生きた鎖と駄犬と爆発オチ
何故あの危険物二号がここにいる?
俺はその事実に、頭を抱えていた。
危険物一号は追い出されても気にした様子もなく飲み続けている。
二号は猫みたいにドアをがりがりと引っ掻き続ける。
なんだこのカオス。
がりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがりがり
「あーもう! うるせぇ!」
俺は根負けし二人を倉庫内にもどした。
うわ、ドアえぐれてんじゃねーか……。
「おいストリー! なんでこんなあぶねーやつ中に入れてんだよ!」
「いやその娘、私の友達なんだ。 100年振りだけど」
酒瓶片手に、さらりと友人だというストリー。
いやあなた、友人足蹴にして無視してたの?
こいつマジロック。
俺は怪訝な目を隠さず、友人と紹介された危険物二号を見る。
その爪からは血が滲んでいる。
どんだけ本気で引っ掻いたんだこいつ……。
相変わらずの狂気に俺は背筋が寒くなるのだった。
「んであんた名前はなんていうんだよ?」
「何ですか? 名前聞いてくるってのはナンパですか? それともアリシア様のすばらしさを知りたい? 知りたいということですね? ああ語りましょう! ええ語り明かしましょう!」
そういいながら、俺に詰め寄り一人で完結したストーリーを垂れ流し始める危険物二号。自己紹介すらまともにできないらしい。
「おい! ストリー! こいつやばいぞ!」
「あーステラ、ステイステイ! もう飯やらんぞ」
「はい! ステラステイします!」
そういうと大人しく犬座りをするステラと呼ばれた女。
もうついてけない……。
「おいストリー……この駄犬すててこい」
俺は出口に右手の親指を向けながらいう。
するとかばう様に危険物二号もとい駄犬に覆いかぶさりさめざめと泣くストリー。
「ちゃんと餌も散歩も連れてくから飼っていいでしょー!」
(いやそれ絶対、三日ぐらいで俺がやることになるだろ絶対)
結局この日は茶番のまま有耶無耶になったのだった。
朝、倉庫の広間に出るとひどい酒の臭いが充満している。
そしてその中心には危険物が二つ。
どうやら、こいつらは俺が眠りについたあとも飲み続けたようだ。
「おい! ストリー! ステラ! 起きろ!」
俺は始末の悪い駄犬を叩き起こす。
どうやら二人は二日酔いの様で、今にも吐きそうな顔で起きだしたのだった。
「さてステラとやら、お前なにしてんの?」
「私はごはんを所望してますが?」
そういうときれいにお座りして待つステラ。
いやそういう事じゃないのだ。
あの危険物一号の友人なのはいいが、なぜ明らかにやばい宗教に入ったこいつがこの村にいるのかそれが問題なのだ。
だが、話の切り出し方に俺は難儀している。
下手なことを言えばまたやばい目つきで迫られ会話にならないことに俺は危惧していた。
「なぁなぁストリーさんや」
「あ~なにぃ? あたし頭痛いんだけど」
(うわぁ超機嫌わりぃ……)
どうやら頼みの綱、(けしてあてにしてはいけない)は役に立たないらしい。
それだけいうとベッドに入りストリーは二度寝し始める。
とりあえずこれまでの行動でやたら食い意地が張っているのはわかる。
下手になつかれるのは嫌だが、俺は餌付けを行ってみることにした。
そういや錬金術でパンが焼けるとか書いてたな。
窯で常時煮詰められた謎の液体から取り出された食品を食べるのは気が引けて作るのを避けていたがこいつに食わすならちょうどいいだろう。
俺は早速準備を開始する。
材料は小麦粉に水それと燃料。
随分とシンプルだ。
俺は小麦と水を窯に紫の毒々しい色をした窯の中に入れ最後に、機械油を入れた。
整備用に仕入れていたものがちょうど目の前にあった。
あとはイメージしながらゆっくりかき回せばいいと書いてある。
俺はふっくら焼きあがった食パンをイメージする。
そして2分ほどすると、窯の中のへらに何かが当たる感覚があった。
俺はそれをへらに乗せ引き上げる。
焼きたての食パンが一斤出来上がった。
錬金術おそるべし、っていうか液体から引き上げたのになんでこんなふかふかなんだこれ……。まったく理解のできない脅威のメカニズムに俺は、昨日のアーデの言葉を思い出す。
(確かに、こんな未知の技術で市場荒らされたら敵わんわな)
俺は機械油製食パンをステラに振舞う。
彼女はそれだけでおいしそうに食べ始めた。
甘味があっておいしいらしい。俺はもちろん遠慮した。
「それで? お前は何しにこの村へ?」
できれば騒動はやめてほしい。
コンペだけで色々面倒なのだ。ここに居つくかも決めかねている。
出来ることなら面倒ごとはしょい込みたくないのだ
そんな俺の気持ちは露知らず、ステラは一言、
「お代わりください」
足りなかったのか図々しくもお代わりを欲求してきたのだった。
俺はこの駄犬に頭を抱えると、以前に作ったちょうどいいものがあったことを思い出す。
用途不明のものだったがちょうどいい。
その名も――生きている鎖。
文字通り、勝手に動く鎖だ。
近場にいる人間の魔力を使い成長するマジックアイテム。
「わかった。飯作るからお前目を閉じろ。 そしたらいっぱいつくってやる」
そういうとステラは素直にお座りをして目を閉じる。
俺は鎖に皮ひもを付けてステラに近寄る。
(こいつ近くで見るとかわいいな……)
浮世離れした水色の髪の美少女に俺は委縮しながらも、首元に皮ひもを付ける。
その異常にステラはすぐに気づいて目を開ける。
見つめ合う二人。しかしすぐに目線を下に向け違和感の元を確認するステラ。
「あのなにしてるんです?」
俺に詰め寄ろうとするステラしかしそれは敵わない。
鎖が突然重くなったのだ。
皮ひもを外そうともがいても無駄だ。 外れない様に作った錬金術の特別製だ。
「魔力を抑えた方がいいぞ? そいつは魔力を食って育つからな! この駄犬! お前にはお似合いだ!」
「いきなり何すんのよ! 私がなにしたっていうんですか? 敬虔なアリシア教徒でしてよ」
「そのアリシア教ってのがやべーんだよ! 人に飯たかってるだけじゃねーか!」
「なぁ! あなた昨日から私の言葉も聞かないで好き勝手言いますわね!
神罰がありますよ!」
「うるせー! 付き合いきれるか! このまま保健所に捨ててきてやる!」
「あーもううるさいいいい! 静かにしろばかども!」
俺たちの口論にストリーが起きだしてきたようだ。
その両手には、火のついた爆弾。
「え?」
「え?」
俺とステラは二人で口を開け、間抜けな声を上げる。
その中心にストリーは爆弾を投げ込み去っていく。
その数瞬後、爆弾は大きな閃光と共に爆発するのだった。
爆発オチなんてサイテー。