第39話「宰相ミツトー・フォン・キーバッハ」
第39話
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キーバッハ領 公都キーバッハ。
キインヌ川から微かに漂う爽やかな川の匂いと、風に運ばれるワインの芳香が混ざり合う都市。
石畳の道は馬車の車輪で軽やかな音を立て、歴史の重みを感じさせる。
建物群は、砂岩の淡い色合いが夕日を受けて黄金色に輝き、見惚れる美しさだ。
そのクラシックな建築の中を縫うようにして走る路地にちょっとした冒険心をくすぐられる。
馬車から街並みを楽しんでいるうちに、太陽が沈んでいく。
暗くなると、街全体がライトアップされ、キインヌ川の水面にきらめく反射が揺れる。
三日月の形を描く川の流れを眺めながら、あまりの美しさに馬車も自然とゆっくりとしたものになり、街の魅力を全身で感じることができる。
馬車が止まった。
大きく美しい完璧な左右対称の公爵邸に圧倒される。
壮大な玄関で、手を振る女子が2人。
私も大きく手を振り返す。
明日からキーバッハ公爵家所有のワイナリーに行き、のんびりとしたバカンスを楽しむことになっている。
しかし、まずはその前に、これから夕食会である。
ミツトー・フォン・キーバッハ公爵に会うことになる。
ムネルダからは、謹厳実直、嘘が大嫌いな面倒くさい父親だと聞いている。
悠々自適なムネルダからは想像がつかないが、そこは母親ゆずりなのらしい。
・・・・・・・・・・
広々とした食堂に入ると、重厚な木製の椅子に腰を下ろしているミツトー・フォン・キーバッハ公爵の姿が目に入った。
きっちりと整えられたカイザー髭が、彼の謹厳実直な性格を象徴しているかのようだ。
その鋭い眼差しが、こちらをじっと捉えた。
うわー、緊張するー。
でも、イメージトレーニングしてきたから大丈夫・・・かな。
トシード:「初めまして、公爵閣下。カフレッド・フォン・エチゼルトが三男トシードと申します。ご招待いただき感謝申し上げます」
ミツトー:「うむ。待っておったぞ」
トシード:(・・・・・)
ほんの少しの沈黙が重い。
とても長く感じる。
そして、ずっと睨まれている・・・。
女性:「あなた。食事を始めましょうか。トシードさんも座ってくださいね。シモン、はじめてちょうだい」
執事と思われるシモンが「畏まりました」と一礼をし、侍女たちに合図を送る。
ようやく止まっていた沈黙の空間が、正常に動き始めた。
ありがとう、ムネルダのお母さん!と心の中で感謝を述べる。
それが伝わったのか、彼女は微笑みかけてくれた。
まずは、食前酒によく冷えた貴腐ワインが運ばれてきた。
ワインが有名なキーバッハである。
楽しみしかない。
子供用に水で薄められているのが残念だが、ワインの美味しさはよくわかる。
すっきりした甘さで食欲を刺激してくる。
最高のスタートだ。
目を閉じて上を向いている自分に気づく。
センナとムネルダが微笑ましく見守ってくれている。
スープ、パン、チーズが運ばれると、会話が静かに始まった。
キーバッハ公爵家は
父ミツトー :謹厳実直、カイザー髭
母ユリーズ :悠々自適
長女エリーラ :悠々自適
長男ツリオット :謹厳実直
次女ムネルダ :悠々自適
次男ヨシス :謹厳実直
三女イクヴィア :悠々自適
といった感じのようだ。
男性陣は謹厳実直。
女性陣は悠々自適。
早く明日にならないかなと心の中でぼやいてしまう。
長男ツリオット:「トシード君、何か特技がおありですか?」
その目には興味の光が宿っている。
うーん、意外と難しい質問が来たな~。
剣の名門エチゼルト伯爵家だから、何を期待されているのかは、わかっているけど・・・
といっても、公爵家が伯爵家の三男のことなんて知らないだろうし、悪気はないだろうし・・・
我が父カフレッドも盾スキルでグレていて扱いにくい三男の話なんて、公の場で話さないだろうしなぁ・・・
トシード:「特技と言えるかはわかりませんが、魔道具づくりが得意です」
長男ツリオット:「えっ・・・、そ、そうなのか。剣ではなく?!」
やはりそう来たか、そうだよね、わかっていたよ。
トシード:「はい。残念ながら私は盾スキルでして・・・」
長男ツリオット:「そっ、それは、失礼した・・・」
トシード:「いえ。お気になさらずです。私は特に気にしておりませんので」
実際、まったく気にしていない。
逆に、周りに気を使わせてしまうことを、気にしている。
父ミツトー:「そうであるか。しかし、それは気に病むようなことではない。道は人それぞれにあるものだ。家に縛られることはない」
おおー、さすがエドザー王国の宰相であるミツトー公爵だ。
視点が高い。
国という全体で物事を考えている立場の人は違うな~。
父ミツトー:「して、王立学園の1年生に魔道具づくりの天才がいると聞いているが、それはトシード君のことなのかな?」
これは絶対に知っていて聞かれているやつだーーー。
ついつい苦笑いが漏れてしまう。
ムネルダ:「お父様!そうよ、その天才がトシードよ!なんで知っているの?」
ありがとう、ムネルダ。
でも、そんなにアピールしないでーーー
話が大きくなると目立つからーーー
父ミツトーの眼光が光ったように見えた。
なんかやばい感じがする。
もしかして、ワイナリーに直行ではなく、一度、公都に立ち寄ることになったのは、私と会いたいからだったりする?!
そうだとしたら、絶対にヤバイ何かがあるかもしれない・・・
父ミツトー:「三賢のモジャー・モーリンが嬉しそうに自慢しておったからのを」
そこか~、学園長~、余計なことを・・・
トシード:「ありがとうございます。イネザベス先生のご指導のおかげです」
父ミツトー:「であるか。励めよ」
トシード:「はい、ありがとうございます。頑張ります」
私は頭を下げた。
父ミツトー:「トシード君。一つ頼みがある」
トシード:「は、はい」
父ミツトー:「新発明の魔道具ができたら、ぜひ見せてほしい。頼むぞ」
トシード:「・・・」
母ユリーズ:「あなた。魔道具好きなのはわかるけど。それは、言ってはいけませんよ」
父ミツトー:「むむむ」
母ユリーズ:「宰相であり、公爵であるあなたが言うと、命令になってしまいますわ」
父ミツトー:「むむむ」
母ユリーズ:「トシードさん、へんなプレッシャーを与えてごめんなさいね。今のことは忘れていいので、学園生活を楽しんでくださいね、ふふふ」
父ミツトー:「うーん、非常に残念だが、忘れてくれ。でも、見せたくなったら遠慮なくもって来てくれ。わっはっはっは」
ミツトー公爵の笑顔が見れてよかったが、これは持っていかないといけないやつだなとプレッシャーを受け止めた。
母ユリーズは、やれやれといった顔をしている。
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