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行き倒れと巨乳と大舌戦

呆気なくコンペの出展作品の作成が終わってしまい俺たちは暇を持て余すことになってしまった。

性能チェックはすべきだと思ったが、高々魔道具師が作った道具に負けるはずがないと、自信満々のストリーの言葉に俺は「まぁ困るのはあいつだし」と気にせず日々を過ごしている。


開拓村に来て数日たったが、俺は引きこもりストリーの錬金術のレシピ集を元に色々なものを作成していた。

特にストリーが教えてくれるわけではないが、なかなかに面白い。

概念を抽出し、それを好きにいろんな物に付与するというとんでも技術。

最初は自分の身体のメンテナンスのために覚えようとしたが、確かにストリーが夢中になる理由も何となくわかってきた。

それこそ、燃える性質を持った水や、柔らかい石、果てには命の作成までなんでもやろうと思えばできる超技術である。


「俺ネトゲじゃ生産とかあんま好きじゃなかったけど意外と楽しいなこれ」


しかしこれほどの技術なのになぜ、あの魔道具師のおっぱいさん、確かアー、やば思い出せない。まぁいいやアーなんとかさんは目の敵にしていたのだろう?


コンペ前に会ったら聞いてみるか?

いかんせん調合が楽しすぎて俺は引きこもりっぱなしだ。

少し外に出てみるかと俺はストリーに声を掛け外に出た。


倉庫の扉を開けると、行き倒れ地面に倒れ伏していた。

まぁ開拓村だそんなこともあるか。

まぁそのうちだれか片づけてくれるだろう。

面倒ごとはごめん被る。

俺は無視して、歩き出した。


「おーいトム! 出かけるなら、買えりにこれ買ってきて~!」


ストリーは俺にお使いさせたいようだ。メモをもって追いかけてくる。


「ふぎゃ!」


行き倒れを容赦なく踏みつけてとことこと俺の前に来るとメモを渡して戻っていった。


「ふごっ!」


しっかり帰りも踏むのを忘れない。

俺はその所業にドン引きだった。


「うーわ、ふむか普通?」


俺はため息をついて、街の中心に歩き出した。

しかし、またしてもすぐに足を止めることになる。

先ほどの行き倒れに絡まれたのである。


「ひどくないですか?」


すごい勢いで俺の傍によると開口一番行き倒れはこういった。

土埃に塗れた灰色のローブの怪しい行き倒れは、風体に反し声はかわいらしかった。


「ひどいって、文句はあいつに言ってくれ」


俺は関係ない。全部あいつがやりました。

ていうかこいつ行き倒れの癖に元気だな。


「ひどくないですか? 普通無視しますか? あなた人間として何か大切な物落としてきてませんか?」


なんだろうやたらと圧が強い。これあれだ。隣の西田の奥さんが宗教に嵌ってた時の言葉にそっくりだ。


「いや、だってめんど……。いや、物取りかもしれないし……」


俺はなるべく目を合わさずに反論する。

すると、その行き倒れは、ローブのフードを取り俺の両手を掴んでくる。

フードの下には薄い水色の髪をした美少女がいた。

全体的に細身だが、出てる所は出て全体的に引き締まった身体をしている。

潤んだ瞳で俺を見つめる少女、俺はその美しさに手を払うのを忘れてしまった。

そうだよ。こういうのだよ。でてる所はちゃんと出てる娘、こういうのが異世界転生するなら必要だよなー!うん、うん。 ちんちくりんの危険物なんてやっぱお呼びじゃない。


「人を疑うのは、恥ずべきことですよ? あなたも神の威光の前に、悔い改め懺悔するのです。 そして、贖罪の為に私に食事を施すのです。 さぁ! さぁ! さぁ!」


ぐー! という音を鳴らしながら彼女は鼻息荒く俺をどこかに連れていこうとする。

こいつもだめだ。絶対関わりあいになってはいけない類の人物だ。

俺は咄嗟に腕を跳ねのけ、この危険物2号を置いていこうとする。

しかし、今度は危険物二号は俺の足に縋りつく。

そして泣きながら、


「いやー捨てないでー! あんなに愛してくれたのにー!」


「てめー! ふざけんな! 離せ!くそ!」


道の脇から次々と、人が集まり人だかりが出来上がる。

倉庫のドアからこちらを覗き、口に手を当てくすくす笑うストリーの顔も見えた。

いやお前は助けにこいよ。


