第65話「追い詰められたトシード」
第65話
ご愛読いただきありがとうございます。
すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!
何はさておき、私はバースクチーズケーキをホールのままテーブルの中央へと置く。
そして、4人の視線がケーキに集中したのを確認してから、そっと、紅茶の準備へと抜け出す。
ムネルダ:「ねえセンナ、これ・・・焦げてるのに、いい匂いする!焦げって、普通は失敗じゃないの?でもこれは・・・成功の匂いがする!」
ケーキの周りをぐるぐる回りながら、鼻をくんくんさせている
センナ:「本当によい香りですわ!チーズケーキって、こんなに芳醇な香りを放つものなのですね。甘いのかしら、それとも・・・しょっぱいのかしら?未知の味覚に、心がざわつきますわ」
鼻をくすぐる香ばしさに、思わず深呼吸してしまう。
2人は、初めての体験に少し緊張しているようにも見える。
イネザベス:「ふふ、初々しいわね。私たちなんて、トシードのケーキを30日間、食べ続けたのよ。焦げ目の色で、焼き時間が何分か当てられるくらいにはね」
センナ:「ほ、ほんですか?」
カコレット:「センナさん、本当ですよ。うーん、この見た目と香りは・・・間違いない、試作番号48番!あの“奇跡とも思える焼き加減”を完全再現している!つまりは至高のバースクチーズケーキということです!トシード、やるじゃん!」
4人が会話しているようで、独り言をいっているようで、なんとも不思議な空間になっている。
ムネルダはウロウロしているし。
私がディーンブラ紅茶をストレートでティーカップへと注ぐと、ディーンブラの澄んだ香りが、バースクチーズケーキの香ばしさと混ざり合い、空間を柔らかく満たしていく。
4人はあらためて着席し、ディーンブラ紅茶を口にしたことで、落ち着きを取り戻した。
そして、いよいよ私はバースクチーズケーキにナイフを入れる。
4人がその切り口を凝視し、固まっている。
その静けさの中、ナイフの刃が表面の香ばしい焼き目を静かに割っていく。
「サクッ」という音が空気を震わせた。
中から現れたのは、黄金色のとろりとしたチーズの層。
ムネルダが目を輝かせながら、
「わあーーー!中、やわらかい!とろけてる!これ、飲み物?食べ物?どっち!?」
椅子に座っているのに、半分立ち上がってケーキを覗き込んでいる。
センナは静かに息をのみながら、
「・・・見事な焼き加減ですわ。外はしっかり、中はとろり。温度管理、湿度、焼成時間・・・すべてが計算され尽くしているということなのですね」
ティーカップをそっと置き、ナイフの動きを目で追っている。
イネザベスは腕を組みながら、
「ふふ、トシードったら。今日のも素晴らしいわ。“第48号”よりも、焼き目が深いわね」
誰も聞いていないのに、勝手に講評を始める。
しかし、いつもと雰囲気が違い過ぎる。
なんか、無理してないかと心配になるが・・・。
カコレットは、すでにフォークを構えている。
「よし、私は端っこ狙いだ!焦げ目が多いとこ!あそこは“旨みの渋滞”が起きてる!」
フォークを持ったまま、ケーキの切り分けを待ちきれずに小刻みに揺れている。
うーーーん、端っこだけをカコレットにあげるわけにはいかないのだけれども・・・。
私はきっちり5等分したバースクチーズケーキを皿にとりわけ、配る。
センナは、銀のスプーンで一口すくい、慎重に口元へと運ぶ。
ムネルダも、少し緊張した面持ちでそれに続く。
その瞬間——
「・・・・・・っ!」
センナの瞳が見開かれ、まるで星が瞬いたように輝いた。
「これは・・・チーズが歌っています・・・!焦げが踊っています・・・!」
彼女の声は震えていた。
ムネルダは目を閉じ、静かにうなずいた。
「うん、うん、これはすごいですーーーーー!。口の中で、香りと甘さが手を取り合っているーーーーー!」
2人は、もう一口、そしてもう一口とスプーンを運ぶ。
その表情は柔らかく、幸福に満ちている。
イネザベスとカコレットはケーキを味わいながら、センナとムネルダの反応を楽しんでいる。
なんだか、いまの2人からは余裕を持った大人な雰囲気が漂っている。
センナ:「イネザベス先生、ありがとうございます」
イネザベス:「えっ・・・(何のことかしら)」
センナ:「アスーカ教立図書館で、(イネザベス先生が)お菓子のレシピ本を見つけたと伺いましたが」
イネザベス:「ああ、そうなのよ。(トシードがね)」
私はドキドキしながら会話の行く先を見守る。
センナ:「アスーカ教立図書館って、いろいろな書物があるのですね」
イネザベス:「そりゃ、そうよ。古代から現代まで、いろいろなジャンルの文献がそろっているわよ。エッヘン」
センナ:「バースクチーズケーキのレシピはどのように見つけられたのですか?」
イネザベス:「見つけた・・・???」
トシード:「せっ、先生!休憩タイムに、ほら・・・あれ・・・ですよ」
イネザベス:「うん?・・・ああ、あれね。(トシード君が休憩タイムにぶらぶらしながら棚の本を漁っていたあのときね)」
センナが微笑みながらイネザベスの言葉をまっている。
イネザベス:「休憩タイムに(トシード君が)たまたま見つけたのよね。(私は現物を見てないけど)」
そういいながら、私の方を向く。
トシード:「そっ、そうなんですよね。まあまあ、その話はそれぐらいで・・・。イネザベス先生、また今度行ったら、他のスイーツのレシピも探しましょう!」
イネザベス:「それはナイスアイデアです!次は一緒に探しましょう」
トシード:「あははははは、そうしましょ~」
カコレット:「いいわね、それ!私もやるわ!」
センナ、ムネルダから
「「おおーーー」」
という声が漏れている。
ああ、これは、確実に実行しなければならないだろう。
余計なことを言ってしまった。。。
しかし、何とか切り抜けたか。
本当は260年間の私の記憶なのだが、
センナには、アスーカ教立図書館でイネザベス先生がレシピ本を見つけたと
イネザベスには、アスーカ教立図書館で私がレシピ本を見つけたと
いうことにしている。
とっさに、センナに答えてしまった悪手が起点であるが、こういう矛盾はまずい。
心拍数が上がりすぎて、眩暈がしていた。
もう少しで、倒れるところだった。
このような過ちは二度と犯さないと自分自身に誓った。
センナ:「トシードさん!本当に美味しいですわ。毎日でも食べたいですわ」
ムネルダが、モグモグしながら片手をあげて(私もーーー!)と言っているがごとく、センナの発言に賛成の意を示している。
カコレット:「そうよね~。わかるわ~」
イネザベス:「うんうん。そう思うわよね。でも、トシード君がバースクチーズケーキ専属となると、魔道具研究の時間が取れなくなるから困るわね」
そういいながら、真剣に考え込む仕草を見せる。
(作るのは私なのですね・・・)と私の唇の端がヒクヒクとひくついていることに気づいたイネザベスが
「ふふふ、どうする、トシード君?」
最後までお読みいただきありがとうございました。
気に入っていただけた方は、ぜひ、
・ブックマーク
・下の評価で5つ星
よろしくお願いいたしますm(__)m
つけてくれると、嬉しいです。




