表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/89

第87話「会談前夜」

第87話

ご愛読いただきありがとうございます。

すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!

センナのために用意された客室は、かつて魔法王国の王族や高官を迎え入れるために造られた部屋らしく、広さこそ控えめだが、荘厳な雰囲気が漂っていた。

壁は淡い灰色の石で組まれ、ところどころに古い魔法陣の痕跡が刻まれている。

今は力を失っているが、かつては照明や防御の補助として機能していたのだろう。


隅には古い書棚が残されていた。

しかし、もともと収められていたはずの魔導書は抜き取られ、代わりにサマヴァー獣人王国の軍務記録らしき巻物が並んでいる。


部屋の中央には重厚な木製の丸テーブル。

その上には、センナとミツトーが広げた大陸地図が静かに横たわっていた。

2人は声を潜め、極秘報告書に目を通している。


◆ 「ムツート連合国諜報機関・極秘報告書」------------◆

分類:最重要機密(第壱級)

配布制限:エドザー王国王族および宰相級に限る

作成:ムツート連合国中央諜報局


【一】サマヴァー獣人王国の現状

魔王軍との長期戦は終結し、現在は冷戦状態に移行している。

しかし、戦争による農地荒廃・物流寸断の影響は深刻であり、

王国全土において食料不足が顕著となっている。

加えて、王ソジウ・ツー・カンコ戦死後、

王位継承権を有する三兄妹がそれぞれ勢力を形成し、

国内政治は不安定化している。


【二】第1王女 スエン・ツー・カンコ

政治的感度が高く、民衆からの人気も一定数ある。

今回の「食料買い付け外交」の主導者であり、エドザー王国との会談を強く希望したのも彼女である。

本外交が王国の正式決定か、あるいはスエン王女の独断専行であるかは不明。

ただし、食料問題の解決を通じて民心を掌握し、後継者争いにおいて優位に立つ意図があると推察される。

同行者は猿族宗家の宰相ギギ・ツー・タリエ。


【三】第1王子 シンエ・ツー・カンコ

北部戦線に残存する魔族勢力の掃討軍を率いており、軍部から絶大な支持を受けている。

戦場に身を置き続けているため外交には関与していないが、その武威と軍の支持から

「軍事派の最有力後継者候補」 と見られる。


【四】第2王子 ブケン・ツー・カンコ

王都クウマに留まり、貴族派・商人ギルド・宗教勢力と連携し、政治的基盤を強化している。

戦後復興を名目に経済の主導権を掌握しつつあり、「内政派の後継者候補」 として台頭している。

スエン王女の外交行動を快く思っていない可能性が高い。


【総括】

サマヴァー獣人王国は現在、

三兄妹の後継者争いと戦後の混乱により、

国家としての意思統一が困難な状態にある。

今回の外交交渉は、

王国全体の意思ではなく、スエン王女個人の政治的賭け

である可能性が高い。


以上。

◆-------------------------------------------------------------◆


報告書をテーブルに置き、センナは静かに息を吐いた。

一枚の紙を指先で押さえながら呟く。


「・・・やっぱり、スエン王女の動きは“王国の総意”ではなさそうね」


ミツトーは頷き、声を潜めた。

「はい。むしろ三兄妹の中で最も立場の弱い彼女が、一気に情勢を覆すための賭け・・・そう見るべきでしょう」


センナは窓の外――巡回する獣人兵の影に目を向ける。

「食料不足は本当のはず。でも、その解決を“外交カード”に使うなんて・・・彼女、相当追い詰められているのかもしれないわ」


ミツトーは別のページをめくりながら言った。

「問題は、我々がどこまで踏み込むべきかです。

スエン王女を支援すれば、軍事派のシンエ王子、内政派のブケン王子を敵に回す可能性がある」


センナは小さく笑う。

「・・・つまり、どの選択肢も危険ってことね」


「ええ。外交とは、常に危険の中を歩くものです」


センナは再び地図へ視線を落とし、北方の“冥界の大森林”を指先でなぞった。

「・・・魔王軍との戦争で3国は疲弊している。どの国も、次の一手を探っている状態ね」


ミツトーは静かに頷く。

「だからこそ、今回の会談は慎重に。スエン王女の真意を見極める必要があります」


センナは深く息を吸い、背筋を伸ばした。

「・・・分かっているわ、ミツトー。でも――私は彼女を信じたい。

少なくとも、民を救いたいという気持ちに嘘はないはず」


ミツトーは苦笑した。

「姫様はお優しい。ですが、外交とは“信じたい”だけでは務まりません」


「ええ。だからあなたがいるのでしょう?」


センナが微笑むと、ミツトーは肩をすくめた。

「・・・まったく、姫様には敵いませんね」


そう言いながらミツトーは報告書を丁寧に重ね、小さな蝋燭の炎にかざした。

紙は静かに燃え、灰となって消えていく。


センナはその様子を見つめながら呟いた。

「いよいよ明日から会談が始まるのね。

スエン王女がどんな“手”を持っているのか・・・確かめましょう」


炎が最後の紙片を飲み込むと、客室には再び、冷たい緊張だけが漂っていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

気に入っていただけた方は、ぜひ、

・ブックマーク

・下の評価で5つ星

よろしくお願いいたしますm(__)m

つけてくれると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