5. 頭、おかしい
電話の後、俺はベッドで横になって考えた。
子泣き爺たちを助けてほしい。どうやらこれが案内状の隠された要件のようだ。
なぜ俺に白羽の矢が立ったのかは別にして。
この人たちは俺をからかっているのか、頭がおかしいのか、どっちかだと思うのだが、茜の話しぶりや風太との短い会話に、そんなに悪い奴らじゃなさそうな気がしてならない。
俺は机に向かいパソコンを立ち上げて、まず【悠久草庵】を調べてみた。
草庵というくらいだから、宿泊施設の整った湯宿みたいなものだろう。
けれども、その名前は見当たらなかった。
続いて【子泣き爺】の検索。
これに関しては、水木しげるさんの漫画《ゲゲゲの鬼太郎》の創作上のキャラクターだとばかり思っていたが、なんと、伝説の妖怪であるらしい。
《子泣き爺》
諸説あるらしい。
『児泣き爺』や『児啼爺』との表記もある。
徳島県の山間部で伝承されている。
夜道で赤ん坊のような声がするので、通行人が憐れんで
抱き上げると、しがみついて離れない。
そして最後は、石のように重くなって、抱き上げた人を
押しつぶしてしまう。
——あんまり、いいイメージじゃないな。
でも伝説っていうのは、得てして、そんなものだろう。
それに、押しつぶされた人が善良な人かどうかもわからない。
まあ、俺自身は、水木しげるさん創作の可愛らしい妖怪たちに、とても愛着があるというか好印象を持っているんだ。キャラクターたちの描き方も上手だし。
そもそも、妖怪や幽霊などが本当にいるのかなんて、その方面に疎い俺に、分かる訳がない。
もし存在するのなら、人に迷惑をかけたり憑依したりするのは、やめてもらいたいもんだけど。
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茜の話を思い返せば、子泣き爺さんたちを助けてほしいって言っていた。
つまり、子泣き爺だけじゃないんだ、窮地に追い込まれているのは。
たとえば妖怪イベントで着ぐるみを着た人たちが、何らかの事件に巻き込まれた、っていうのはどうだろう———ダメだ。それは、警察の仕事じゃないか。
いったい、どういうことだろう? なぜ、俺なんだろう?
話を聞いてみたいような気持ちも少しはある。
友達にはできない相談だ。
きっと、俺の頭がおかしくなったと思うだろう。
絶対、内緒。
でも、小学生らしき風太と、おそらくその姉の茜、この姉弟が悪の手先だなんて俺には到底思えなかった。
なぜかふと、俺は節分の豆まきのことを考えた。
鬼は妖怪だ。しかしその存在を信じている者は誰もいない。
それにもかかわらず、豆まきの風習は今でも引き継がれている。
邪気払いの儀式は、簡略化されたとはいえ、各家庭にまで浸透している。
不思議なことだ。
コップの水で痛み止めを一錠飲んだ。歯医者でもらった薬だが、おそらく、頭痛にも効くだろう。