第45話「試し切りとバケツリレー」
第45話
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エチゼルト領の本邸。
馬車を降りると、母ウティルダと妹ミレノアが出迎えてくれた。
執事セバスと侍女ジーンの姿もある。
父カフレッドは、常に最前線の本陣にいるが、我々の到着に合わせて今夜戻ってくるらしい。
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食堂で待っていると扉が開き、慌ただしく父が入ってきた。
疲れた顔でドサッと椅子に腰を下ろす。
久々の家族での食事だが、気になるのは前線の様子。
みんなで、父の話に聞き入っている。
大半がCランクの魔物、ときどきBランクの魔物が現れる。
実力的に戦闘において騎士団が負けることはないのだが、3か月も戦闘が継続すると疲れが溜まってくるし、武器も劣化してくる。
エドザー王国第2騎士団が合流したことで、士気が回復し、戦力的余裕もできたことで、“冥界の大森林”の奥へ、根本原因の撲滅のための精鋭部隊を編成中とのことだ。
父カフレッド:「イサルトは、明日の朝、儂と一緒に本陣にいくぞ。」
長兄イサルト:「はい!」
父カフレッド:「うむ。ソウミリアンは、後方支援部隊に入り、食料や武器の支援をすること」
次兄ソウミリアン:「はい・・・」
父カフレッド:「後方支援はもっとも重要な仕事のひとつだ。しっかりやるのだぞ」
次兄ソウミリアン:「はっ、はい!」
父カフレッド:「うむ。トシードは、武器や防具、魔道具の修理を頼む。修理部隊として鍛冶職人を集めてある」
トシード:「は、はい」
父カフレッド:「ふふふ、鍛冶職人どもは、曲者揃いだぞ。しっかりやってこい」
私は頷くと、思い出したかのように父の目を見ながら、
トシード:「父上。イネザベス先生から魔法属性エンチャントバングルを60個預かってきました」
父カフレッド:「それはどういうものだ?」
トシード:「セバス!中庭に用意してくれ」
セバスは一礼すると、食堂を出ていく。
そして我々も夕食を一旦切り上げ、みんなで中庭へと向かう。
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満月の明るい月明りの中、私は魔法属性エンチャントバングルを左手首にはめ、剣を手にした。
そして、小サイズの赤魔石をバングルの中央の溝に入れ、右にカチッと音がするまで回し、魔石をバングルにセットする。
トシード:「では、いきます」
私は左手で剣を構え、赤魔石をさらに右に回す。
再度、カチッと音がし、その瞬間、剣が炎を纏った。
妹ミレノア:「うわー、すごいー」
母ウティルダ:「ふふふ、すごいじゃないの」
次兄ソウミリアン:「えええーーー」
長兄イサルトは目を大きく見開いている。
父カフレッドは目を細めている。
私は両手で剣を握ると、中庭の太い木の前にすすむ。
剣が閃光のごとく一閃されるが、太い木は音もなくその場で佇んでいた。
しかし、刃は木の芯を正確に貫いている。
わずかな時間が過ぎたその瞬間、幹がスーッとゆっくりと傾き始め、地面に向かい滑らかに落ちていく。
そして、地に伏した木は燃え上がった。
妹ミレノア:「きゃーーー、燃えっちゃったよーーー」
母ウティルダ:「まあ、なんてことでしょう。セバス!水よ、水」
セバスは動揺もしておらず、迅速に中庭の噴水から侍女たちのバケツリレーで消火活動にあたっている。
次兄ソウミリアンは、開いた口がふさがらないようだ。
長兄イサルトは目を大きく見開いたままだ。
父カフレッド:「なるほど。火属性を剣にエンチャントする魔道具なのか。すばらしい」
トシード:「はい。魔石の種類によってエンチャント効果を変えることができます。魔物に合わせて魔石を選ぶことで有利に闘うことができます」
父カフレッド:「うむ。すばらしい。さすがはイネザベス殿であるな」
トシード:「はい。バングルは60個あります。Cランクの魔物から得られる小サイズの魔石で起動することができます」
父カフレッド:「なるほど。最前線の魔物はCランクが多いから、魔石確保には困ることはなさそうだな。ふふふ」
トシード:「はい。念のため、小サイズ魔石も各種預かってきました」
父カフレッド:「準備のいいことだ。ありがたく貰っていくぞ」
私は笑顔で頷いた。
そのあと、本邸の庭の太い木は切り倒されていく。
父カフレッド、長兄イサルト、次兄ソウミリアンが試し切りといいつつ、楽しくなってしまったようだ。
やれやれな親子だ。
その雄姿を、私と母ウティルダ、妹ミレノアは、ただただ見守っていた。
そして、中庭の噴水から侍女たちのバケツリレーは最後の1本が切り倒されるまで続くのであった。
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