19. ファイナル ラウンド
やっとのことで、パノラマの丘の頂上に辿り着いた。
当初ここに着いた辺りに、駐車場で見たような幾何学模様が浮き出ていた。
全員が、幾何学模様の中に入る。
妖気円の中心で、源さんが何やら語りかけると、地面から光沢のある六角柱の水晶が出てきた。駐車場でメノウに差したあのポイントのようだ。
「さあ、帰ろうか」 源さんが囁いた。
茜が背中のアタッシュケースを床に置く。
円の中心から放射線状に、俺たちは寝転がった。
源さんが、出ていたポイントを差し込んだ。
ポイントが地面にめり込んでいく。
もう遮光用ゴーグルがないので、目を閉じた。
轟音とともに、閃光が走った。
地震のように激しく揺れる。
一瞬浮いた身体が、強く地面に押しつけられた。
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静寂に包まれた。
駐車場の照明が目に入った。
緊張の糸が切れたためか、心身ともに疲労がピークだったからか、誰もすぐに立ち上がれなかった。
座敷童子が見えた。隣に、砂かけ婆がいた。
「おかえり」
——座敷童子。
仲間の妖怪たちと一緒に、九尾の狐をメノウに引きずり込んだ時の経緯を、俺は知らない。
しかし手が足りなかったにしろ、緊急事態だったにしろ、小柄で非力なお前が、
一体何の役に立つ?
笑っちゃうよ。怖くなかったか?
源さんに聞いたら、みんな自分の意志で行動した、と言ってたけど。
強制されてもいないのに、何がお前を突き動かした?
それが気概ってもんならば、俺には無縁のものだった。
でもなぜか格好よく思えた。
ザコのような俺の中にも、果たしてそんな心意気があるのだろうか。
それを知るために、俺はこの旅に出ることを決意した。
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周囲が、ざわついていた。
俺たちを囲うように、大勢の人がいた。
よく見ると、妖怪たちだった。
どこから来たのか、よくもまあ、これほど集まったものだ。
みんなニコニコして、うれしそうだ。歓声を上げる者もいた。
アマビエがいる。子泣き爺もいた。
例のアタッシュケースは、開いていた。
八咫烏のヤッターが飛んできた。
柴犬のサスケは、ちぎれるほど尻尾を振って、風太の顔をなめまわす。
妖怪たちのわずかな隙間から、離れた所に人影が見えた。
若尾美恵子だった。
涙を拭うような仕草が見えた。
そういえば、来月、留学するって言ってたな。
俺は上着の胸ポケットをさぐった。
指先が掴んだのは、お守り袋だった。
そのお守り袋を握りしめて、俺は深い眠りに落ちた。
終わり