6. 境港へ 旅行気分で
なんだか心が揺れ動いていた。
なぜ俺でなきゃダメなのか。
子泣き爺たちは今、どんな窮地にあるのか。
行けば分かることなのだ。
それに、交通費や宿泊費などの負担はかからない。
何を、躊躇しているんだ。
俺の心の中で悪魔が囁いた。
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境港市は街をあげて、水木しげるさんの創作キャラクターで、観光客を出迎えている。興味が湧かないはずがない。
伊賀野茜や風太に直接会ってみたい気もする。
俺はうだうだ考えるのが、面倒臭くなってきた。
ヤバそうな仕事なら、帰ってくればいいんだ。
衝動に駆られて、パソコンで飛行機や電車の時間を調べてみた。
もう自分の興味を抑えきれなかった。
俺は、自分自身を諭すように呟きながら、スマホを取った。
伊賀野茜に電話をかけるためである。
八月上旬に境港に行こうと思う、と茜に告げた。
遅くても夕方までには悠久草庵に到着できそうである。
茜はうれしそうに礼を言った。
数日後、茜から現金書留で十万円が送られてきた。
交通費に充当せよ、とのことである。
——旅行気分で行くだけだ。
ためらうことなく、俺はその十万円を財布にしまった。
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米子空港に到着したのは、午前十時三十分頃である。
愛称、米子鬼太郎空港。到着ロビーからさっそく鬼太郎親子のお出迎えだ。
おどろおどろしい妖怪を、親しみやすいキャラクターに変貌させた手腕には、感心するばかりだ。
JR境線。O(霊)番ホームから出発だ。
鬼太郎ファミリーのプリントされた列車で、約三十分、終点の境港駅へ。
夏休みのせいか、観光客が目立つ。YouTuberらしき人もいる。
人々の心を惹きつける独特の世界観。どこか懐かしい、哀愁めいたものを感じさせるのだろう。
水木しげる記念館までのロードマップJR境港駅から水木しげるロードへの略図を見ながら歩いていく。
水木マンガの世界、河童の泉、森にすむ妖怪たち、妖怪神社、神仏・吉凶を司る妖怪たち、家に棲む妖怪たち、そして水木しげる記念館
道の両側に百七十体を超える妖怪のブロンズ像。夜には、ライトアップされるらしい。
水木しげる記念館で、妖怪のオブジェ、写真パネル、映像、洞窟などを堪能して、俺は館をでた。
腹が減っては戦ができぬ、ってことで、食事処を探して空腹を満たした。
「さてと」
伊賀野茜に電話をかけた。
茜『すぐ迎えに行ってもらいます』