第82話「サマヴァー王の咆哮」
第82話
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大陸の西。
同時期にサマヴァー獣人王国も、魔王軍との総力戦の渦中にあった。――
その戦場に、異様な霧が立ち込めていた。。
それはただの霧ではない。
魔族オヴィーネ王が放った呪詛の霧。
視界を奪い、気配を狂わせ、味方の声すら届かなくする死の帳。
「・・・・・来ないな、シンエ・・・・・ブケン・・・・・スエン・・・・・」
ソジウ・ツー・カンコは、血に濡れた大剣を肩に担ぎ、霧の中で立ち尽くしていた。
その金色のたてがみは血と汗に濡れ、鋭い眼光だけが獣王の威厳を保っていた。
「構わん。来ぬなら、我が一人で貫くまでよ!」
その咆哮は、霧を裂き、空を震わせた。
だが、返る声はない。
代わりに、霧の奥から現れたのは――
黒き鎧に身を包んだ魔族の伏兵部隊。
四方から迫る影。
その中心に、霧の中で微笑む一つの影――魔族オヴィーネ王。
「ようこそ、獣王。あなたの死が、王国を裂く」
「貴様・・・!」
ソジウは吠えた。
その一撃は雷鳴のように地を揺らし、魔族の一団を吹き飛ばす。
二撃、三撃――彼の剣は止まらない。
獣人の王として、父として、民の盾として――
彼は、戦った。
だが、数は圧倒的だった。
霧の中、次々と現れる魔族。
背中に槍が突き刺さる。
膝が崩れる。
それでも、彼は立ち上がる。
「我が名はソジウ・ツー・カンコ・・・・・サマヴァーの王なり!」
最後の咆哮とともに、彼は剣を振り上げ、オヴィーネ王の影の胸を貫いた――
その瞬間、霧が一瞬だけ晴れた。
遠く、丘の上に立つ三つの影――
シンエ、ブケン、スエン――王の子らが、ようやく戦場にたどり着いた。
だが、彼らが見たのは――
王が、膝をつき、崩れ落ちる姿だった。
この瞬間が、すべての始まりだった。
王の死、疑念の種、そして王国を裂く争いの幕開け。
・・・・・・・・・・
王の亡骸を囲む三人の王子と王女。
だが、誰も言葉を発しなかった。
ただ、沈黙の中で、互いの目を見つめ合っていた。
<シンエの胸中>
「なぜ、誰も来なかった・・・・・」
父の背中を追い、剣を学び、忠義を誓った。
その父が、助けを求めていたのに、自分は間に合わなかった。
だが――
「ブケンの部隊が先に動くはずだった。あいつが遅れたから、俺も動けなかったんだ・・・」
そう思いたかった。
だが、スエンの魔術支援がなければ、突撃はできなかったのも事実。
「まさか・・・スエンが、わざと・・・?」
その思考に、自分で歯を食いしばる。
だが、疑念は心に棘のように刺さったままだ。
<ブケンの胸中>
「父上は、あの戦に勝てると信じていた。だが、あの配置は・・・不自然だった」
あの戦場の布陣には違和感があった。
中央に王を置き、左右と後方に子らを配置する――
まるで、王を孤立させるための布陣。
「誰がこの配置を進言した?・・・シンエか?いや、スエンか?」
自分の部隊が遅れたのは、伝令が届かなかったからだ。
だが、なぜ伝令が遅れたのか。
誰が、情報を操作した?
「俺を疑ってる目だな、シンエ。だが、俺は違う。お前こそ・・・」
<スエンの胸中>
「父上の死は、偶然じゃない。あの霧、あの伏兵・・・誰かが情報を漏らした」
彼女は冷静だった。
だが、その冷静さの奥で、怒りが煮えたぎっていた。
「私の魔術支援が遅れたのは、シンエの突撃がなかったから。なのに、あの目・・・私を疑ってる」
ブケンも、何かを隠しているように見える。
あの戦場で、誰が何をしていたのか――
真実を知るには、誰かを疑わなければならない。
「でも、もし二人とも潔白なら?・・・・・じゃあ、誰が父を・・・?」
三人の間に、かつての信頼はなかった。
あるのは、沈黙と、疑念と、誇り。
誰かが口を開いたわけではない。
だが、心の中で、三人は同時に思っていた。
「父は、誰かにはめられた」
「そして、その“誰か”は――この中にいる」
この瞬間から、王国の未来は「団結」ではなく「分裂」へと進み始めた。
オヴィーネ王の策略は、静かに、確実に、王国の心臓を蝕んでいく――
・・・・・・・・・・
冥界の大森林――
黒き樹海の奥、陽の光すら届かぬ永劫の闇に、魔族オヴィーネ王はいた。
その身を包むのは、形を持たぬ霧。
それは空気ではない。
魔力の残滓。
意思を持ち、命あるものの呼吸に忍び込み、心を蝕む毒。
彼の周囲では、木々すら沈黙していた。
葉は揺れず、獣は息を潜め、風は道を忘れる。
この森において、世界は彼の囁きに従う。
玉座の前に浮かぶ黒曜石の鏡。
その表面に映るのは、サマヴァー王国の戦場。
血に濡れた王の亡骸。
沈黙する三人の王子と王女。
その瞳に、揺れる“疑念”。
オヴィーネ王は、微笑んだ。
その唇から漏れた声は、音ではなかった。
霧に染み込み、空間そのものを震わせる“呪い”だった。
「・・・・・実に、美しい。信頼が崩れる音は、何よりも甘美だ」
その囁きに、森がざわめいた。
木々が軋み、地が呻き、霧が喜悦に震える。
まるで、世界そのものが彼の言葉に頷いたかのように。
王の死は、ただの“導火線”。
ソジウ王を孤立させ、伏兵で討ち取る――
それは、序章にすぎない。
本当の狙いは、王国の“心臓”を腐らせること。
それぞれの王子・王女の部隊に、密かに仕込まれた“遅延”と“誤報”。
伝令のすり替え。
霧に紛れた幻影。
そして、耳元で囁かれる“疑念”という名の毒。
「真実など、必要ない。
必要なのは、“疑い”という種だ。
それが芽吹けば、やがて王国は自ら崩れ落ちる」
鏡の中、三人の子らが沈黙の中で互いを見つめ合う。
言葉はない。
だが、瞳の奥に宿るのは、確かに――不信。
オヴィーネ王は、ゆっくりと玉座から立ち上がる。
その背に、黒き翼のような霧が広がる。
それは羽ばたかずとも、世界を覆い尽くす“絶望”の象徴。
「王を殺すのは、ただの始まり。
真に滅ぼすべきは、“信頼”だ。
それが崩れたとき、王国は剣を抜かずとも死ぬ」
彼の瞳は、鏡の向こうのサマヴァーを見下ろす。
王の亡骸。
沈黙する三人の子。
その胸に芽生えた、疑念という名の炎。
「さあ、裂けよ。誇り高き獣たちよ。
お前たちの“強さ”が、お前たちを滅ぼすのだ」
その声は、命あるものすべての心に染み渡る呪い。
そして、オヴィーネ王は、すべてが彼の掌の上で踊っていることに、満足げに微笑んだ。
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