第93話「相打ちの果てに」
第93話
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世界が震えていた。
キヨフレッドとブルイドンの戦いは、もはや戦場という枠を超え、
大陸そのものを揺るがす“災害”の衝突だった。
地脈の光が大地を走り、海の闇が空を覆う。
光と水がぶつかるたび、雷鳴のような轟音が響き、
兵士たちは耳を塞ぎながらただ見守るしかなかった。
誰も近づけない。
誰も介入できない。
サリアでさえ、結界を維持するためにその場から動けず、
ただ涙を流しながらキヨフレッドの背中を見つめていた。
ブルイドンの巨体が空を裂き、海の奔流が渦を巻く。
その中心で、キヨフレッドは白銀の剣を構え、
血に濡れた体を震わせながら立っていた。
「白銀の剣士よ……終わりにしよう」
ブルイドンの声は低く、しかし確かな殺意を帯びていた。
その手には、深海の闇を凝縮した三叉槍が握られている。
キヨフレッドは息を整え、剣を握り直した。
「……ああ。終わらせる」
二人の間に、風が止まった。
音が消えた。
世界が息を潜めた。
そして――。
「うおおおおおおおおッ!!」
「滅びよ、人間ッ!!」
二つの影が、光と闇の尾を引きながらぶつかった。
――ドガァァァァァァァンッ!!
衝撃が大地を割り、空を裂き、
戦場全体が白い光に包まれた。
サリアは結界の中で叫んだ。
「キヨーーーッ!!」
光が収まったとき、二つの影が交差したまま静止していた。
キヨフレッドの白銀の剣は、ブルイドンの胸を深々と貫いていた。
同時に――
ブルイドンの三叉槍が、キヨフレッドの胸を貫いていた。
相打ち。
その事実が、戦場に重く落ちた。
キヨフレッドはゆっくりと膝をついた。
剣を支えにしなければ倒れてしまうほど、体は限界だった。
ブルイドンもまた、胸から海水を流しながら後退し、
巨体を震わせていた。
「……人間……ごときが……ここまで……」
その声は、もはや威厳を失っていた。
キヨフレッドは血を吐きながら、微笑んだ。
「……これで……終わりだ……ブルイドン……」
その瞬間、サリアの結界が消えた。
「キヨ……ッ!!」
サリアが駆け寄り、キヨフレッドの身体を抱きしめた。
その手は震え、涙が頬を伝って落ちる。
「キヨ……返事して……お願い……!」
だが、キヨフレッドはもう応えられなかった。
瞳は薄く開いているが、焦点は合っていない。
サリアの涙が、彼の頬に落ちた。
その瞬間――
サリアの表情が変わった。
震える瞳に宿ったのは、
悲しみでも絶望でもない。
――怒り。
――憎しみ。
――そして、揺るぎない決意。
「ブルイドン……あなたを許さない」
サリアが立ち上がると、周囲の大地が震えた。
彼女の魔力が爆発的に膨れ上がり、
空気が光に満ちていく。
ブルイドンは重傷で動けず、膝をついていた。
その目に、初めて“恐怖”が浮かぶ。
「……大聖女……何を……する気だ……」
サリアは震える手をブルイドンに向けた。
「あなたの“海核”を抜き取る」
その言葉に、ブルイドンの瞳が大きく見開かれた。
「ま、待て……それは……!」
サリアの手がブルイドンの胸に触れた瞬間、
蒼い光が噴き上がり、潮の奔流が空へと渦を巻いた。
「――《アクア・コア・エクストラクション(海核抽出)》!!」
ブルイドンの胸から、青白い球体が引き抜かれる。
内部には渦が回り、海そのものの力が凝縮されていた。
「ぐああああああああああッ!!」
ブルイドンの絶叫が大地を震わせる。
海核を失った彼の身体は痙攣し、蒼い鱗が剥がれ落ちていく。
サリアは震える手で海核を抱え、封印術式を展開した。
「――《セブンフォールド・シーシーリング・アレイ(七重封海陣)》!!」
海核は七つの光の鎖に縛られ、完全に封印された。
その瞬間、ブルイドンの身体から海の気配が消えた。
「……サリア……貴様……!」
ブルイドンは立ち上がろうとするが、力が入らない。
海核を失った彼は、もはや海を操れない。
だが――。
「……まだ……終わらぬ……!」
ブルイドンは霧のように姿を消した。
重傷のまま、どこかへ逃げ去ったのだ。
サリアは封印した海核を抱えたまま、
崩れ落ちるようにキヨフレッドの元へ戻った。
「キヨ……キヨ……お願い……目を開けて……」
返事はない。
ただ、彼の胸がかすかに上下しているだけ。
サリアは彼の手を握りしめ、涙を流し続けた。
「絶対に……助けるから……
あなたを……絶対に……失わない……」
その声は震えていたが、
その決意は、誰よりも強かった。
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