第85話「導きの光路」
第85話
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鮮烈な光が脳裏を貫いた。
高い天井、冷たい石壁、そして中央に並ぶ二つの玉座。
そこに座っているのは、キヨフレッド・フォン・ヒーゴと、
その隣に寄り添うように座るサリア・フォン・キシュレアン。
2人とも凛として美しい。
だが――その瞳には、生の光がなかった。
深い闇の底から、ただ私だけを見つめている。
キヨフレッドの唇が、ぎこちなく動く。
「・・・・・ト・・・・・シー・・・ド・・・・・
まっ・・・て・・・・・い・・・た・・・・・」
風に千切れたように弱々しい声。
それでも確かに、私の名を呼んでいた。
――待っていた?何を?
問いが浮かぶより早く、視界が白く弾けた。
・・・・・・・・・・
ハッと目を開けると、左手に温かい感触があった。
センナが両手で私の手を包み込み、涙をこぼしそうな顔で覗き込んでいる。
「トシードさん!本当に・・・・・よかった・・・・・」
震える声。
普段の冷静さはどこにもない。
「・・・・・ここは?」
「アーソン城の客室です。城門を通った瞬間、急に倒れて・・・・・。
呼吸も荒くて、顔色も真っ青で・・・・・っ。
何があったんですか?
どこか痛むところは?
息苦しくないですか?」
矢継ぎ早の質問。
その目には必死さが滲んでいた。
――まずい。
「い、いえ・・・ただの・・・疲れ・・・だと思います。
長旅でしたし・・・少し、目眩がしただけで・・・・・」
「本当に? 本当にそれだけですか?
倒れる直前、何か見えたとか、聞こえたとか・・・・・」
鋭い。
だが、事実を言うわけにはいかない。
「・・・・・いえ。気づいたら、ここで・・・・・。
ご心配をおかけして、すみません」
センナはしばらく私の目をじっと見つめ、嘘を見抜こうとするように眉を寄せた。
だが、やがて小さく息を吐き、私の手をぎゅっと握り直した。
「・・・・・無理は、しないでくださいね。
あなたが倒れたとき・・・・・心臓が止まるかと思いました」
その言葉に、胸が痛んだ。
センナは袖で涙を拭い、立ち上がる。
「本当は・・・本当は、まだそばにいたいんです。
でも・・・・・明日からの会談の前に、宰相との確認があって・・・・・」
声が揺れている。
行きたくないのが、痛いほど伝わってくる。
「大丈夫です。センナさんのおかげで、もう落ち着きましたから」
「・・・・・そうですか。でも・・・またすぐ戻りますから。
だから・・・・・どうか、安静にしていてください」
名残惜しそうに、センナは何度も振り返りながら部屋を出ていった。
静寂が満ちる。
私はゆっくりと息を吐いた。
「・・・待っていた、か」
キヨフレッドの声が、まだ耳の奥に残っている。
あれは幻覚ではない。
記憶でもない。
もっと“別の何か”だ。
私は上体を起こし、深く息を吸った。
胸の奥が、微かに熱い。
まるで、何かが目覚めようとしているような――そんな感覚。
(・・・・・落ち着け。今は考えすぎても仕方ない)
そう言い聞かせても、脳裏の光景は消えない。
玉座に座るキヨフレッドとサリア。
生気のない瞳。
そして、あの言葉。そして、あの言葉。
――トシード。
――待っていた。
待っていたのは、私なのか。
それとも、私の中にいる“キヨフレッド”なのか。
胸の熱は強さを増していく。
そのとき――
コン・・・・・と、ドアが小さく鳴った。
「・・・誰?」
返事はない。
だが、ドアの隙間から、ひんやりとした風が流れ込んできた。
(・・・・・風? 窓は閉まっているはずだが)
私はゆっくりとベッドを降り、扉へと歩み寄る。
手を伸ばし、取っ手に触れた瞬間――
胸の奥の熱が、鋭い痛みに変わった。
「っ・・・・・!」
思わず膝をつく。
痛みは一瞬で全身を駆け巡り、視界が揺らいだ。
そして、再び“声”が聞こえた。
――・・・・・トシード・・・・・
――・・・・・来て・・・・・
今度は、キヨフレッドではない。
もっと柔らかく、もっと懐かしい声。
(・・・・・サリア?)
耳元で囁かれたように、はっきりと聞こえた。
痛みが引くと同時に、ドアの向こうから微かな光が漏れる。
青白く、揺らめく光。
ドアを開けると、そこには誰もいなかった。
だが、廊下の床に淡い光の粒が散っている。
まるで誰かが歩いた“痕跡”のように。
「・・・・・導いているのか?」
光の粒は廊下の奥へと続いていた。
まるで私を誘うように。
胸の奥の熱が、再び脈打つ。
(行くべきなのか・・・・・
いや、行かねばならない気がする)
私は静かに息を整え、光の道へと足を踏み出した。
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