「おいおいにーちゃん昼間から痴話げんかか?」


「ひどいねぇ。 あんな若い娘さんを」


野次馬は口々に俺をなじる。

その間に興が乗ったのか、危険物二号はあることないこと口に出し。見事に酷い男に捨てられた少女を演じきっていた。

その演技に、若干俺も悪いことした気持ちになっていた。


「はいはい! そこ邪魔ですわよ!」


その一言で人だかりはモーゼの10戒のシーンの様に割れていく。

どこかで聞いた高飛車な声だ。


「ってあなたですの? まったく……。どこで引っかけたかは知りませんが、邪教の司祭に手を出すとはばかですわねぇ……」


やはり、あー何とかさんだった。

ていうか、邪教の司祭……。明らかにやばそうな肩書だ。


「何ですか! あなたはいきなり出てきて! 我が神、アメリア様を邪教扱いとは! 

神罰が下りますよ! 神罰が!」


その神の名を聞いた瞬間、人だかりは蜘蛛の子を散らすように消え去った。

去り際にみな一様に、神に許しを請うて恐慌状態で走りだす様は余程恐ろしいらしい。

遠くでストリーはがたがたで震えている。

いやだからお前は助けろよ。


「まったくアリシア様を悪く言ったのではありませんわよ! あなた達アリシア教が邪教なのです! 気に食わねばすぐに神罰とがなり立て、ゆすりたかりを善意の寄付と宣う寄生虫のような邪教だと申しているのです!」


「く……! アリシア様はすべてを許して下さる人の守護者なのだ! その教えに準じているのみです! しかし、アリシア様は争いを望みません! なので、ここは退きます! しからばごめん!」


それだけいうと、危険物二号は走り去っていった。


「ありゃ逃げたな」


「ですわね。 あいつらは旗色が悪くなるとすぐに逃げますから」


「いやしかし、たすかったよ! アーなんとかさん」


「あのせめて、お礼を言うなら人の名前ぐらい忘れないでくださる? アーデリンデですわ」


そういうと、胸の立派な物を揺らし名前を再度名乗るアーなんとかさん。


「わかったよアーおっぱい?さん」


「覚える気ないですわね! ぶち殺しますわよ!」


アーなんとかさんはわりとノリがいいらしい。


「とりあえず貸し一つですわね。村を出る前に返してくださいましね」


「あーそりゃ、やっぱコンペで勝つつもりだから?」


「当たり前ですわ。私たちは最高の物を作るつもりです。あなた達を村から叩きだして差し上げますわ」


自信満々の表情で勝利宣言するアーなんとかさん。

よくよく見ると手先は煤で汚れ、眼の下の隈もひどい。

美しい金髪の縦ロールもところどころほつれていた。

寝る間を惜しんで作業しているのだろう。

一瞬で作ってどや顔している危険物一号とは言葉の重みが違う。

俺は正直アーなんとかさんを応援したくなっていた。


「なぁアーなんとかさん? ちょっといいか?」


「ほんと覚える気ありませんね……。 それではアーデと呼んでくださいまし。

アーなんとかなんて珍妙な呼ばれ方は気に食いませんわ。 それでなんですの?」


「アーデね。わかったよ。アーデはなんで錬金術を目の敵にしてんだ?」


すると、アーデの表情は見る見る怒りで歪んでいく。

しかし少しすると笑顔に変わった。


「まぁ技術者のやっかみですわよ。 あれは一部の天才が才能だけで好きに使っている技術ですもの。継承や技術の発展なんかお構いなし。 好き勝手やっているだけのものをいきなり技術屋の領分を犯そうという傲慢さに腹がたって当り前ですわ!」


そういうことか、俺は何の気なしに錬金術を使っているがおそらく才能があるのだろう。

天才が市場を強引に荒らすなんてのは確かに職人からしたら堪ったものではないのだろう。俺は納得した。


後はコンペを見守ろう。

正直ストリーがどれほどのものを作ったのかは知らないが、負けて追い出されたらその時はその時だ。

職人の意地を素直に賞賛すべきだろう。


俺はアーデと別れ、街に買い物へ行く。

ストリーのメモの物を探して、帰るころにはすっかり辺りは暗くなっていた。

そして倉庫のドアを開けると、危険物一号と二号が酒盛りしていた。


混ぜるな危険。俺は二人をドアから放り出すのだった。

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