第77話「軍事同盟の締結」
第77話
ご愛読いただきありがとうございます。
すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!
謁見の間に、長い沈黙が落ちていた。
石卓の上には、両国が提示した条件が整然と並び、まるで互いの喉元に突きつけられた刃のように光っている。
イエヤード王がゆっくりと立ち上がり、重々しい声で宣言した。
「――よかろう。
エドザー王国は、ムツート連合国との軍事同盟を締結する」
その瞬間、謁見の間の空気がわずかに揺れた。
イエヤード王は石卓に視線を落とし、淡々と読み上げる。
「エドザーは魔石砲をムツートに提供する。
・・・・・我が国の軍事技術を渡すことになるが、同盟の証として受け入れよう」
その言葉に、エドザー側の重臣たちがわずかに顔を曇らせる。
魔石砲は国の象徴とも言える兵器だ。
それを他国に渡す――それは、王の覚悟の表れでもあった。
続けて王は言う。
「また、エドザーのムツート方面軍は段階的に撤退させる。
国境の緊張を緩和するためだ」
アツレク王子は静かに頷いた。
その表情には、勝利も敗北もない。
ただ、政治家としての冷徹な計算だけが宿っている。
次に、ムツート側の譲歩がイエヤード王により読み上げられる。
「ムツートは、国境地帯の管理権をエドザーに委ねる。
・・・・・これは実質的な領地の割譲だが、魔王討伐のための布石と理解する」
ミツイル宰相の眉がわずかに動いた。
だが反論はしない。
彼らもまた、これが必要な犠牲であると悟っていた。
「さらに、ムツートは“冥界の大森林”に関する最新の偵察情報を提供する。
諜報の要を明かすことになるが、同盟のための誠意として受け取ろう」
アツレクは深く息を吸い、静かに言った。
「・・・・・我々は、魔王討伐を最優先とする。
そのために必要な情報は、すべて提供する覚悟です」
謁見の間の空気が、さらに重く沈む。
イエヤード王は最後に、最も重要な項目を読み上げた。
「そして――
エドザー王国とムツート連合国は、“冥界の大森林”への共同攻撃を行う。
魔王を討伐し、大陸に平和を取り戻すためだ」
その言葉は、謁見の間の空気を一変させた。
政治の駆け引きから、戦争の現実へと場の重心が移る。
エドザー側の宰相ミツトーが低く呟く。
「・・・・・魔王討伐か。
悲願ではあるが、容易ではない」
ムツート側の宰相ミツイルが応じる。
「容易でないからこそ、同盟が必要なのです。
魔王軍の勢力は、我々が把握している以上に拡大しています」
アツレク王子が石卓に手を置き、はっきりと言った。
「魔王を討つためには、両国の力を合わせるしかない。
そのための同盟であり、今日の合意だ」
イエヤード王はゆっくりと頷いた。
「・・・・・よかろう。
では、共同作戦本部をダイヴァスに設置する。
両国の団長/将軍、軍師、諜報官を集め、作戦立案に入る」
その瞬間、謁見の間の空気がわずかに動いた。
歴史が動く音が、確かにそこにあった。
・・・・・・・・・・
会談が終わり、代表団が退出していく中、
アツレク王子は一瞬だけ足を止め、ヒノーヴァー公爵を振り返った。
「・・・・・公爵。
あなたは、我々を完全には信用していないのでしょう」
ヒノーヴァー公爵は表情を変えずに答える。
「当然だ。
だが、魔王を討つためなら、刃を並べることも厭わぬ」
アツレクは微笑を浮かべた。
「その言葉、忘れませんよ」
二人の視線が交差する。
そこには敵意でも友情でもない、
“互いを利用し合う覚悟”だけがあった。
一方、イエヤード王は玉座の前で独り呟いた。
「・・・・・魔王を討つための同盟。
だが、真に得をするのはどちらか――それはまだ決まっておらぬ」
その目は、政治家としての冷徹な光を宿していた。
同じ頃、ミツイル宰相はアツレクに囁く。
「王子・・・・・エドザーは、我々の情報を欲しがりすぎている。
魔王討伐の後、必ず次の駆け引きが始まります」
アツレクは静かに頷いた。
「わかっている。
だが今は――魔王を討つことが先だ」
そして二人は、ダイヴァスの石畳を踏みしめながら歩き出した。
その足音は、
新たな戦争の始まりを告げる鐘のように響いていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
気に入っていただけた方は、ぜひ、
・ブックマーク
・下の評価で5つ星
よろしくお願いいたしますm(__)m
つけてくれると、嬉しいです。




