13. 九尾の狐 №4 ~ 死闘
ザクッザクッザクッ。
ふらふらと立ち上がった九尾の狐が、にじり寄ってきた。
ほとんど目が見えていないはずなのに、ケダモノの執念深さを感じる。
その時、風太が何事か呟き、奇妙な動きを見せた。印の結びのようだ。
俺は、どこかで見たことがあった。この呪文のような言葉と身振りを。
風太が天を指し、静かに囁いた。
風が吹いた。小さな渦が次第にふくらみ、やがて竜巻のようなうねりになった。
源さんの止血を終えた茜も立ち上がった。
茜は九尾の狐に立ち塞がり、大きく手を振り上げた。
炎の塊が一つ二つ、そして無数に増えて、風太の竜巻にのって九尾の狐めがけて飛んでいく。
九尾の狐の体に、火がくすぶり出した。
猛り狂ったように体をくねらせ、最後の力を振り絞り、襲いかかってくる。
茜が飛ばされ、岩に激突した。
「あか姉!」
風太が駆けつける。
頭を打ったのか、茜はぐったりしている。
みるみるうちに、バンダナが血で染まった。
風太は激怒した。
「くっそ————、この野郎!!!!」
鬼の形相だった。
なりふり構わず、九尾の狐に向っていく。
「待て!」
慌てて、俺は風太を止めた。
気持ちは分かる。だが、いくら手負いとはいえ強敵だ。
一筋縄で敵う相手ではない。
❖
今度は俺が、九尾の狐に対峙した。
勝機などなかった。
あるのは、折りたたみ式のサバイバルナイフだけだ。
ジャングルで役に立つこともあるかと思い、内ポケットに忍ばせてあった。
おそらく俺は倒されるだろう。
もとより命を賭す覚悟はできている。
ただし、九尾の狐を道ずれにせねば意味がない。
ここが俺と九尾の狐の墓場か。——それで本望だ。
これまでの人生で、人の役に立ったことなど一つもなかった。
目の前の三人を救えるのなら、この命になんの未練もない。
身体に燃えたぎるような気力がみなぎった。
❖
俄かに天が曇った。
稲妻が走り、雷鳴が轟いた。
いつのまにか、俺の右に二人、左に二人の武者が現れた。
誰か? 知らない。どうでもよかった。
——四天王、只今、見参!
四人のうちの誰かが、そう言った。
九尾の狐が、大きな尾を叩きつけてきた。
四人の武者が刀を構え、その攻撃を跳ね返す。
何度も、何度も、何度も、跳ね返す。
尾が切りつけられ、狐の毛が霧のように舞った。
噛みつこうと、九尾の狐が顔を近づけた時だった。
やにわに、武者の一人が片膝をついて、俺に棒状のものを差し出した。
刀剣だった。
俺は鞘を抜いた。
眩しいほどの神秘の輝きに名刀を感じさせる。
「くらえ!!!!」
上段からの一撃、一太刀を浴びせた。
ギャッ————————!!
九尾の狐は呻き声を上げた。
玉藻前に姿を変えながら、ゆっくりと仰向けに倒れていく。




