第103話「外交会談―飢えと王冠のはざまで」
第103話
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薄曇りの空から差し込む光が、会談室の長卓を淡く照らしていた。
窓の外では、獣人兵が無言で巡回している。
その足音が、静まり返った室内にかすかな緊張を刻んでいた。
センナは、手元の資料を閉じ、向かいに座るスエン・ツー・カンコを見つめた。
スエン王女は、獣人特有の鋭い瞳を伏せ、しかしその背筋は一本の槍のようにまっすぐだった。
彼女の横には、猿族宗家の宰相ギギが控え、その尾がわずかに揺れている。
沈黙を破ったのはスエンだった。
「我が国は、飢えているのです」
その声は震えていない。
だが、張り詰めた糸のような緊迫があった。
「戦争は終わりました。しかし、民の腹は満たされていません。
農地は焼かれ、物流は寸断され……
このままでは、冬を越せない地域も出るでしょう」
センナは静かに頷いた。
事前の報告で知っていたことだ。
だが、スエンの言葉には“数字では測れない重さ”があった。
「食料支援を求めているのですね」
センナは慎重に言葉を選ぶ。
スエンは顔を上げた。
その瞳には、焦りと誇りが入り混じっている。
「はい。エドザー王国の協力を、ぜひとも」
ギギ宰相が続ける。
「これは王国の未来を左右する問題でございます。
どうか、我らに手を――」
センナは、そこで一度手を上げ、言葉を制した。
「……これは、サマヴァー王国“全体”の意思なのですか?」
室内の空気が、わずかに揺れた。
スエンの指先が、卓上で止まる。
ギギの尾がぴたりと静止した。
センナは続ける。
「あなたのご兄弟、シンエ王子は北部で軍を率いている。
ブケン王子は王都で貴族派をまとめている。
その中で、あなたが単独で動いているのだとしたら……
我々が支援すれば、内政に踏み込むことになる」
スエンは目を閉じ、深く息を吸った。
そして、ゆっくりと口を開く。
「私は……民を飢えさせるわけにはいきません」
その声は、先ほどよりもずっと静かだった。
だが、揺るぎない芯があった。
「兄弟がどう思おうと、私は王家の一員として責務を果たす。
民のために動くことを、誰にも止めさせません」
センナはその言葉に、わずかな痛みを覚えた。
スエンは追い詰められている。
だが、それでも折れない。
ミツトーが横から口を挟む。
「エドザーとしても、飢餓が広がれば国境の安定に影響します。
支援自体は検討できます。ただし――」
センナはミツトーの言葉を引き継いだ。
「“王国政府の正式承認”が必要です」
スエンの瞳が揺れた。
「……兄弟の承認を、ということですか」
「ええ。あなた個人への支援では、内政干渉と見なされる可能性がある。
それは、あなたにとっても不利でしょう」
スエンは唇を噛んだ。
だが、すぐに顔を上げる。
「……わかりました。
私が、兄弟を説得します」
その言葉は、敗北ではなく、決意だった。
センナは静かに頷く。
「エドザー王国は、段階的な食料支援を行います」
「ただし、人道支援として。政治的中立を保つ形で」
スエンの肩が、わずかに震えた。
安堵か、悔しさか、あるいはその両方か。
「……感謝いたします。
この恩は、必ずや王国の未来につなげてみせます」
センナは窓の外に目を向けた。
巡回する獣人兵の影が、夕陽に伸びている。
「あなたが民を想う気持ちは、確かに伝わりました。
だからこそ、私たちも動くのです」
スエンは深く頭を下げた。
その姿は、王女であり、
同時に――飢える民を背負う一人の若き指導者だった。
会談は、緊張と妥協の中で成立した。
•スエンは“外交の成果”を得た
•センナは“内政干渉のリスク”を最小限に抑えた
•両国は“継続協議”という未来への道を残した
そして、
この会談はサマヴァー王国の後継者争いに、
新たな火種を投げ込むことになる。
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