9. 源さんの話 (妖怪屋敷由来)
源三のインターホンに呼ばれて、茜と風太が入ってきた。
俺の前のソファに並んで、腰をおろす。源三もデスクから俺の隣に移動した。
「さあ、正式に自己紹介でもやろうか。わしが——」
「源さん!」
風太がすかさず言う。
慌てて茜が叱るが、おかまいなしだ。
「だって、みんなそう呼んでるよ。それでこっちが、あか姉で、ぼくが風太。新入りが、らいこう」
「よし、それでいこう」
源さんがニコニコしている。
——おかしいだろう、って。 呼び捨てじゃねェか。
❖
「茜と風太も、知らないことがあるだろうから、いっしょに聞きなさい」
源さんがそう前置きして話す。
「まず、陰で妖怪屋敷と呼ばれているこの建物のことと、みんなに集まってもらった理由を話そうと思う」
わしは若い頃、情報工学や機械工学の勉強をしていた。
そのうち、人工知能にも興味を持った。
研究に熱が入り、会社を持ったこともある。
仕事に没頭しすぎて、家内のことはないがしろだった。
しかし、家内の病気をきっかけに、わしは仕事を辞めた。
終の棲家のつもりで、長い間空き家になっていたこの実家に戻ってきた。
家内と環境のいいこの町で余生を送ろうと考えた。
ここに越してきて、数年後に家内が亡くなった。
子供はいないし、張り合いもなく、ぼんやり過ごしていた。
ある日、どこからともなく、子犬が庭に入って来た。
柴犬のようだった。
首輪はないが、野良犬かどうかも分からない。
少し餌を与えると、翌日もやって来た。
飼い主が見つからぬまま、いつの間にか、住み着いた。
子犬をサスケと名付けた。
しばらくすると、開けっ放しの窓から、カラスが舞い込んで来た。
大きさだけではなく、明らかに普通のカラスではなかった。
「八咫烏のヤッターだ」
風太が親しみを込めて言うと、源さんが頷いて話を続けた。
さらに、不可思議なことが、次から次へと起こるようになった。
庭で、サスケが楽しそうに誰かと遊んでいた。
うちへ来た客か、あるいは、飼い主が現れたのかと思った。
遊び相手を見て、わしは驚愕した。
妖怪だった。
そのうち、どんどん妖怪が増えて、やがて妖怪の寄合所みたいになった。
今では、恐怖心などまるでない。心が休まる、やすらぎの館なのだ。