第71話「イネザベスの危機」
第71話
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ぐーたら第三王子は、魔法の廃れた世界で、龍魔王の力をこっそり使い、世界を救う
第22話「イネザベスの危機」も合わせてお楽しみください。
王立学園の中庭。
炭火の香りと笑い声が漂う中、イネザベス・クスヴァリは杯を重ねすぎて、頬を赤らめていた。
ふらりと立ち上がり、学生たちに軽く手を振る。
「少し、夕風に当たってくるわ」
彼女の足取りは少し揺らぎながらも、学園の回廊へと進んでいく。
夕暮れの空は茜色に染まり、王都の尖塔が黄金の光を浴びて輝いていた。
石畳に長く伸びる影、窓から差し込む橙の光――そのすべてが祝祭の余韻を美しく彩っていた。
研究室へ続く廊下は静かで、外の賑わいが嘘のように遠ざかる。
夕日の光が窓から差し込み、埃の粒が金色に舞う。
イネザベスは深呼吸をし、酔いを醒まそうと胸に手を当てた。
そして、研究室の扉を開けると、そこは彼女の世界。
机の上には未完成の魔道具が並び、設計図が夕日の光に照らされて赤く染まっていた。
彼女は椅子に腰掛け、窓から差し込む夕日を眺めながら目を閉じる。
その美しい光景の中――背後に、夕日の光を遮る影が忍び寄った。
金属の擦れる音が、静寂を裂く。
「……イネザベス・クスヴァリ」
低く響く声。
振り返った彼女の目に映ったのは、漆黒の鎧に身を包んだ男――ホルクス。
夕日の光を背にしたその姿は、まるで影そのものが形を取ったかのようだった。
剣の刃が夕日の赤を反射し、冷たい閃光を放つ。
「技術の芽は、ここで断たれる」
夕暮れの美しさと、迫り来る死の冷気が交錯する。
祝祭の余韻が遠くで響く中、研究室だけが別世界のように静まり返り――
王国の未来を象徴する発明者と、破滅をもたらす暗殺者が、ついに対峙した。
中庭のBBQはまだ賑わいを続けていた。
炭火の赤い光が学生たちの笑顔を照らし、歌声と笑い声が空気に溶けていく。
その喧騒の中で、ひとり静かに立ち上がったのは マクシムだった。
彼は杯を置き、誰にも気づかれぬように足音を殺して歩き出す。
宴に夢中の仲間たちは、その背中に注意を払うことはない。
しかし、私はその様子を見逃さなかった。
私は炭火の影に身を潜め、マクシムの動きを鋭く追っていた。
「……なぜ、今、研究室へ?」
心の中で呟きながら、静かに立ち上がり、一定の距離を保って後を追う。
夕暮れの回廊は橙の光に染まり、長い影が石畳に伸びていた。
だが、曲がり角を抜けた瞬間――マクシムの姿を見失った。
廊下には誰もいない。
夕日の残光だけが窓から差し込み、埃の粒を金色に舞わせていた。
その時だった。
かすかな震えのような魔力の波動が、空気を揺らした。
それは研究室の方角から漂ってくる。
「……イネザベスの研究室……!」
胸に緊張が走る。
迷うことなく足を速め、研究室へと駆け出した。
祝祭の賑わいが遠くで響く中、夕暮れの静寂を切り裂くように――
迫り来る不穏な気配へと急いでいった
私は開かれたままの研究室の扉を押し開け、駆け込んだ――
目に飛び込んできたのは、夕日の残光を背にした壮絶な光景だった。
ひとつながりの漆黒の龍のマスクとマントを纏った剣士が大剣を振るい、漆黒の鎧に身を包んだ魔族の一撃を受け止めた。
剣と剣がぶつかり合い、火花が散り、重々しい衝撃音が研究室の壁を震わせる。
黒マントの剣士の背後には、床に座り込む イネザベス。
彼女は恐怖に顔を強張らせながらも、助けに入った剣士の存在に希望を見出していた。
イネザベスは私に気づき、声を張り上げる。
「逃げなさ!」
黒マントの剣士もちらりと私を見やり、目線とわずかな仕草で「ここは任せろ」と告げる。
その眼差しには確かな覚悟と、揺るぎない信念が宿っていた。
私は一瞬迷った。
助けたい気持ちが胸を突き上げるが――私には決して明かせない秘密がある。
私は魔法を操る本当の力を隠している。
その力をここで使えば、仲間や王国に正体が露見し、隠してきた自分の存在が揺らいでしまう。
だからこそ、今この場でトシードの姿のままイネザベスを助けることはできない。
その時、研究室の外から強烈な魔力の波動が押し寄せてきた。
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