最新の曲
その日、俺は友人との食事のため、ご機嫌で車のハンドルを握っていた。
カーオーディオから流れるダウンロードしたての最新の音楽がご機嫌に拍車をかける。
このアーティストは有名だが、別にファンというわけではない。だが、この曲は見事、俺のツボにハマった。
そういう曲は何度でも聞きたいためリピート再生に設定している。
そして今、三回目の再生が始まり、異変はその周回で起きた。
曲に僅かながらノイズが混じる。
「ん?」
疑問に思ったがさほど気になるレベルでもなかったので、そのまま聞き流した。
三周目が終わり迎えた四周目。
先程よりも大きなノイズが入り、曲は聞けたものではない。
「おいおいおい・・・」
さすがに俺は曲を止め、別の曲をかけた。
今度はノイズが混じることはなくクリアな音楽が聞こえる。カーオーディオの故障ではないようだ。
「データが破損したか・・・?」
そして再びあの曲を再生する。
しかし、スピーカーから流れたモノは、最早音楽とは呼べない不協和音の集合体だった。
「わわわわ・・・!」
俺は慌ててオーディオの電源を落とした。
「一体何なんだよ・・・呪われてんのか?この曲・・・」
完全にビビってしまった俺は無音の車内で、突然スピーカーからあの不協和音が流れる妄想に怯えながらも、友人との待ち合わせ場所を目指す。
「どうした?顔が蒼いぞ。」
待ち合わせ場所に到着し、既にその場にいた友人は助手席に乗り込むなり言った。
「あ、あのさ・・・」
俺は今まで起こったことを友人に説明した。
「はあ?・・・ちょっとその曲、聞いていいか?」
そう言って友人は俺の答えも聞かず、カーオーディオの電源を入れる。
「え?おい・・・!」
ワンテンポ遅れて止めようとしたが、オーディオは既に立ち上がり再生準備をしていた。
無意識に全身が強張る。
「・・・えええぇぇええぇえぇぇ・・・」
スピーカーから間延びした人の声が流れ、俺は口から心臓を吐き出しそうになった。
「・・・っ!」
友人も驚いたのかすぐにオーディオの電源をオフにする。
「びっくりした〜・・・普通に怖えな。」
恐怖を誤魔化すように乾いた笑みをこぼす友人。
「何なんだよ・・・完全に呪いじゃねぇか。」
俺は絞り出すように言った。
「いや、呪いじゃない。この音源、動画サイトのMVから取ったやつだろ?」
「そうだけど・・・なんでわかった?」
淡々と話す友人を怪訝に思いながら返す。
「この曲、そういう違法ダウンロードの対策プログラムが入ってるんだわ。一部界隈で話題になってる。」
「対策?この気持ち悪いのが?」
電源の落ちたオーディオを指さし、俺はさらに聞く。
「そう。ちなみにこのまま聞き続けると、曲が入ってるUSBがクラッシュする。」
「そっちも違法じゃねぇかよ。」
俺は率直な意見を述べた。
「だからって訴えたりしたところで、こっちもただじゃ済まない。」
「まあ・・・な。」
友人の正論に、俺は言葉を詰まらせながらも納得する。
「ま、今後も多分こういうのが増えるだろうし、これに懲りたら違法ダウンロードはやめることだね。」
「・・・だな。」
友人に畳み掛けられ、俺は半ば強引に違法ダウンロードは二度としないと違うのであった。