシードは首を振った。
「違う。
“結界が破られる”のと、“封命供魔が解ける”のは別だ」
ガオンは瞬きをした。
「べつ……?
じゃあ、ふたりは……?」
「助からない。
むしろ――危険だ」
トシードは水路の底に浮かぶ青白い光を見つめた。
その光は、まるで心臓の鼓動のように脈打っている。
「この結界は……サリアとキヨフレッドの“生命活動を止めたまま”維持されている。
封命供魔は、魂と肉体を切り離し、肉体だけを魔力の器にする術だ」
ガオンは小さく震えた。
「じゃあ……けっかいがきえたら……?」
「器が壊れる。
二人の身体は……ただの“空の殻”になる」
ガオンは尻尾を下げ、悲しげに鳴いた。
「そんなの……そんなの、いやだおん……」
トシードは拳を握りしめた。
「だからこそ、結界が破られる前に“原因”を突き止めなきゃいけない。
封命供魔を解く方法は……別にあるはずだ」
ガオンは涙目でトシードを見上げた。
「じゃあ……この“ゆらぎ”は……?」
トシードは水路の底に手をかざし、魔力を流し込んだ。
青白い光がさらに強く脈打つ。
「これは……誰かが何百年もかけて仕込んだ“侵食の魔力”だ。
結界の外側から、少しずつ、少しずつ……
魔力の位相をずらしている」
ガオンは息を呑んだ。
「そんな……ながいあいだ……?」
「そうだ。
普通の魔導士にはできない。
強い意志と、膨大な魔力……
そして、何百年も途切れない“目的”が必要だ」
ガオンは震えた声で言った。
「じゃあ……だれかが……ずっと、ずっと……
アーソンをこわそうとしてるおん……?」
「“壊す”というより……
“封命供魔を外側から揺さぶっている”感じだ」
トシードは眉をひそめた。
「外側から結界を歪めて……
内部の魔力循環を乱そうとしている」
ガオンは尻尾を丸めた。
「そんなこと……なんのために……?」
トシードは答えられなかった。
ただ、胸の奥で、
誰かが泣いているような痛みがした。
「……分からない。
でも、この揺らぎが進めば……
サリアとキヨフレッドの身体は崩壊する。
そして……何かが“解き放たれる”」
ガオンは震えた。
「なにが……?」
「それを確かめる。
この揺らぎの中心――
封命供魔の核へ行く」
ガオンは力強く頷いた。
「いくおん!
トシといっしょに、いくおん!」
トシードは白銀の剣を握りしめた。
「行こう。
何百年もかけて仕込まれたこの“侵食”が完成する前に……
サリアとキヨフレッドを救うために」
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