第95話「ソウル・ダイブ」
第95話
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サリアの魂は、暗く果てしない深淵を落ち続けていた。
そこは光も音もなく、ただ冷たい闇だけが広がる世界。
重力も方向もなく、ただ“落ちている”という感覚だけが続く。
だが、その闇の奥に――微かな光があった。
サリアはその光に向かって手を伸ばした。
その光は、彼女が何度も夢に見た温もりだった。
キヨフレッドの魂。
彼は静かに座り込み、まるで眠るように目を閉じていた。
深淵の闇に溶け込むように、静かで、儚くて、触れれば消えてしまいそうだった。
サリアは震える手で彼に触れた。
「……キヨ……!」
その瞬間、彼の魂がゆっくりと目を開けた。
深い闇の中で、彼の瞳だけが温かく光っていた。
「……サリア……どうして……ここに……」
その声は、現実の彼と同じだった。
優しくて、少し困ったようで、サリアの心を包み込む声。
サリアは涙をこぼしながら抱きついた。
「あなたを……迎えに来たの……!
だって……あなたは私の愛する人なのよ……!」
キヨフレッドは目を見開き、そして悲しそうに首を振った。
「だめだ……サリア。
ここは魂の深淵……サリアが来ていい場所じゃない……」
「そんなの関係ない!
あなたを一人にしておけない……!」
サリアの叫びが深淵に響いた。
その声は震えていたが、強かった。
愛する人を失う恐怖と、絶対に離さないという決意が混ざっていた。
だが、その声に応えるように――
深淵の闇が、サリアの魂を飲み込もうと蠢き始めた。
「……っ!?」
魂が削られるような痛みが走る。
視界が白く染まり、意識が遠のいていく。
深淵は“異物”を許さない。
サリアの魂を引き裂き、闇に溶かそうとしていた。
「サリア!!」
キヨフレッドが彼女を抱きしめた。
その腕は温かく、しかし震えていた。
「だめだ……サリア……サリアの魂が……消える……!」
「キヨ……わたし……あなたを……」
言葉が途切れ、サリアの魂が崩れ始める。
深淵が彼女を引き裂こうとしていた。
キヨフレッドは歯を食いしばり、
サリアの魂を抱きしめたまま叫んだ。
「――帰れ!!
サリア……生きろ!!」
その叫びは、深淵の闇を裂いた。
光が爆発し、サリアの魂は強制的に深淵から弾き飛ばされた。
キヨフレッドの姿が遠ざかる。
彼の手が離れていく。
「キヨ――!!」
サリアの叫びは闇に吸い込まれ、
彼女の意識は現実世界へと戻されていった。
・・・・・・・・・・
「――っ!!」
サリアは跳ね起きた。
息が荒く、胸が苦しい。
全身が汗で濡れ、手は震えていた。
魂の深淵から戻ったのだ。
「……キヨ……!」
サリアはすぐに寝台へ駆け寄った。
キヨフレッドは相変わらず静かに眠っている。
呼吸は弱く、瞳は閉じたまま。
サリアは彼の手を握りしめた。
「キヨ……どうして……どうして私を戻したの……
あなたの魂は……まだ深淵に……」
返事はない。
だが、サリアは気づいた。
――彼の手が、ほんの少しだけ温かくなっている。
「……キヨ……あなた……」
サリアの目から涙が溢れた。
深淵で彼が見せた表情。
自分を守るために、魂の力を振り絞って押し戻したあの瞬間。
「どうして……どうして自分を犠牲にするの……
わたし……あなたを助けたかったのに……!」
サリアはキヨフレッドの胸に顔を埋め、泣き続けた。
彼の魂はまだ深淵に囚われている。
だが――確かに彼はサリアを守った。
その証拠が、彼の手の温もりだった。
・・・・・・・・・・
サマヴァーとエアリが駆け寄ってきた。
「サリア! 大丈夫か!?」
「サリア……戻ってきたんだね……!」
サリアは涙を拭き、二人に微笑んだ。
「……うん。
でも……キヨはまだ深淵にいる。
私を守ってくれたの……」
エアリは唇を噛み、涙をこぼした。
「キヨ……そんな……
サリアのことが……本当に大事なんだね……」
サマヴァーは拳を握りしめた。
「……あいつらしいよ。
だが、サリア。
お前が戻ってきてくれて……本当に良かった」
サリアは首を振った。
「まだ終わってない。
キヨは……まだ深淵にいるの。
だから……今度は今度こそは私が……」
サリアはキヨフレッドの手を握りしめた。
「キヨ……絶対に……絶対にあなたを取り戻す……
今度こそ……あなたを救う……!」
彼女の声は震えていたが、強かった。
愛する人を失う恐怖と、絶対に離さないという決意が混ざっていた。
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