流れ星を拾いました
得意な事など有りはしないがただ、一つ好きな事がある。努守望は昔から文章を書く事が好きな少女だった。工場で働きながら時間があれば執筆して応募する。いつか作品が大賞に選ばれて、デビューする日を信じてそれを繰り返していた。この日も望は翌日が休みの為、徹夜で原稿を書いているところだ。(石はクロンサーの手の内で目覚め、虹色の輝きを放った)望が執筆するのは、主にファンタジー小説。幼い頃から不思議な事を空想するのが好きな望は、本を書く人になりたいと思っていた。書く事数時間、時刻は午前四時過ぎ。膝の上で心地良さそうに眠る愛犬のモカを、空いている方の手で撫でながら筆を動かす。モカの犬種はパピヨン。毛並みの色がモカ色だったので、ストレートに名付けた。「ふぅーっ……」吐息を溢し、ふと窓の外に視線を移す。小説に出てくる月……とは言えないが、まあまあ見映えする半月が浮かんでいる。(平和だな……夢は遠いけど……)ぼんやり眺めていると夜空に一つ、星が流れた。「!」いや……流れたというよりは、ゆっくりと落ちている。星が流れる速度ではなく、花びらが舞い落ちるような感じで落ちているのだ……星が。(おっそ……!え?あれ、ホントに流れ星?)「!チャンスかも!」息ボイスで叫び、モカを起こさないように望は願い事を唱えた。「作家デビュー出来ますように、作家デビュー出来ますように、作家デビュー出来ますように……」三度願い事を唱えるたが、流れ星(?)はまだ落下の途中だ。「クウウ……ン」「あ……モカちゃま、起きたの?」「クウウン」モカはテーブルにある原稿を見て、ソワソワし始めた。「モカちゃま、流れ星よ。でも、随分ゆっくりな流れ星ね」流れ星は進む先をこちら側へと変え、望の部屋の窓を目指して来る。(え……こっちに来る?)頭の中である曲が流れ出す。♪来る……きっと来る、きっと来る……♪(間違いない、向かって来てる?)近付く流れ星。原稿をガン見するモカ。そしてフリーズする望。(恐……!モカちゃまを連れて避難……)しかし、恐くて体が動かない。そしてとうとう流れ星は窓の外、裏側迄到着した。「ひっ!」青ざめる望の側で、モカは変わらず原稿に釘付け。(いる……そこにいる、けど鍵、かけてるから平気……入れない……えっ?)流れ星は外側と内側のサッシの間をすり抜け、部屋の侵入に成功した。「!」どうにも出来ずにいる望に、流れ星は言葉を掛ける。「こんばんはー!お邪魔します。私、月のポケットから参りました流れ星のマタタキです」喋った。「先ほどは願い事をしていただきまして、ありがとうございます。到着まで時間がかかってしまいまして、申し訳ありません」なんとまあ、流暢に話す流れ星だ。(びっくりしたけど……恐くない……。でも、この後の行動どしたら良いの?)「クウウン、クウウン」「はい、勿論ですとも!早速始めましょう」流れ星とモカが会話をしている。「え?何?今の何?」オロオロする望に、流れ星から説明が下される。「失礼、事情を説明致します。望さんは先ほど作家志望の夢を私に託されました。願い事は三度言葉にされました故、望さんとモカさん、そして私との三人(?)で叶える行動をする……という事でございます」「!えっ……ああ、それでモカちゃま、原稿を見てたのね」「クウウン」「さようでございます。私が居れば作家の夢は叶います。叶えてみせますとも!」(流れ星とモカちゃまと自分とで小説を書く……良いかも)「ここに来てくれてありがとう!三人(?)で作家の星を目指しましょう」絆はしっかり深まり、改名したペンネーム『三ツ星』で応募した作品『虹色ファンタジー』は、翌年『幻想小説小箱大賞』で見事準グランプリに輝いた。