表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/35

7. 妖怪屋敷


俺は、縁石に座ってスマホをいじっていた。

しばらく待っていると、黒塗りの高級車がスーッと前で停車した。

助手席からサングラスの若い男が降りてきた。

「頼光涼介さん、ですか?」

俺が頷くと、男は、どうぞと言って後部座席のドアをあけた。


運転席の男もサングラスをかけていた。

まるで要人のSP、いや、『逃亡中』って番組のハンターみたいな感じで、背広は着ていないけど、二人ともまったく愛嬌がない。

悠久草庵なんて、古めかしい名前のわりに、迎えに来た車や怪しげな奴らがなんだか不調和だ。少なからず違和感を覚える。


——まあいいや、行ってやろうじゃないか。


車は小高い丘のほうに向かっていた。

三十分ほど走っただろうか。右側の大きな門に、スピードを落とした車が吸い込まれていく。庭には鬱蒼と草木が生い茂っていた。

蝉がせわしなく鳴いている。

池のそばで、少年が犬と遊んでいる。柴犬のようだった。

 

玄関で車が停まると、その少年が駆け寄ってきてドアをあけた。

「らいこう、でしょ。待ってたよ」

——なんだ、こいつ。慣れ慣れしいんだよ。おまけに、呼び捨てじゃねェか。

 

荷物を持ってくれるというので、大きいリュックは俺が持ち、パソコンバッグをまかせた。

「落とすなよ」

少年は白い歯を見せて頷いた。

「お前、あれだろ、風太だろ?」

「そうだよ」 少年が頷いた。

足元でじゃれつく柴犬に、サスケ、ハウスとか言っている。


俺は風太に、あのサングラスたちが何者か尋ねた。

「ここの妖怪屋敷で内緒の仕事をしてるんだ」

さらに風太は小声で、国家機密なんだよ、と付け加えた。

国家機密? 仰々しい言葉だが、それより、風太が言った『妖怪屋敷』のほうが、衝撃的だった。


突然、黒い影がさっと目の前を横切った。

俺はのけぞって、倒れそうになった。

見ると大きなカラスが木の枝に止まった。

「でっかいカラスだなあ」

「『やたがらす』のヤッター、って言うんだ」


玄関に向うとする風太の後ろに続きながら、俺は何度が八咫烏を振り返った。

ここに来る前、妖怪などについて、いろいろ調べていたんだ。

にわか仕込みだったけど、予備知識を仕込んでおくことで、少しでも心を落ち着かせたかった。

八咫烏(やたがらす)については、簡単な記憶しかないが。

日本神話に登場する。偉い人の道案内をした。三本足との説もある。

枝に止まったカラスの足を数えてやろうと思ったが、よく見えなかった。



古風な邸宅を思わせる佇まい。『悠久草庵』と揮毫の、銘木らしき一枚板の看板。屋内に入っていくと、確かに古いが、どこか安らぎを感じる木造の重厚感があった。

廊下で写真の女性に会った。伊賀野茜である。

「いらっしゃい」

ショートカットに笑顔がよく似合う。写真より、遥かに若く見えた。

風太に招き入れられた部屋は、二十坪ほどの大きな窓があるフローリングの部屋だった。

荷物を床に下ろして、並んでソファに腰かけた。

「さっきの、お前の姉ちゃん?」

「そうだよ。あか姉。高校生」

「ふーん。それでお前は、小学生?」

「うん、三年生」

風太は、ひょいと立ち上がり、「おじいちゃん、呼んでくるね」と言って、部屋を出ていった。


——おじいちゃんって、まさか、子泣き爺じゃないだろうな……。

  

ひとり残されると、壁の絵画が、自然と目に入る。

四点の絵画。一点は、大きなカエルの絵。残りの三点は、背景の薄気味悪い藪に溶け込むように、おぼろな輪郭の人影描かれていた。


そういえば、玄関の上がり框にも、大きなカエルの置物が置いてあったな。

悠久草庵の児雷也源三の【児雷也】とは、自来也とも表記される妖術使いで、大きなカエルに乗ったり、変身したりするという伝説があった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