第29話「クリームシチュー」
第29話
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カコレット:「それで、トシードはどんな魔道具を持ってきたの?」
トシード:「ああ、私ですね。魔石銃と魔石ハウスの2つです」
カコレット:「なになに、それってどんなものなの?」
トシード:(近寄りすぎだから!!!)
イネザベスも近距離でリュックの中を覗き込んでくる。
ソリアムからの視線が痛い・・・。
10歳の子供相手にライバル心を燃やすのはやめてーーーと思う。
■魔石銃
小サイズの魔石を弾倉にセットし、対応する魔法陣を銃身にセットする。
そして、撃鉄を引き、引金を引くと魔法が発射される武器だ。
たとえば、
・“火属性の赤の魔石”と“火球の魔法陣”の組み合わせで火球を発射
・“火属性の赤の魔石”と“火槍の魔法陣”の組み合わせで火槍を発射
・“水属性の青の魔石”と“水球の魔法陣”の組み合わせで水球を発射
・“水属性の青の魔石”と“水槍の魔法陣”の組み合わせで水槍を発射
といった感じである。
今回は10個の魔石がセットできる弾倉を用意した。
■魔石ハウス
サイクロプスから得られた大サイズの茶色の土の魔石を使った1棟平屋建ての土壁の住居を2棟発生できる遠征グッズだ。
私の説明を聞いたイネザベスとカコレットに沈黙が流れた。
目が点になり、遠くを眺めている。
トシード:「あっ、あの~、どうしました?」
イネザベスとカコレットが急に目を覚ましたかのような、はっとした顔になる。
イネザベス、カコレット:「「どうもこうもないわよ!」」
トシード:(おおー、ハモってる)
イネザベス:「いいですか、トシードさん。さらっと言いますけど、なんですかその魔道具は!どこからそのような発想がくるのですか!」
カコレットは「ですです」と大きく何度も頷いている。
トシード:(どこといわれても、魔法でできることを魔道具で再現しただけですが、なにか)
カコレット:「相変わらずだな、トシードは。どれだけ独創的かわかってないな~。魔石銃は魔石と魔法陣の組み合わせで複数の魔法を発動可能なところがユニークだ。小さいから威力はないだろうけど、ひっじょーに面白いwww」
イネザベス:「そうよね。そして、魔石ハウスは新製品ね。土魔法で壁が造れるのは知っていますが、簡易住居に応用するとは。学園に戻ったら魔法陣を教えてくださいね」
カコレット:「あっ、私にもね!」
イネザベス:「ふふふふふ。これらも特許化の話をしましょう。大きなビジネスが期待できますよ!!!今後のけんきゅ」
トシード:(やばい。そういうことか・・・。イネザベスが悪い顔をしている・・・)
ソリアム:「みなさ~ん、夕食できましたよ~」
トシード:(助かった。ナイス、ソリアム!とりあえず、この状況から離脱ができる)
・・・・・・・・・・
クリーミーなシチューの香りが漂う。
一角鶏のもも肉が黄金色に輝き、玉ねぎとにんじん、ジャガイモ、ブロッコリー、マッシュルームが豊かな彩りを添えている。
ローリエと胡椒の香りが鼻腔をくすぐり、食欲をそそる。
イネザベスはスプーンを手に取り、シチューの一口を口に運ぶ。
温かくてクリーミーな味わいが舌の上で広がり、心まで温かくしたようだ。
彼女は目を閉じて、しばしの間、幸福感に浸っていた。
そして、目を開けると、ガーリックバターが塗られたカリッカリのバケットが彼女の目に入る。
彼女はそれを手に取り、一口かじる。
サクッといい音が響く。
ガーリックの風味とバターの滑らかさが口の中で一体となり、シチューとの相性が抜群なのだろう。
彼女の幸せそうな笑顔がそれを物語っている。
それを、ソリアムは見つめている。
イネザベスが「美味しい」というと、ソリアムはとても嬉しそうな顔になった。
横でカコレットは「うまい~」といいながら、にぎやかにガッついている。
雰囲気お構いなしなところが、彼女の良いところだ。
私はお節介ながら、この2人の関係を何とかしたいと思い始めた。
そして、できることなら、イネザベスの興味をすこしでも私から逸らしたいという副産物にも期待する。
・・・・・・・・・・
イネザベスとカコレットがテントで寝るのを見届けると、ソリアムはロングソードを抜き、素振りを始めた。
しばらくして、私はテントの寝床から抜け出し、ソリアムのもとへ向かう。
ソリアム:「これは、トシード君。目が覚めたのですか?」
トシード:「はい、何の音かと思いまして。素振りの音だったのですね。」
ソリアム:「これは、すまない。起こしてしまいましたか。ついつい日課なもので申し訳ない」
トシード:「いえ、お気になさらずです。ひとつ聞いてもいいですか?」
ソリアム:「なんだい?僕に応えられることならいいけど」
トシード:「イネザベス先生とはどのようなご関係なのですか?」
ソリアム:「えっ・・・ああ。彼女とは幼馴染だよ。家が隣なんだ」
トシード:「そうなんですね。えっと~、あの~」
ソリアム:「どうしたの?」
トシード:「ソリアムさんは・・・イネザベス先生のことが、好きなのですか?」
ソリアムの身体がビクッとし、ソリアムは満月をしばらく見上げていた。
そして、おもむろに私を振り返った左目から、スーッと一筋の涙が頬を伝った。
ソリアム:「うっ、うううう・・・わかるか?わかるのか?」
私は一歩後ずさりしてしまった。
トシード:「・・・あっ、あああ・・・まっ、まあ・・・見ていればわかりますけど・・・」
ソリアム:「そ、そうか。別に僕は隠しているわけではないから、いいのだが・・・」
トシード:「そっ、そうですか」
なんか、汗がでてきた。
やはり、放っておけばよかったかもと、少し後悔し始めた。
ソリアム:「彼女は僕の気持ちに気づいていると思うか?どう思う?率直に教えてくれ」
トシード:「うーん、そうですね。正直言って、まったく気づいていないと思います」
ソリアム:「やはりそう思うか。そうだよな、そう思うよな、そうだよな、そうなんだよ、ううううう・・・」
ソリアムの声がどんどん小さくなっていき、両目から涙が滝のようにドバーっと流れ出す。
彼が泣き止むのを待つこと30分。
ようやく、落ち着きを取り戻してきたようだ。
ソリアム:「僕は、彼女の傍にいれるだけで十分幸せなのだ。それ以上は望まない。これでいいんだ」
まるで自分自身に言い聞かせているような感じがする。。。
トシード:「元気出してください。一緒に居ればきっとチャンスが訪れることがありますよ」
ソリアム:「そうだな。ありがとう、トシード君。元気が出てきたよ、ハハハ」
ソリアムの渇いた笑い声が、雲ひとつない満月の夜空に吸い込まれていった。
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