第79話「魔王軍の異変」
第79話
ご愛読いただきありがとうございます。
すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!
要塞都市ダイヴァスの空は、夜になっても暗くならなかった。
冥界の大森林から吹き込む瘴気が、空を濁った紫色に染めているからだ。
その空の下、同盟軍の作戦本部では、ひとつの報告が静かに波紋を広げていた。
「魔王軍の動きに異変あり」
その一言は、疲れ切った参謀たちの心を一瞬だけ鋭くした。
だが、報告の内容は曖昧で、確証に欠けていた。
霧の谷で魔力濃度が急上昇し、魔族の集結が確認された――
それだけでは、戦局を動かす材料にはならない。
「もっと確かな情報が必要だ。魔王軍の“異変”が何なのか、突き止めねばならん」
参謀長の言葉に、場の空気が重く沈む。
誰もが理解していた。
その“確かな情報”を得るためには、また誰かが死地に赴く必要があることを。
偵察任務に志願したのは、ムツート連合国の精鋭部隊――“影走り”と呼ばれる特殊偵察隊だった。
彼らは冥界の大森林を熟知し、魔族の気配を読む技術に長けている。
だが、その“影走り”でさえ、過去2年で半数以上が帰らぬ者となっていた。
隊長の名は、イズナ。
鋭い眼光と、静かな声を持つ男だった。
「今回の任務は、魔王軍の異変の正体を掴むことだ。
生きて帰れる保証はない。覚悟のある者だけ、ついてこい」
その言葉に、10名の隊員が一歩前に出た。
誰も迷いを見せなかった。
迷う余裕など、とうに失われていた。
冥界の大森林の奥――
そこは、常に薄暗く、霧が漂い、木々が呻くように軋む場所だった。
魔力濃度が高く、普通の兵士なら数時間で意識を失う。
“影走り”の隊員たちは、特殊な魔道具で魔力を遮断しながら進んでいく。
「・・・・・魔力濃度が上がっている。以前よりも濃いわ」
副隊長のキラが呟く。
彼女の額には、冷たい汗が滲んでいた。
「魔王軍が何かをしているのは間違いないな」
イズナは周囲を警戒しながら進む。
霧の谷は近い。
そこは魔族が潜伏しやすく、魔力が渦を巻く危険地帯だ。
やがて、霧が異様に濃くなり、視界がほとんど奪われた。
「・・・止まれ」
イズナが手を上げる。
全員が息を潜めた。
霧の向こうから、低い唸り声が聞こえる。
魔族の気配――それも、複数。
「迂回する。正面突破は無理だ」
隊員たちは音もなく動き、霧の薄い方へと回り込む。
だが、その瞬間――
「ッ・・・!」
一人の隊員が、胸を貫かれた。
霧の中から現れた影が、鋭い爪を突き立てたのだ。
「魔族だ! 散開!」
叫びと同時に、霧の中から複数の魔族が飛び出してくる。
その姿は、以前の魔族とは明らかに違っていた。
瘴気が濃く、身体が膨張し、目は狂気に染まっている。
「こいつら・・・・・何!? こんな変異、見たことがないわ!」
キラが叫ぶ。
魔族たちは痛みを感じていないかのように突撃し、倒れてもすぐに立ち上がる。
「退け! ここは戦う場所じゃない!」
イズナの指示で隊員たちは後退しながら応戦する。
だが、次々と仲間が倒れていく。
「隊長ーーー!先に行ってくださいーーー!」
「馬鹿を言うな! 全員で行く!」
「無理です・・・・私たちが囮になります。行ってくださいーーー!」
仲間の叫びが霧に消える。
イズナは歯を食いしばり、キラと残った数名を連れて走った。
霧の谷――
そこには、異様な光景が広がっていた。
魔族たちが円陣を組み、中央に巨大な魔法陣が描かれている。
魔法陣は脈動し、黒い光を放っていた。
その中心には、巨大な“繭”のようなものが浮かんでいる。
「・・・あれは・・・?」
キラが震える声で呟く。
「魔族の・・・再生装置・・・?」
イズナは息を呑んだ。
「いや・・・違う。あれは・・・“融合”だ」
魔族たちが次々と魔法陣に身を投げ入れ、繭に吸い込まれていく。
そのたびに繭は膨れ上がり、内部で何かが蠢く。
「魔王軍は・・・・・魔族を融合させている。
失った柱を補うために・・・新たな“怪物”を作ろうとしているんだ・・・!」
その瞬間、繭が大きく脈動し、裂けた。
中から現れたのは――
複数の魔族の身体を無理やり繋ぎ合わせたような、異形の怪物だった。
「・・・終わった・・・」
キラが呟いた。
その怪物は、魔族数体分の魔力を宿している。
こんなものが前線に投入されれば、同盟軍はひとたまりもない。
「戻るぞ。この情報を持ち帰らなければ!」
イズナはキラの腕を掴み、走り出した。
だが、怪物が咆哮し、霧の谷全体が震えた。
「来る!」
怪物が迫る。
逃げ切れない。
「キラ・・・・・行け。お前だけでも」
「嫌です! 隊長!」
「行けッ!!」
イズナはキラを突き飛ばし、怪物の前に立ちはだかった。
剣を構え、最後の力を振り絞る。
「俺たちの犠牲を、無駄にするなーーー!」
怪物の腕が振り下ろされ、イズナの姿が霧に消えた。
・・・・・・・・・・
数日後――
キラは瀕死の状態でダイヴァスに戻った。
彼女の報告は、作戦本部に衝撃を与えた。
「魔王軍は・・・魔族を融合させ、新たな“柱”を作ろうとしている・・・・・
あれが完成すれば・・・・・戦線は・・・・・崩壊します・・・・・」
参謀長は震える手で地図を押さえた。
「・・・・・これが・・・・・魔王軍の異変の正体か・・・・・」
キラは涙を流しながら言った。
「イズナ隊長は・・・・・皆は・・・・・この情報を・・・・・届けるために・・・・・」
部屋の空気が凍りついた。
魔王軍の異変――
それは、失われた柱を補うための魔族の“融合”による新たな怪物の誕生。
そして、その真実は――
多くの命と引き換えに、ようやく掴まれたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
気に入っていただけた方は、ぜひ、
・ブックマーク
・下の評価で5つ星
よろしくお願いいたしますm(__)m
つけてくれると、嬉しいです。




