コンペ本番と地獄の始まりと室伏
先ほど俺は爆発四散した。
今は自分の肉片がべっとりついた室内を拭き掃除中だ。
爆発に一緒に巻き込まれたはずのステラは、何事もないように食事を食べている。
どうやら1000年生きてると豪語するストリーの友人らしく、それなりに不死身らしい。
「不死身のやべー化け物作ったとか言ってたから来てあげたのに、案外脆いのねあなた」
「? どういうことだよ」
「ストリーに頼まれて来てあげたのよ。どうにかしてこいつを浄化して輪廻に還せないか?って」
「へー意外とストリーのやつちゃんとかんがえてくれてたんだな。 てかお前まともに喋れたのか?」
「満腹!」
そういってぱんぱんに張ったおなかを見せるステラ。
どうやらこいつは満腹にならないとまともに会話ができない人種のようだ。どんな人種だよ。
そういやこいつ何喰ってたんだ? 俺は少し気になって皿を覗く。
そこには焦げた肉が大量に入っていた。
「……、おいお前……何喰った?」
「次はもう少しレアで頼む」
俺は身の危険を感じ、外に避難した。
俺が夜に帰ると、ステラはまた会話の通じない駄犬に戻っていた。
俺は鎖を柱に巻き付け駄犬をつないでおく。
やつの存在は忘れることにした。
ストリーは定期的に餌を与えてるようだが、助けようとはしない。
本当にこいつら友人なんだろうか?
そんなこんなで街歩きにもなれた頃、コンペは開催された。
場所は村の中心の大広場。なるほど公開性という訳だ。
審査はその場にいるもの全員がするらしい。
意気盛んなアーデたちに比べやる気のかけらもないストリーと俺。
そのやる気のなさにアーデはキッとにらみつけてくる。
まぁ気持ちも解る。
先行はあちらだ。地元ということもあり不利な先行を願い出てくれた。
やはり高潔な性格をしている。人物としては大変好印象だった。
アーデのプレゼンが始まる。
「今回皆さま、お集りいただき大変ありがとうございます! あの錬金術師の鼻を明かす様をとくとご覧いただきますようよろしくお願いしますわ!」
おうおうばちばちじゃん。
こりゃ相当気合が入っていそうだ。
「それではご覧ください! 我が工房の前衛用ハイエンドモデルでございます! 肩、腰回りには軽くて丈夫なミスリルを採用し高い防御力を発揮しております。またそれ以外はフレイムベアの革を使用し全体的な防御力と火と氷の耐性を強化しました。 収納用の肩口に掛けるベルトを採用しナイフなども瞬時に取り出しやすくなっております!」
そういうと大男が現れ剣を取り出し、鎧に近づいていく。
どうやら防御力を実演するようだ。
袈裟切り、横薙ぎ、突き。悉くを鎧は傷一つなく受けきる。
その様子に場内は歓声をもって答える。
また、今度は魔術師が出てきて炎と氷の魔法を唱えるが、これまたちょっと焦げ付いたぐらいで性能には問題なさそうである。
ユーザー目線。まさにそういった工夫がみられる一品だった。獣系の魔物は腰中心に向けて噛みついてくることが多いし、肩は咄嗟に防御に使いやすい。
全体的な防御力も十分ありそうだ。機能性も抜群と非の打ちどころがない完璧な仕上がりだと素人目にも思う。
アーデはこちらに、「どうだ?」といった表情を向けてくる。
確かにこの割れんばかりの拍手はすごい。
正直、ストリーはやりにくいだろうなと他人事のようにおもった。
実際他人事だし。
ストリーはアーデと交代で壇上に上がっていく。
特に気負いはないようだ。
「やぁやぁみなさん。 茶番に付き合わせて悪いと思っている。そこの小娘に現実を教えてやろうと思うのでどうかもう少しだけお付き合いいただけるかな?」
会場がどっと沸く、こちらもバチバチだ。
掴みは悪くないようだ。
ストリーが作成した装備一式が運び込まれる。
それはなんの変哲もない蛇革の皮鎧。シンプルに鞣して形を整えただけの代物に見える。
「こちらは皮鎧だ。ベースは火炎洞窟の低層ボス、サラマンダーボア。それに氷河蝶の羽、雷鱗魚の鱗、風神の息吹、剛鐵鉱の特性を混ぜ合わせて整形した。斬撃は雄に及ばず、打撃にも強い。さらに4属性の完全耐性を獲得している。
