16. めざせ、パノラマの丘を
俺は、アルタイルをチラッと見た。スモールランプが一瞬点いた。
気づかれないように、少しずつ近づく。
ヒドラは、源さんが相手をしてくれている。
アルタイルのスライドドアが開くのが見えた。
いまだ! 俺は飛び乗った。
『行け——!!!!』
喧嘩は、先手必勝だ。相手にゆとりは与えない。
タイヤが軋む。
グラスホッパーが折れたので、タイヤで走るしかない。
ヒドラは意表を突かれたようだった。この瞬間を俺は待っていた。
アルタイルがヒドラに突進する。
『かぶと虫!!!!』
ヒドラに突撃する寸前アルタイルから、かぶと虫のツノが飛び出る。
かぶと虫のツノ先がヒドラの首を挟む。
ズズッと足裏が地面をこすって、ヒドラが岩に押し付けられた。
ツノ先の二股が、ヒドラの首を挟んでグイグイ締め付ける。
ハンドアームの握力は強烈だ。
——やめろ! ヒドラが叫ぶ。
堪らず、人型ロボットの腕が、かぶと虫のツノを掴む。折られたら、おしまいだ。
『負けるな、アルタイル!』
俺はトグルスイッチを入れて、タッチパネルでフルパワーに切り替える。
レバーを渾身の力を込めて引いた。
グシャ、グシャ、とロボットの首がしなる。
ピーピーピーピー。
車内で、警報が鳴動した。聞いたことのない音だった。
操作盤に点滅箇所がある。
バッテリーが切れかかっていた。
警報が鳴りやんだ時、ロボットが膝をついた。
ヒドラの首が折れ、頭部がドスンと落ちた。
頭部から得体の知らない生物が飛び出した。
淡いピンク色、タコのような大きさ。
ヒドラの正体が現れた瞬間だった。
俺はアルタイルから出て、ロボットの頭を拾った。中は、精密機器のようなものがぎっしり詰まっていた。
それを地面に置いてやると、生物は小走りに頭部に収まった。
骨格はあるようで、軟体動物ではなさそうだ。
手足もタコほど本数がない。
一見してタコに見えたというだけのことで、まったく違う生物だ。
アルタイルはかぶと虫のツノを出したまま、バッテリーが切れていた。
俺は上のほうの短いツノに触れた。
「こっちのは、いらなかったね」
❖
「ヘリコプターで、パノラマの丘に向おう」
源さんの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
ゼウスにそんな機能があるとは、誰も知らされていなかった。
「さあ、急ごうか」
俺たちはゼウスに乗り込んだ。
ベガとアルタイルにはここでお別れだ。
茜は振り返って寂しそうに見ていた。俺も同様の感情だ。
言葉に出来ないほどの愛着が湧いていた。
風太はヒドラが入ったロボットの頭部を胸に抱えていた。
どうするつもりか知らないが、誰もそのことに触れなかった。
助手席に乗った源さんの指示で、俺が運転することになった。
ややこしい操作は、源さんやってくれた。右手は動くのだ。
車の上部からヘリコプターのプロペラが二個出るようになっていた。
俺たちはヘッドホンをつけた。
プロペラが回転し始めた。
ゼウスがふわりと浮き上がる。
眼下に岩山が見える。そして、長く続くジャングル。
目指すは、約二十キロメートル先のパノラマの丘だ。
自動運転に出来ると源さんに言われ、俺はトイレに立った。
奥のソファで風太と茜が熱心に何かを作っている。
茜は横になっていると思っていたのだが。
「もう、いいのかい?」
「はい」 茜はペコリと頭を下げた。




