第86話「沈黙の玉座と脈動する魔石」
第86話
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光の粒は、迷いなく城の奥へと進んでいく。
誰にも会わない。
夜のアーソン城は不自然なほど静まり返り、私の足音だけが石床に淡く響いた。
(・・・・・こ、この道筋は)
光の粒が階段の前でふわりと揺れ、地下へと吸い込まれていく。
私は息を整え、階段を降り始めた。
一段、また一段。
降りるほどに空気は冷たく、重くなっていく。
だが胸の奥の熱だけは、逆に強まっていった。
(・・・間違いない。結界魔法陣の“核”に近づいていく)
この街の結界魔法陣を設計したのは、他ならぬキヨフレッド自身だ。
街路、塔、城壁、水路――すべてが魔法陣の線を描くように配置されている。
城の中心地下に“核”を置き、そこから魔力を街全体へ循環させる構造。
(・・・・・まさか、やはり、これがまだ動いているのか)
階段を降り切ると、長い地下通路が現れた。
光の粒はその中央をまっすぐ進み、奥の壁で止まる。
行き止まり。
しかし、光は壁の向こうへと吸い込まれるように消える。
「・・・・・ここか」
私は壁に手を触れる。
冷たい石の奥に、確かに“魔力の流れ”がある。
壁には、隠ぺい魔法陣が刻まれている。
私は手を当て、かつて自分が作った呪文を口にした。
「――≪デイース・シシール(解除)≫」
魔力が流れ込み、低い振動音が響く。
石が擦れ合う重い音が地下に反響し、やがて隠された入口が姿を現した。
私は一歩踏み出し、暗い入口をくぐる。
直後、背後の壁が重い音とともに閉じた。
・・・・・・・・・・
部屋に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
魔力の密度が桁違いだ。
肌がひりつくほどの光属性の圧が満ちている。
高い天井。
冷たい石壁。
そして中央に並ぶ二つの玉座。
その背後には、巨大な光属性の黄色い魔石が鎮座していた。
脈動する光が、部屋全体を淡く照らしている。
そして――
玉座には、二人が座っていた。
キヨフレッド・フォン・ヒーゴ。
サリア・フォン・キシュレアン。
260年前の姿のまま。
私は息を呑む。
「・・・・・本当に・・・・・いた・・・・・まさか・・・・・こんなことが・・・・・」
ゆっくりと、慎重に、警戒しながら近づく。
2人の身体は微動だにしない。
だが、魔力の流れは確かに感じられた。
(封命供魔・・・生命活動を止め、魔力だけを取り出す。
蘇生方法が不明な禁断魔法。
2人を結界魔法陣を維持するための生贄としたということか)
胸元から伸びる細い光の糸が、魔石へと吸い込まれていく。
魔石はその魔力を使い、街全体の結界を維持している。
(・・・・・260年も、結界を支え続けていたのか)
私は震える声で呟いた。
自分はただ戦死したと思っていた。
だが、目の前のキヨフレッドは死んでいない。
サリアも同じだ。
単純な話ではない。
これは、260年前の滅亡の裏に隠された“真実”の匂いがする。
玉座の前に立ち、2人を見つめた。
「・・・・・いったい・・・・・何があった?
なぜ2人は眠りについた?
そして――なぜ、私を呼んだ?」
・・・・・・・・・・
部屋を出ると、地下の冷気が一気に現実へ引き戻してきた。
だが胸の奥はむしろ熱く、ざわついていた。
(・・・・・封命供魔。
蘇生方法は不明。
だが“不明”であって“不可能”ではない)
拳を握りしめる。
長い通路を戻りながら、脳裏には次々と仮説が浮かび、消え、また形を変えていく。
(生命活動は停止している。
だが魂の回路は断たれていない。
魔力の流れが続いている以上、“死”ではない。
ならば・・・・・戻す道は、必ずある)
部屋に戻る頃には、呼吸が荒くなっていた。
焦りではない。
“創造の衝動”が胸を焼いていた。
「・・・・・封命供魔の逆理。
生命の封印を解き、魔力の供出を止める・・・・・
そんな術式、これまで考えたことはない」
椅子に腰を下ろすと同時に、ペンを走らせた。
◆ 封命供魔の構造
◆ 魔力循環の経路
◆ 魂の固定化の仕組み
◆ 肉体の時間停止の条件
◆ 解除の可能性
紙の上に、複雑な魔法陣が次々と描かれていく。
線が重なり、円が交わり、やがて一つの“仮説”が形を成し始めた。
(・・・・・もし、魔力の供給を一時的にでも代替できれば・・・・・
2人を魔石から切り離すことができるはず)
260年もの間、街を守り続けた結界。
その重さを思うと同時に、胸の奥で何かが燃え上がる。
(・・・・・結界を維持しながら、2人を救う方法・・・・・
そんな都合のいい術式が・・・・・)
否定の言葉が浮かびかけた瞬間、脳裏に光が走った。
(・・・・・いや。
“都合がいい”のではない。
“創り出す”んだ)
私は立ち上がり、机の上の魔法陣を睨みつけた。
「――私がやる。
私が、私とサリアを救う魔法を創る」
その声は震えていたが、迷いはなかった。
新しい紙を取り出し、線を描き始める。
「――どんなに時間がかかろうとも、諦めはしない」
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