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第76話「駆け引き」

第76話

ご愛読いただきありがとうございます。

すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!

会談の場として用意された謁見の間は、ダイヴァス城の中でも最も厳重に守られた場所だった。

高い天井には古の英雄譚を描いた壁画が並び、中央には長い楕円形の石卓が据えられている。

その両端に、エドザー王国とムツート連合国の代表団が向かい合って座った。

卓の最奥、王座の前に立つのはエドザー王国国王、イエヤード・フォン・エドザー。

白銀の髭を蓄えたその姿は威厳に満ちているが、目の奥には鋭い観察者の光が宿っていた。


アツレク王子は一礼し、静かに口を開く。

「本日の会談は、両国の未来を左右するものとなるでしょう。

我々ムツート連合国は、対魔王での軍事同盟を提案します」



謁見の間に、わずかなざわめきが走った。

ムツート側の提案は、予想よりも踏み込んだものだったからだ。

イエヤード王は動じることなく、ゆっくりと玉座に腰を下ろした。

その視線はアツレク王子を射抜くように鋭い。

「・・・・・軍事同盟、か。

魔王の脅威が増しているのは確かだが、ムツートが我が国に手を差し伸べる理由は何だ」

王の声は低く、しかし一言一言が重かった。

その問いは、単なる確認ではない。

“真意を暴くための試金石”だった。


アツレクは微笑を崩さず、静かに答える。

「理由は単純です。

魔王軍の侵攻は、もはや一国で防げる規模ではない。

我々は、共に立たねば滅びるだけだと判断しました」

その言葉に、エドザー側の重臣たちは互いに視線を交わす。

“滅びる”という言葉をあえて使ったのは、危機感を共有させるためか、それとも――。


イエヤード王は目を細めた。

「だが、ムツートはこれまで我が国境を度々脅かしてきた。

そのムツートが、急に“共闘”を口にする。

・・・・・信じろと言う方が無理な話だ」


その瞬間、ムツート側の宰相ミツイル・ナンブノフが一歩前に出た。

灰色の長髪が揺れ、鋭い眼光がエドザー側を射抜く。

「陛下。

信じるかどうかは、我々の提示する条件次第でしょう」


イエヤード王は眉をわずかに動かした。

ミツイルは続ける。

「軍事同盟の締結にあたり、ムツートは“エドザー方面軍の一部撤退”を約束します。

さらに――」

一拍置き、宰相は声を低くした。

「“冥界の大森林”に関する最新の偵察情報を、エドザー王国に提供する用意があります」

謁見の間が凍りついた。

その情報は、ムツートが最も秘匿してきた国家機密の一つだ。

エドザー側の宰相ミツトー・フォン・キーバッハ が、思わず椅子から身を乗り出す。

「・・・・・本気か。

その情報は、貴国の軍事戦略の根幹だろう」

ミツイルは微動だにしない。

「本気です。

魔王軍の動向を共有しなければ、同盟は絵空事に終わる」


アツレク王子が静かに言葉を継ぐ。

「我々は、過去の争いを捨てる覚悟を持ってここに来ました。

エドザー王国にも、同じ覚悟を求めます」


イエヤード王は沈黙した。

その沈黙は、重く、深く、謁見の間の空気を圧迫する。

やがて、王はゆっくりと口を開いた。

「・・・・・よかろう。

だが、我が国にも条件がある」


アツレクの瞳がわずかに揺れる。

「条件とは?」


イエヤード王は玉座から立ち上がり、石卓に手を置いた。

その声は、先ほどよりもさらに冷たく鋭い。

「軍事同盟を結ぶ前に――

ムツート連合国は、“国境地帯の共同管理”を認めよ」


ムツート側の使節団が一斉に息を呑む。

共同管理とは、実質的にエドザーが国境の主導権を握ることを意味しているはずだ。

アツレクの表情がわずかに硬くなった。

「・・・・・それは、我が国の主権に関わる問題です」

イエヤード王は微笑すら浮かべず、ただ静かに言った。

「主権を守りたいなら、魔王軍に滅ぼされぬことだ。

――選べ、アツレク王子。

“魔王”か、“エドザー”か」


謁見の間の空気が震えた。

政治の刃が、ついに王子の喉元へ突きつけられたのだ。


アツレクはゆっくりと息を吸い、目を閉じた。

そして――

「・・・・・交渉の余地はあります。

ただし、我々にも譲れぬ線がある」

その声は震えていなかった。

王族としての覚悟が、確かにそこにあった。

イエヤード王は静かに頷く。

「ならば――

ここからが本当の会談だ」

謁見の間の扉が閉ざされ、外の兵士たちでさえ息を呑むほどの緊張が満ちていく。

歴史を動かす交渉が、今まさに始まった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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