17. 鳥獣 アゲイン ~ さらば、ゼウス
トイレから戻って、俺は源さんに聞いてみた。
「初めから、ヘリコプターにすれば良かったんじゃないの?」
「うむ。——あんなのが、居なければな」
源さんは親指を窓の外に向けた。
「わァッ————!」
窓外には、プテラノドンが飛んでいた。目がゼウスをロックオンしている。
「あんなのや、ヒドラ、九尾の狐なんかに、叩き落されればどうなる。アマビエたちを救出するどころじゃないぞ」
その通りだ。空を飛んでいて墜落すれば、その時点でゲームセットだ。
「攻撃しようか?」
「まあ、今のところ襲ってくる気配はない。様子を見よう」
源さんは、バッテリーが残り少ないので、なるべく容量を減らしたくないのだ。 そして、少しでも飛行距離を稼ぎたかった。
「パノラマの丘までは、大丈夫なの?」
「……いや、厳しいな」
「念のためパラシュートをつけようか」
源さんに教えられるまま、俺はパラシュートを装着した。
後ろの二人にも忠告しようとしたとき、風太がやってきた。
「プテラノドンが飛んでるね」
窓から見えたのだろう。
源さんがパラシュートの収納場所を告げると、風太が冷静に言った。
「でも、襲ってこないよ」
「なんで、わかるんだよ!」
俺は緊張で、手のひらがびっしょりだ。
「殿下が、攻撃するなって、注意したから」
「殿下?」
源さんが首をかしげた。
「あのタコちゃんだよ」
風太は、ケロッと言ってのけた。
——タコとか、殿下とか、こいつ何を言ってるんだ。
プテラノドンが方向転換して遠くに去っていく。
❖
「ところで、いま何時?」
俺は源さんに尋ねた。
暗くならないので、時間の感覚がない。
「午後八時じゃ。二十七日の」
あと四時間で、二十七日が終わってしまう。
それから間もなく、バッテリー切れの警報音が鳴りだした。
源さんが、ゼウス特別仕様の予備バッテリーに切り替えた。
飛行中のバッテリー切れを防ぐためだが、予備の容量は少ない。
妖怪円のあるパノラマの丘まで、まだ数キロメートルある。
「着陸しやすい所を探そう」
源さんにそう言われても、なかなか適当な場所が見つからない。
嫌な予感が脳裏をかすめる。
強制的に直接密林に降りるか。最悪、パラシュートか。
いや、湖に降りるほうがまだマシかもしれない。
源さんがドローンを飛ばして、映像で確認した。
「あそこは、どうじゃ」
密集した森の中に、木々のない場所が見えた。
そこまでなら予備バッテリーも、もってくれそうだ。
『着陸するぞ』
源さんが無線で、後ろの二人に伝えた。
❖
思ったよりスペースに余裕はなかったが、ゼウスの人工知能は優秀だった。
スムーズに着陸することができた。
俺なら枝に引っかけて、まともに着陸はできなかっただろう。
感謝するしかないが、ここで俺たちはゼウスとお別れだ。