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第94話「アーソンの塔にて」

第94話

ご愛読いただきありがとうございます。

すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!

ヒーゴ魔法王国の首都アーソン


大陸随一の魔法都市であり、王国の叡智が集まる場所。

その中心にそびえる「大魔導院」の最上階――

そこに、ひとつの静かな部屋があった。

部屋の中央には白い寝台。

その上で、キヨフレッドは静かに横たわっていた。

胸を貫いた三叉槍の傷は、治癒魔法によって完全に塞がっている。

皮膚も筋肉も骨も修復され、肉体だけを見れば、まるで深い眠りについているだけのようだった。


だが――彼の瞳は開かなかった。

呼吸はある。

脈もある。

体温もある。

けれど、彼の魂は戦いの中で深く削られ、

意識は深い深い闇の底に沈んだままだった。


サリアは震える手で彼の頬に触れた。

「……キヨ。お願い、目を開けて……」

返事はない。

まつげは微動だにせず、胸の上下だけが彼の生を示していた。

サリアの胸に、鋭い痛みが走る。

二人で未来を語り合った。

戦いが終わったら、旅に出ようと約束した。

そのすべてが、今は遠い。

「キヨ……あなたがいない世界なんて、考えられないよ……」

声が震えた。

涙がこぼれそうになる。

だが、彼女は唇を噛みしめ、涙をこらえた。

泣いている暇はない。

泣いているだけでは、彼は戻ってこない。

「……キヨ。あなたは、まだ……ここにいる。

絶対に、取り戻すから」

サリアは立ち上がり、机に積まれた魔導書を開いた。


・・・・・・・・・・


アーソンの大魔導院には、魔法王国の叡智が集まっている。

魂、治癒、封印、召喚、古代魔術――

あらゆる分野の書物が揃っていた。

サリアはそのすべてに手を伸ばした。

「魂の損傷……精神体の断裂……

どれも違う……キヨの状態とは一致しない……」

ページをめくる指先は震え、

目は赤く、睡眠はほとんど取っていない。

それでも、諦めるという選択肢はなかった。

キヨフレッドは、彼女にとって世界そのものだった。

彼の笑顔が、彼の声が、彼の温もりが、

サリアの人生を照らしていた。

「……キヨ。あなたがいないと、私……」

声が震えた。

だが、彼女は涙を拭い、再び本に向き合った。


そのとき――

古代魔術の書物に記された一節が、彼女の目を止めた。

“魂が深淵に沈むとき、肉体は生きていても意識は戻らない。

深淵に沈んだ魂を呼び戻すには、

同調者が魂の糸を辿り、深淵へ降りなければならない。”

サリアは息を呑んだ。

「……魂の深淵に……降りる……?」

それは危険な術だった。

成功率は低く、失敗すれば同調者の魂も戻れなくなる。

つまり――サリア自身も命を落とす可能性がある。

だが、迷いはなかった。

「キヨを……一人にしない。……絶対に、連れ戻す」


・・・・・・・・・・


サマヴァーとエアリも、毎日のように部屋を訪れた。

二人とも、サリアの疲れた顔を見るたびに胸を痛めていた。

サマヴァーは壁にもたれ、腕を組んで静かに言った。

「……サリア。無理はするな。

お前が倒れたら、キヨが悲しむ」

その声には、彼なりの優しさが滲んでいた。

サマヴァーは不器用だが、誰よりも仲間思いだ。

サリアは首を振った。

「無理なんてしてない。

私は……キヨを助けたいだけ」

エアリは涙をこらえながら、寝台の横に座った。

「キヨ……ねぇ、聞こえてる?

サリアは、ずっとあなたの名前呼んでるんだよ……

……こんなに苦しんでるのに……」

エアリの声は震えていた。

彼女にとってキヨフレッドは、兄のような存在だった。

サリアはエアリの肩に手を置いた。

「大丈夫。

キヨは……必ず戻ってくる。

私が連れ戻すから」

その言葉は、決意というより祈りに近かった。

だが、仲間たちはその祈りを否定しなかった。

サマヴァーは静かに言った。

「……信じてるぞ、サリア。

お前なら……きっとやれる」

エアリも涙を拭き、笑顔を作った。

「うん……サリアなら……絶対に……」

仲間たちの優しさが、サリアの胸に温かく広がった。

だが同時に、その優しさが痛かった。

――キヨがいないだけで、こんなにも世界は寒い。


・・・・・・・・・・


サリアは魔導院の中央ホールに巨大な魔法陣を描いた。

魂の深淵へ降りるための儀式――

古代魔術の中でも禁術に近いものだ。

サマヴァーが険しい顔で言った。

「サリア……本気か。

戻れなくなるかもしれないんだぞ」

サリアは静かに頷いた。

「分かってる。

でも……キヨを一人にできない。

私は……彼は愛する人だから」

その言葉に、サマヴァーは目を伏せた。

エアリは泣きながらサリアの手を握った。

「サリア……お願い、無事で戻ってきて……

2人とも……絶対に……」

サリアは微笑んだ。

その笑顔は、涙を隠すためのものではなかった。

ただ、キヨフレッドへの愛が溢れているだけだった。

「大丈夫。

キヨが……私を呼んでるから」

彼女は魔法陣の中心に立ち、

キヨフレッドの胸に手を当てた。

「キヨ……今、行くから。

あなたの魂を……必ず取り戻す。

だって……私たちは、まだ未来を約束してるんだから」

魔法陣が光を放ち、

サリアの体が淡く浮かび上がる。

サマヴァーは拳を握りしめ、

エアリは泣きながら祈り続けた。

サリアは最後に、愛おしげにキヨフレッドの顔を見つめた。

「……キヨ。

あなたがいるなら、私はどこへでも行ける」

そして――

「――《ソウル・ダイブ(魂降り)》!」

光が爆発し、

サリアの意識は深淵へと落ちていった。

婚約者を取り戻すために。

愛する人を、もう一度抱きしめるために。

そして――

仲間たちの願いに応えるために。

最後までお読みいただきありがとうございました。

気に入っていただけた方は、ぜひ、

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よろしくお願いいたしますm(__)m

つけてくれると、嬉しいです。

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