プロローグ
「で、どうするんだ」
見せられた一枚の紙は以前自分が提出したものである。
進路調査票とでかでかと書かれた紙は白紙のままだ。
夕日が差し込む教室の中にいる進路指導課の教師は威圧感があり向かい合う生徒、穂澄秋星は思わず目を逸らした。
「なぁ穂澄。もう高校3年生の春だぞ。なのに勉強どころか進学先も固まっていないってどういうことだ」
(あーめんどくさい。今日は部活もないし、帰ったらゲームのイベントやってガチャ回そうって思ってたのに…)
上の空の秋星を見て教師は溜め息をつく。
「次の面談までに考えが纏まっていなかったら、親御さんにも来てもらうからな」
「はーい」
調査票の紙を奪い取り鞄をひっつかむと、そそくさと教室を出た。
「んな事言われてもなぁ」
家路を歩きながら秋星は進路調査票に目を落とす。
確固たる将来の夢がある訳ではない。
所属しているゲーム部での活動を何かに活かそうとも思わない。
行きたい大学があるわけでもない。
大して必要性を感じない大学に行き、無駄な学費を両親に払わせるくらいなら、進学などしなくていいと秋星は考えていた。
両親も一人息子に進学を求め、良い会社に就職することを望んでいるわけではない。
息子がのびのびと生きて人生を楽しむことが出来るならいい、という思想は今の時代には珍しいタイプだろう。
しかし、そんな両親に甘えているのは事実である。
進学しないにしても、今後どうするかきちんと話し合わなければならない。
「さてと、早く帰ろう」
そう言って進路調査票から顔を上げた瞬間、秋星は思わず立ち止まる。
目の前には真っ暗な街が広がっていた。
(え?さっきまで)
空には夕焼けが広がっていたはず。
学校を出てまだ1、2分だ。
こんな暗闇になるはずがない。
奇妙なのはそれだけではない。
まるで黒いヴェールで空を覆ってしまったかのように、星や衛星などの光が一切見えないのだ。
「なんなんだよ」
傍にある街灯がジジジッと嫌な音を立て、ブツンと消えると完全な闇が秋星を包んだ。
「え、ちょ、なに、なんで、どういうこと」
完全に光が遮断された暗闇世界を体験した事がない秋星はパニックになる。
手探りで何かに捕まろうとしたその時。
「キシキシキシキシキシ」
「グルグルグルグルグル」
「ギチギチギチギチギチ」
何かの生き物が動く音が秋星の耳に入り、体を震わせる。
(か、体がうごかない…)
動けば死ぬ。
その思いが頭を支配した。
ぬらりと湿った何かが手に触れ、声にならない悲鳴が漏れる。
(誰か、誰か誰か誰か誰か助けて助けて助けてッツ!!!)
「助けてッ!!!」
そう叫んだその時、ザンッと何かが切れる音がした瞬間、光が差し込んだ。
「おいッ!無事か!!!」
突然の怒号にわけもわからず震えていると、覆われた暗闇のヴェールが切り裂かれ更に光が差し込む。
その度に正体不明の何かの叫び声がこだました。
「ギェェェェェッッッッ!!!!」
人の姿が確認出来る程の光の空間が出来ると、手が差し出される。
「掴まれ!!!!」
無我夢中でその手を掴むと思いきり引っ張られた。
「失せろ!!!!」
その人が何かを振るうと、闇は完全切り裂かれ消失し、街には光が戻って来た。
おそるおそる目を開けると、黄昏色の空が目に入る。
ほう、と溜め息をつくと安堵のあまり涙が滲んだ。
「おい」
声がの主の方を見ると、そこには長身の男が颯爽と立っていた。
黒いスーツに黒いコートを着たその男は、所謂イケメンの部類に入る顔立ちをしている。
が、どこかヤクザ感が否めない。
ぎょっとしたのは、男の手に握られているのが日本刀であるということだ。
刀から赤い血ならぬ黒いドロドロとしたものが滴っていた。
男は刀を振るい謎のドロドロを振るい落とすと、刀を腰の鞘に納め、秋星の方に歩み寄る。
男の鋭い眼光に秋星は思わず生唾を飲んだ。
「俺の名は緋弾陣一。てめぇに聞きたいことがある」
(あれ、なんか…目が開けられない…)
安堵からか、それとも突然の身体の異変か。
意識が朦朧とする中、緋弾と名乗る男の舌打ちを最後に秋星は完全に意識を失った。
バトル多めですが、ほのぼのとした瞬間もあると思います。
人間味溢れる作品にしたいと思っています。
今後ともよろしくお願い致します。