第67話「平民マクシム」
第67話
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いよいよトシードとマサヴェイが出会います。
ぐーたら第三王子は、魔法の廃れた世界で、龍魔王の力をこっそり使い、世界を救う 第16話「仮面の任務“マクシム”」もあわせてお楽しみください。
王立学園のカフェテリアの隅。
今日も、3人で並んでバースクチーズケーキと紅茶を楽しんでいる。
エドザー王家 第3王女 センナ・フォン・エドザー
その姿はまるで絵画の中の貴婦人。
高貴な気品としなやかな美しさを纏い、長い金髪が風に揺れるたび、周囲の空気さえ静まり返る。
歩く姿勢、微笑み、視線のひとつひとつに知性と自信が宿り、誰もが目を奪われる。
キーバッハ公爵家 次女 ムネルダ・フォン・キーバッハ
彼女は春の陽だまりのような存在。
小柄な体にふわりとした金髪、大きな瞳と明るい笑顔が、見る者の心を優しく包み込む。
楽しげなその姿は、純粋な魅力そのものであり、誰もが自然と微笑んでしまう。
そして、私――エチゼルト伯爵家 三男 トシード・フォン・エチゼルト
目立つことはないが、2人の隣で静かに紅茶を啜るこの時間が心地よい。
注目の的である2人と共にいることで、周囲からの視線は絶えないが、今ではそれも日常の一部だ。
しかし、話しかけられるという経験はほとんどない。
この2人は遥かに高い高嶺の花であり、声をかけること自体が躊躇されているのだ。
だが――今日は、何か違う。
視線の質が、微かに、だが確かに違っていた。
まるで、誰かが「こちら側」に踏み込もうとしているような、そんな気配。
「――あのー、少しいいですか?」
その声は、まるで水面に落ちた一滴の雫のように、静かに、しかし確かに私たちの空間に波紋を広げた。
振り向くと、そこにはアユナが立っていた。
彼女は、1年生の時にAクラスの同級生。
2年生、3年生ではBクラス。
突出した能力を持っていると感じていたが、それを出したところは見たことがない。
そして、特に接点を持つ機会はなかった。
センナ:「はい。アユナさん、お久しぶりですね」
と外向けの素晴らしい笑顔を返す。
アユナ:「覚えていただいており光栄です」
とこちらも満面の笑顔を返す。
アユナ:「バースクチーズケーキがとても美味しくて。ぜひ、この感動をお伝えしたくと思いまして」
センナ:「それはありがとうございます。喜んでいただいて嬉しいですわ」
アユナが隣にいる男子生徒をツンツンしている。
その男子生徒の美しい黒髪は吸い込まれるような漆黒である。
目は半分ほどしか開いておらず、ぐーたら感がただよっているが、漆黒の瞳を隠しているようでもある。
黒髪の男子生徒:「あ、ど、どうも・・・」
第3王女センナと話をするというのに、この緊張感のなさ。
センナが知らないのだから、貴族ではないことは確かであり、アユナと同じ平民だろう。
それにしても、平民とは思えない度胸の持ち主だ。
それでいて、愛嬌があって、無礼ではない。
アユナから小さく「まったく」というため息が聞こえた気がしたが、センナは気にせず黒髪の男子生徒に微笑みかけている。
さすがは第3王女である。
アユナ:「センナ様。こちらはマクシムといいます。バースクチーズケーキに感動して、どうしてもお礼がしたいといいまして」
マクシムといわれた黒髪の男子生徒は、右手で頭の後ろをかきながら、はにかんだ笑顔で一礼する。
その仕草は、どこか不器用で、けれど妙に印象に残る。
センナ:「マクシムさん。お褒めいただき光栄ですわ」
その声は柔らかく、けれどどこか探るような響きを含んでいた。
ムネルダ:「ふふっ、そんなに美味しかったのね。嬉しいわ」
彼女の笑顔は、まるで春風のように緊張を和らげていく。
マクシム:「・・・・・はい。なんというか、心がほどけるような味で・・・・・」
その言葉に、センナの目がわずかに見開かれた。
それは、彼女が「本当に伝えたかったこと」を、誰かが言葉にしてくれた瞬間だったのかもしれない。
私は、静かに紅茶を啜りながら、そのやり取りを見つめていた。
この出会いは、偶然のようでいて、どこか必然のようにも思える。
マクシムという名の漆黒の髪の少年――
このあと、彼とは友達になるのだろうという予感が、確かに胸の奥に芽生えていた。
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