第75話「エドザー王国 要塞都市ダイヴァス」
第75話
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ぐーたら第三王子は、魔法の廃れた世界で、龍魔王の力をこっそり使い、世界を救う
第25話「エドザー王国 要塞都市ダイヴァス」も合わせてお楽しみください。
国境に位置する都市ダイヴァスは、白い石壁と幾重にも重なる重厚な城壁を備えた要塞都市である。
夕陽を浴びた石壁は淡く金色に輝き、その光を吸い込むようにそびえる巨大な黒鉄の城門には、ヒノーヴァー家の紋章――交差する二本の槍と昇る太陽――が誇らしげに刻まれている。
門の両脇には魔石砲台が規則正しく並び、その沈黙のままの存在感が、訪れる者に「ここは国境の最前線だ」と無言で告げている。
城内の見張り台に立てば、東にはムツート方面へ続く荒野が果てしなく広がり、風が砂を巻き上げながら遠くの地平線を揺らしている。
北へ目を向ければ、魔王が統治する“冥界の大森林”が黒い海のように広がり、夕暮れの光を受けてもなお不気味な影を落としていた。
この都市は、ただの城塞ではない。
幾度もの侵攻を退け、国境を守り続けてきた“盾”であり、そして今、歴史の流れを変える会談が開かれようとしている舞台でもある。
・・・・・・・・・・
その日、城壁の上に立つ兵士たちは、地平線に揺れる砂煙を最初に見つけた。
「・・・来たぞ。ムツート連合国の使節団だ」
砂煙はやがて一本の長い影となり、さらに近づくと、それが整然とした騎兵隊であることがわかった。
先頭を進むのは、全権代表――第2王子、アツレク・シロンドルフ。
陽光を受けて輝く黒馬に跨り、軽装鎧を身にまといながらも、その姿は王族としての威厳を隠しきれない。
王子の隣には宰相ミツイル・ナンブノフ公爵。
後ろで束ねた灰色の長髪を風に揺らし、鋭い眼光で城壁を見上げている。
その視線は、まるで石壁の奥に潜む政治の匂いまで嗅ぎ分けるようだ。
彼らの背後には、1,000人の精鋭部隊が規律正しく続く。
俊敏な動きと、戦場を幾度もくぐり抜けた者だけが持つ静かな殺気が漂っている。
城門前に到着すると、アツレク王子は馬を止め、ゆっくりと顔を上げた。
そして、王子は小さく息を吐き、その口元にわずかな笑みを浮かべた。
「ムツート連合国、アツレク・シロンドルフ。
エドザー王国国王陛下との会談のため、参上した」
その声は城壁に反響し、ダイヴァスの空気を震わせた。
・・・・・・・・・・
城門の上で、エドザー王国の将軍が静かに手を上げた。
その合図とともに、黒鉄の城門が重々しい音を響かせながら開いていく。
まるで巨大な獣が口を開けるかのように、ゆっくりと、慎重に。
門の内側には、ヒノーヴァー騎士団が整列していた。
先頭に立つのは、ヨフルト・フォン・ヒノーヴァー公爵。
彼は、紋章と同じ槍を模した銀の指揮杖を手にしている。
ヨフルトはアツレク王子を見据え、わずかに顎を引いた。
「遠路ご苦労。エドザー王国は、ムツート連合国の誠意ある来訪を歓迎する」
その声は冷静で、礼節を保ちながらも、どこか氷のような硬さを帯びていた。
アツレク王子はその空気を正面から受け止め、馬上で軽く礼を返す。
「こちらこそ、貴国の厚意に感謝する。
・・・・・本日は、互いの未来を決める日となるだろう」
その言葉に、周囲の兵士たちがわずかに息を呑む。
“未来を決める”――その響きは、単なる外交の枠を超えていた。
まるで空気そのものが張り詰めたように、周囲の兵士たちの背筋が伸びた。
その緊張を破ったのは、城内から響いた鐘の音だった。
会談の開始を告げる、重く深い音色。
ヨフルトが静かに言う。
「では、参りましょう。国王陛下がお待ちだ」
アツレク王子は馬を降り、黒馬の首を軽く撫でた。
そして、ゆっくりと城門の内側へ歩みを進める。
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