軽さも余計な装飾をつけていないから圧倒的に軽い。 おい、そこの冒険者ちょっときて」
そういうと前列にいた冒険者を呼び出すストリー。
そして俺も呼び出される。俺に鎧を着せると、ストリーは冒険者に攻撃してみるように促した。
「いやなんも聞いてねーんだが!」
俺はその一撃を横に飛んで回避する。
静まり返る場内。観客の視線が痛い。
「わかったよ……。 喰らえばいいんだろ」
もう一度、仕切り直し。
冒険者の剣の一撃を鎧の腕部分で受ける。
今度はちゃんと食らった。
すると、冒険者の剣が見事に砕け散ったのだった。
どよめく観客。アーデは大口を開けてドン引きしている。
その砕けた剣をストリーは拾うと一息で元に戻して、呆気に取られた冒険者に返す。
「ご覧いただけただろうか? これが錬金術の力だ、私はこの力を君たちに提供しようじゃないか! ありがとう!」
そういうと悠々と席に帰るストリー。その表情は、勝ちを確信していた。
そして投票が始まった。結果は、ストリーの圧勝。
アーデは心底悔しがっている。
「小娘力の差がわかったか! はーはっはっは!」
悪役みたい、完全な悪役だがストリーは高らかに勝ち名乗りを上げる。
アーデは、その態度に激昂するかと思ったが、
「私たちの完敗ですわ。 もうお好きになさって結構。 私たちは何も言いませんわ」
大人しく引き下がるようだ。しかしそれでは……。
「いやそれは困る。 大体今回そもそも勝負にすらなってないだろ」
「ふっ、魔道具師では錬金術の足元にすら及ばないと……?」
アーデは相当堪えているようだ。
随分やけになっている。
「いやそうじゃねーって、ストリーお前の負けだぞこれ」
「は? なにいってるの? 圧倒的に私が勝っているじゃないか」
「お前こんなの誰に売るつもりだよ?」
その言葉にアーデはぴーんと来たようだ。
「今回は技術発表会じゃねーだろ? 売れるかどうかのコンペだ。 ボスの革使った装備なんかそもそもここの冒険者が何人買えるんだよ?」
すると周りの冒険者たちは、首を傾げ始める。
皆値段について、失念したいたようだ。
「アーデお前の装備いくらで売るんだ?」
「採算ラインぎりぎり、金貨2枚ですわね」
それは中級冒険者の3か月分の収入ぐらい。
ぎりぎり手が届く範囲と思えた。
「だがこっちのは、その数十倍は値が張るだろ?」
これはそもそも勝負になっていないのだ。
需要と供給が一致しない。そういうことだ。
「それでサムあなたはこれをどうしたいのです? 結果は結果でしてよ?」
「技術供与って形はどうだ? 俺たちはあんたらの装備を強化する。 あんたたちはベースを用意する。 そうすりゃ幅広いニーズに答えられえると思うんだが? どうだろうか?」
俺の言葉に思案顔を見せるアーデ。
そして表情が変わると、手を差し出しながら話す。
「そこの魔女は気に食わないですが、あなたの話はたしかに利がありますわね。よろしいですわよ」
「じゃあ今回は引き分けってことで、痛み分けで頼む」
そうしておれはアーデと握手を交わした。
ここに開拓村での問題が一つ解決したのだった。
俺たちは一度拠点の倉庫へ帰る。
打ち上げ前に、少し店の準備をしたかったからだ。
倉庫の扉を開ける。すると異臭がする。
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
聞き覚えのある嫌な音だ。
柱には無数の爪痕、しかし駄犬の姿が見当たらない。
裏口のドアが開いていた。その通り道には点々と破壊したあと、俺は恐る恐る痕跡を追う。音が大きくなる。
裏口をでると、駄犬が倉庫の壁を削っていた。
意味が解らない。
もう我慢の限界だった。
無軌道すぎる人間を何人も抱えていられない。
俺はステラの首についた鎖をひっつかむと、遠心力を加えて回りだす。
そして十分に加速した後、その鎖をはなした。
「あいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
その日ステラは星になった。