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第42話「魔岩」

第42話

ご愛読いただきありがとうございます。

すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!

メルロ畑の中心に小さな真っ白なシャトーがあり、そして、その中庭に子供が一人通れるかどうかの小さな洞窟の入り口がある。


トシード:「これが洞窟ですか」

ジャエール:「そうじゃ。想像よりも小さかったかの?ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

トシード:「ま、まあ、そうですね。ダンジョン群都市モーズにあるようなダンジョンの入り口を想像していました」

ジャエール:「中には小さな広場があるだけで、魔物がいるわけではないしじゃな。ただの、穴じゃて」

トシード:「そうなんですね」


ジャエールが私たちをメルロ畑へと連れていき、ブドウを一粒ずつ採ってくれた。

そのブドウを口にすると糖度と酸味に中に、たしかに、ワインから感じた独特な雰囲気をわずかに感じとることができる。


ジャエールが微笑みながら私たちの反応を楽しんでいる。


ジャエール:「どうじゃ?感じるじゃろ」


私たちは顔を見合いながら頷く。


ジャエール:「不思議じゃろ~。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」


私たちは顔を見合いながら再び頷く。


・・・・・・・・・・


小さな真っ白なシャトーの中庭。

木漏れ日が差し込む庭のテーブルの上には、さまざまな種類のサンドウィッチが美しく並んでいる。


私はクリーミーな卵サンドを手に取り一口かじる。

完璧なふわふわ加減に感動し、もう一口かじる。


センナは、アボカドとトマトのヘルシーなサンドウィッチに手を伸ばす。

新鮮なアボカドのクリーミーさが、トマトの甘みとよく合うようだ。

彼女の表情から幸せが溢れている。


ムネルダはローストビーフとラディッシュのサンドウィッチを元気に一口かじると

「このスパイシーさ、たまらないわ!」

と目を輝かせている。

そして、彼女の前には、すでに次のカプレーゼサンドが控えている。


ジャエールはスモークサーモンのサンドウィッチをかじり、もぐもぐしながら、紅茶をそれぞれのティーカップに注いでくれる。


この香りは私の大好きなアールグレーである。

サンドウィッチと紅茶を充分に楽しみ、なぜこのメルロ畑が特別なのかについての話題で盛り上がる。


・・・・・・・・・・


魔石タンタンを渡された私は洞窟の入り口の前に立っている。

私が洞窟の中に入ってみることになったのだ。


ジャエールは、危険はないし、少し広い空間があるだけだから、期待しないようにというけど、興味はある。


小さな入り口から地下へと下っていく細く狭い通路が続く。

服の袖が洞窟の壁にこすれる。


そして、ゆっくり5分ほど歩けば確かに少し広い空間に出た。

その空間に足を踏み入れると、ぼやッとした小さないくつかの光が壁に吸い込まれていったような気がした。

魔石ランタンの光に比べるとかなり暗い光だったから、もしかしたら見間違いかもしれないが。


この空間をランタンで隅々まで照らして確認したが、ところどころに隙間のあるコケのはえた岩壁があるだけで、特に気になる点はない。

やはり見間違いだったのかもしれない。


それでも、この洞窟はメルロ畑の中央にあるし、なにかしらのヒントが隠されていると思わざるをえない。


私は、魔石ランタンを消し、大の字で床に寝そべる。

そして、身体強化魔法で聴覚、嗅覚、視覚の感度を最大限まで高める。


しばらくすると岩の壁に薄暗くボヤーっと瞬き光る点が一つ二つと現れ始めた。

よーく見るとゆっくりと動いている。

そして、視野一面にその薄暗い光は星空のように広がる。


魔光虫だ。

魔岩のある場所に住み、その岩に生える魔力を含んだコケを食べて生きている。


鑑定スキルを使い岩の壁を調べる。

この空間の壁はすべて魔岩だ。


あのテロワールを生み出しているのはこの魔岩ということだろうか。

だとすると、このメルロ畑一帯は、魔岩でできていることになる。

そんなに広範囲にわたって魔岩が存在するものだろうか。


魔岩とは、魔獣の化石である。

巨大な魔獣が1体なのか、中小型の魔獣が複数体なのか。

この地で何があったのか。

こういう歴史ミステリーは好きだ。

とっても気になる。


・・・・・・・・・・


洞窟から出るとセンナとムネルダが待ちわびていた。

質問攻めにあう。


魔光虫がいる魔岩で囲まれた広場があり、危険がないことがわかると、2人は魔石タンタンを手に洞窟へと入っていった。


魔物の中にある魔石に比べて魔岩は含んでいる魔力が極端に少ない。

だから、あえて魔岩を魔道具に使う人はいない。


キヨフレッドだった260年前を思い起こしても、魔岩の使い道は“肉を焼く魔岩プレート”と“魔力回復を促進させる岩盤浴”の2つぐらいだ。

確かに、魔岩プレートを使って焼いた肉はふっくらジューシーで旨味が増し、さらに独特の味を纏う。

これは大人の味であり、“苦い”に近い味だ。


改めて、この独特の味は、魔力の味なのだと思う。


このメルロ畑から造られた赤ワインも、確かに同じ独特の味であった。

この区画は、かなり微弱な魔力が出ており、常にブドウの木や醸造されたワインが魔力を取り込んでいる。

しかし、この区画から持ち出すとワインから魔力が抜けていくだけで、1週間ほどでワインの中に魔力がなくなってしまうということだろう。


保管に関しては、魔岩でワインセラーをつくれば解決しそうであるが。

ここでしか飲めないという希少性を奪うのは、この地を訪れる非日常という楽しみが減ってしまうので、提案するのはやめておこう。


と、考え事をしていると、ジャエールがワイン畑の地図をもって来てくれた。


このメルロ畑の区画だけが歪な形をしている。

まるで巨大なドラゴンが大きな翼を広げているような。


センナとムネルダが「何もなかった~」というような顔で洞窟から戻ってきた。


ジャエール:「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。それでは、ブドウの収穫に行きましょうなのじゃ」


「「「はーい」」」と返事をし、収穫へと私たちは向かった。


・・・・・・・・・・


大陸伝承 漆黒のドラゴンの章。

暗黒の炎と暴風で大陸の支配を狙っていた龍魔王こと、漆黒の超巨大ドラゴン“ヴィオデス”。

大陸の中央部を手中におさめたところで、神々によって封じられ化石となった。


このメルロ畑に化石として封印された漆黒のドラゴンが実際に埋まっていることに気づくのはまだ先のことである。

最後までお読みいただきありがとうございました。

気に入っていただけた方は、ぜひ、

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よろしくお願いいたしますm(__)m

とても嬉しいです。

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